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こどもでもゆうしゃです。〜保護者は胃が痛い〜  作者: ちゃーき


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最後の笑顔


朝日が、窓から差し込んできた。


エリカはすでに目を覚ましていた。

いや――正確には、一睡もしていない。


今日が、最後の日。

あの子たちと過ごせる、最後の一日。


エリカは窓の外を見た。

雲一つない青空が広がっている。


まるで、背中を押してくれているみたいだ。

そう思って、エリカは小さく笑った。


今日は、精一杯笑顔で過ごそう。

あの子たちのために。

そして、自分のために。


鏡の前に立つと、少し赤くなった目が映った。

泣いた跡は、まだ消えていない。


冷たい水で顔を洗い、もう一度鏡を見る。

そして、ゆっくりと笑顔を作った。


「大丈夫……私なら、できる」


そう、自分に言い聞かせて。



朝食の時間。

三人は、いつものようにエリカの隣に座った。


「エリカおねえちゃん、おはよう!」


ハルトの元気な声に、エリカは微笑む。


「おはよう、ハルトくん。いい天気ね」


「うん! そとであそびたい!」


「ふふ、そうね。今日はたくさん遊びましょう」


その言葉に、三人の顔が一斉に輝いた。


「ほんと!?」


「ええ。今日は、特別な日にしましょう」


エリカは三人の頭を撫でた。


ティオとダリウスは、その様子を静かに見守っている。

エリカの笑顔は、いつもより眩しかった。


まるで、燃え尽きる前の光のようで。


ティオは胸の奥に痛みを覚えながら、何も言わないことを選んだ。

今日は、エリカと三人の大切な日なのだから。




朝食の後、一行は町の外へ出た。


近くには、広い草原が広がっている。


「わあ! ひろい!」


ハルトが草原へ駆け出し、ユイも楽しそうに走り回る。


レイアだけは、エリカの手を握ったまま、ゆっくり歩いていた。


「レイアちゃん、走らないの?」


「……エリカおねえちゃんと、いっしょがいい」


「ありがとう」


エリカは優しくレイアの頭を撫でた。


しばらく歩いた後、レイアがぽつりと呟く。


「……きょうは、とくべつなひ?」


「どうして、そう思うの?」


「……なんとなく」


エリカは少し考え、それから微笑んだ。


「そうね。今日は特別な日よ。たくさん遊べる日」


「……うん」


レイアは頷いたが、その表情には不安が滲んでいた。




草原で、エリカは魔法を使った。


空中に、色とりどりの光の蝶が舞う。


「わあ、きれい!」


ユイの声に、蝶たちは楽しそうに飛び回る。


ハルトが手を伸ばすと、一匹の蝶が指先に止まった。


「すごい! つかまえた!」


「ふふ、優しくね」


次に、エリカは地面に魔法をかけた。

すると草原一面に花が咲き誇る。


「……すごい」


「全部、まほう?」


「ええ。でも、すぐに消えてしまうわ」


「きれいだね」


「だから、今を楽しまないとね」


エリカは花を摘み、三人に一輪ずつ渡した。


その笑顔を見て、胸が温かくなる。


――この瞬間を、見られてよかった。


心から、そう思った。




昼過ぎ、草原で昼食を取った。


「いただきまーす!」


元気よく食べる三人を、エリカは穏やかに見つめる。


「エリカおねえちゃん、おいしい?」


「ええ、とても」


「ティオさんの料理、いつも美味しいわね」


「ありがとうございます」


ティオは、複雑な表情で答えた。


エリカは、いつもより多く話した。

旅の思い出、好きなもの、どうでもいい話。


一つ一つを、心に刻み込むように。


消えてしまっても、魂のどこかに残るように。




午後は、魔法の練習をした。


ハルトは小さな炎を灯し、ユイは防御魔法を成功させた。


「すごいわ、二人とも」


レイアは虹色の光を生み出す。


「きれい……」


「レイアちゃんの魔法は、本当に美しい」


エリカはレイアを抱きしめた。


「あなたは特別よ。優しくて、強い子」


レイアは何かを言いかけ、首を振った。

その瞳には、涙が浮かんでいた。




夕方、丘の上から町を見下ろした。


オレンジ色の空が、すべてを包む。


「ずっと、いっしょにいてね」


ハルトの言葉に、胸が締めつけられる。


「ええ。ずっと一緒よ」


優しい嘘を、エリカは選んだ。


ユイが抱きつき、レイアは静かに手を握る。


「ありがとう」


その一言に、エリカの目から涙が零れた。




夜。

三人はエリカと一緒に眠りについた。


レイアだけが、最後まで起きていた。


「エリカおねえちゃん……かなしそう」


「大丈夫よ」


そう言って、エリカはレイアを抱きしめた。


レイアは声を殺して泣いた。

エリカは、ただ背中を撫で続けた。


ありがとう。

気づいてくれて。




深夜。

エリカはそっと部屋を出た。


廊下には、ティオとダリウスが待っている。


森の中で、エリカは穏やかに微笑んだ。


「私、幸せでした」


最後に家族ができた。

それだけで十分だった。


「ありがとうございました」




黒い霧がエリカを包む。


だが、彼女は叫んだ。


「今です!」


ダリウスの剣が閃き、光がすべてを包んだ。


「ありがとう……」


エリカは微笑み、光となって消えた。


ティオは膝をつき、泣いた。

ダリウスは静かに頭を垂れた。


月だけが、二人を照らしていた。



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