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こどもでもゆうしゃです。〜保護者は胃が痛い〜  作者: ちゃーき


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25/29

森の魔導師

グランベルの村を出て二日目の午後、一行は深い森の中を進んでいた。

街道は狭く、木々が鬱蒼と茂っている。陽光が枝葉の隙間から差し込み、地面に複雑な影の模様を作っていた。

「ティオにいちゃん、このもり、くらいね」

ユイが、少し不安そうに窓の外を見ながら言った。

「ああ。でも、もうすぐ抜けるはずだ」

ティオは、地図を確認しながら答えた。この森を抜ければ、次の町――アルトベルクに到着する予定だ。

馬車の中では、ハルトが木剣を振り回していた。

「えい! やー!」

「ハル、馬車の中で暴れるな。ユイやレイアにぶつかったらどうするんだ」

「ごめんなさい」

ハルトは、素直に木剣を下ろした。

レイアは静かに、窓の外を見つめていた。

「レイア、どうした?」

ティオが尋ねると、レイアは小さく首を傾げた。

「……なにか、いる」

「何かって――魔物か?」

「……ちがう。ひと」

レイアの言葉に、ティオは馬車を止めた。

ダリウスも、馬から降りた。

「どうした?」

「レイアが、誰かがいると」

「……ふむ」

ダリウスは、周囲を警戒しながら森の中を見回した。

確かに何か、気配がする。


「あそこ」

レイアが、森の奥を指差した。

ティオとダリウスは、剣を抜いて慎重に近づいた。

そして――

「これは……」

森の木陰に、一人の女性が倒れていた。




「大丈夫ですか!?」

ティオは、急いで女性に駆け寄った。

若い女性だった。おそらく二十代前半だろう。長い黒髪が地面に広がり、顔色は青白い。魔導師のローブを纏っているが、あちこちが破れ、血で汚れていた。

「ひどい傷だ……」

ダリウスも、女性の状態を確認した。

腕には深い裂傷があり、足にも打撲の痕が見える。意識はない。

「ユイ! 来てくれ!」

ティオが叫ぶと、ユイが馬車から飛び降りてきた。

「どうしたの!?」

「この人が怪我をしている。治してあげてくれ」

「うん!」

ユイは、女性の隣に座り込んだ。小さな手を女性の傷にかざす。

「いたいの、いたいの、とんでけ」

温かい光が、女性を包んだ。

傷が――みるみる治っていく。深い裂傷が塞がり、打撲の痕も消えていく。

「すごいな……」

ダリウスが、感心したように呟いた。

「何度見ても、驚くべき力だ」

ユイの治癒が終わると、女性の顔色が少し良くなった。

だがまだ、意識は戻らない。


「とりあえず、馬車に運ぼう」

ティオとダリウスは、女性を馬車まで運んだ。

ハルトとレイアが、心配そうに見ている。

「このおねえちゃん、だいじょうぶ?」

「ああ、ユイが治してくれたから、大丈夫だ」

「よかった……」

ハルトは、安心したように息を吐いた。

レイアはじっと、女性を見つめていた。

「……レイア?」

「……なんでもない」

レイアは、小さく首を横に振った。

だが――その表情には、何か引っかかるものがあるようだった。




女性が目を覚ましたのは、それから数時間後のことだった。

一行は、森を抜けて街道沿いの空き地で休憩を取っていた。焚き火を囲み、簡単な夕食を取っているところだった。

「……う……」

馬車の中から、小さな呻き声が聞こえた。

「目を覚ましたようだ」

ダリウスが立ち上がった。

ティオも、馬車に近づいた。

女性は――ゆっくりと目を開けた。

「……ここは……?」

「大丈夫ですか? 気分は?」

ティオが尋ねると、女性は混乱した様子で周囲を見回した。

「私は……どうして……」

「森で倒れていたんです。僕たちが保護しました」

「……森……?」

女性は、頭を押さえた。

「思い出せない……」

「無理に思い出さなくていいです。まずは、体を休めてください」

ティオは、女性に水筒を差し出した。

「ありがとう……ございます」

女性は、水を飲んだ。少しだけ、顔色が良くなった。

「あの……私は……」

女性は、自分の手を見た。

「名前は……エリカ。エリカ・フォンタナ」

「エリカさん、ですね。僕はティオ・ランベールです」

ティオは、自己紹介をした。

「こちらは、ダリウス・グレイウルフ。そして――」

ティオは、三人を紹介しようとしたが、三人はすでにエリカの周りに集まっていた。

「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

ハルトが、心配そうに尋ねた。

「ユイが、なおしてあげたの!」

ユイが、自慢げに言った。

「……おねえちゃん、いたくない?」

レイアが、小さく尋ねた。

エリカは――三人を見て、少し驚いた様子だった。

「こんなに小さい子たちが……?」

「ああ。この子たちは――まあ、色々事情がありまして」

ティオは、苦笑した。

エリカは――三人の顔を見て、少しだけ表情を和らげた。

「ありがとう……みんな」

「えへへ!」

ハルトが、嬉しそうに笑った。




焚き火の周りで、エリカは自分の状況を説明しようとした――が、ほとんど覚えていなかった。

「魔導師だということは分かります。魔法も……たぶん、使えると思います」

エリカは、手のひらに小さな火を灯してみせた。

「でも……それ以外のことが……思い出せない」

「記憶喪失……ですか」

ダリウスが、腕を組んで考え込んだ。

「おそらく、何らかの攻撃を受けて、記憶に障害が出たのでしょう」

「……そうなのかもしれません」

エリカは、頭を押さえた。

「時々……頭が痛くて……」

「無理に思い出さない方がいいかもしれませんね」

ティオが言った。

「ゆっくり休めば、そのうち記憶も戻るかもしれません」

「……はい」

エリカは、小さく頷いた。

その時、ハルトがエリカの隣に座った。

「ねえ、おねえちゃん」

「……なあに?」

「おねえちゃんの、なまえは?」

「エリカよ」

「エリカおねえちゃん!」

ハルトは、嬉しそうに笑った。

「ハル、ハルト! よろしくね!」

「……よろしくね、ハルトくん」

エリカは、小さく微笑んだ。

ユイも、エリカの隣に座った。

「ユイは、ユイだよ!」

「ユイちゃん、ね。可愛い名前」

「えへへ」

ユイは、照れくさそうに笑った。

レイアは少し離れた場所から、エリカを見つめていた。

「お嬢ちゃんは、恥ずかしがり屋さん?」

エリカが尋ねると、レイアは小さく首を横に振った。

「……ちがう」

「じゃあ、こっちにおいで」

エリカが手招きすると、レイアはゆっくりとエリカに近づいた。

「……レイア」

「レイアちゃん、ね。よろしく」

エリカは、レイアの頭を撫でた。

その瞬間――レイアの表情が、少しだけ変わった。

「……」

レイアは、じっとエリカを見つめた。

エリカは――その視線に、少し戸惑ったようだった。

「……どうしたの?」

「……なんでもない」

レイアは、小さく首を横に振った。

だがその表情には、何か複雑なものが浮かんでいた。




その夜、ティオとダリウスは少し離れた場所で話していた。

「エリカさんのこと、どう思いますか?」

ティオが尋ねると、ダリウスは少し考えてから答えた。

「……分からん」

「分からない?」

「ああ。記憶喪失というのは本当だろう。だが――」

ダリウスは、焚き火の方を見た。エリカは、三人と一緒に座っている。

「何者なのか、どこから来たのか――まったく分からない」

「……そうですね」

「警戒は怠るな。だが」

ダリウスは、ティオを見た。

「今すぐ疑う必要もない」

「はい」

ティオは、頷いた。

確かに、エリカは怪しい点がある。だが――あの傷は本物だった。そして、三人に対する態度も、優しかった。

「様子を見ましょう」

「ああ」

二人は、焚き火の方へ戻った。




焚き火の周りで、エリカは三人と話していた。

「エリカおねえちゃん、まほうつかえるの?」

ハルトが、目を輝かせて尋ねた。

「ええ。火の魔法が得意みたい」

エリカは、手のひらに小さな火の玉を作ってみせた。

「わあ! すごい!」

ハルトが、拍手した。

「ユイもね、まほうつかえるの!」

ユイが、自慢げに言った。

「ユイは、いたいのなおすまほう!」

「そうなの。さっき、私を治してくれたのよね」

エリカは、ユイの頭を撫でた。

「ありがとう、ユイちゃん」

「えへへ」

ユイは、嬉しそうに笑った。

レイアは静かに、エリカを見つめていた。

「……レイアちゃんは、魔法使えるの?」

エリカが尋ねると、レイアは小さく頷いた。

「……ちょっとだけ」

「どんな魔法?」

「……ひかりの、まほう」

「光の魔法……すごいわね」

エリカは、感心したように言った。

だが――レイアの表情は、まだどこか硬かった。

「……エリカおねえちゃん」

「なあに?」

「……なんでもない」

レイアは、首を横に振った。

エリカは―少し不思議そうにレイアを見つめたが、それ以上は聞かなかった。




寝る前、ティオはエリカに尋ねた。

「エリカさん、これからどうするつもりですか?」

「……分かりません」

エリカは、困った顔をした。

「記憶もないし、行く当てもない……」

「なら――」

ティオは、少し考えてから提案した。

「一緒に来ますか? 次の町まで」

「え……いいんですか?」

「ええ。どうせ同じ方向ですし」

ティオは、三人を見た。

三人は、すでに眠っている。

「それに……この子たちも、エリカさんのことを気に入っているようですし」

「……ありがとうございます」

エリカは、小さく頭を下げた。

「ご迷惑をおかけします」

「いえ、構いませんよ」

ティオは、笑顔で答えた。

だが心の中では、少しだけ警戒していた。

エリカは、本当に記憶喪失なのだろうか。

それとも――何か、隠しているのだろうか。

ティオには、まだ分からなかった。




その夜、エリカが眠りについた後。

レイアが、小さくティオに話しかけた。

「……ティオにいちゃん」

「ん? どうした、レイア」

「……エリカおねえちゃん」

「エリカさんが、どうした?」

「……なんか、へん」

レイアの言葉に、ティオは少し緊張した。

「変? どう変なんだ?」

「……わかんない。でも……」

レイアは、エリカが眠っている方を見た。

「……においが、ときどき、ちがう」

「匂いが違う……?」

「うん。やさしいにおいのときと……」

レイアは、少し怯えたように続けた。

「……こわいにおいのときが、ある」

「……そうか」

ティオは、レイアの頭を撫でた。

「分かった。気をつけておく」

「……うん」

レイアは、安心したようにティオにもたれかかった。

「……ティオにいちゃんがいれば、だいじょうぶ」

「ああ。オレが、お前たちを守るから」

ティオは、そう言いながら――えリカの方を見た。

エリカは、静かに眠っている。

穏やかな寝顔だ。

だが本当に、ただの記憶喪失なのだろうか。

レイアの言葉が、ティオの心に引っかかった。

「匂いが、時々、違う」

それは一体、何を意味しているのだろうか。

ティオは――その答えを、まだ知らなかった。




翌朝、一行は出発の準備を始めた。

エリカも、すっかり回復していた。

「昨夜は、ありがとうございました」

エリカが、ティオに頭を下げた。

「いえ、気にしないでください」

「あの……本当に、一緒に行ってもいいんですか?」

「ええ。むしろ、一人で森を歩くのは危険です」

ティオは、馬車を指差した。

「狭いですが、馬車に乗ってください」

「……ありがとうございます」

エリカは、馬車に乗り込んだ。

三人が、すぐに近づいてくる。

「エリカおねえちゃん、いっしょにいこうね!」

ハルトが、嬉しそうに言った。

「ええ、よろしくね、ハルトくん」

「エリカおねえちゃん、ユイのとなり、すわって!」

ユイが、自分の隣を叩いた。

「ありがとう、ユイちゃん」

エリカは、ユイの隣に座った。

レイアは――少し離れた場所から、エリカを見ていた。

「……レイアちゃんも、こっちにおいで」

エリカが手招きすると、レイアはゆっくりと近づいた。

「……」

レイアは、エリカの隣に座った。

エリカは、レイアの頭を優しく撫でた。

「これから、よろしくね」

「……うん」

レイアは、小さく頷いた。

だがその表情は、まだどこか硬かった。

ティオはその様子を見て、少し不安を感じた。

レイアは、何かを感じている。

だが、まだ確信できないようだ。

ティオも――様子を見ることにした。




馬車が動き出した。

エリカは、窓の外を眺めていた。

「……きれいな景色」

「ええ。この辺りは、まだ戦争の影響が少ないですから」

ティオが答えると、エリカは少し驚いた顔をした。

「戦争……?」

「ええ。帝国と亜人連合国の戦争です」

「……そうなんですか」

エリカは、何かを思い出そうとするように頭を押さえた。

「……戦争……」

「無理に思い出さなくていいですよ」

「……はい」

エリカは、頭を下げた。

ハルトが、エリカに話しかけた。

「ねえ、エリカおねえちゃん」

「なあに?」

「おねえちゃんは、どこからきたの?」

「……ごめんね。覚えてないの」

「そっか……」

ハルトは、少し残念そうだった。

「でも、いまはいっしょだから!」

「……そうね」

エリカは、小さく笑った。

「今は、みんなと一緒」

その笑顔はとても、優しかった。

ティオはその笑顔を見て、少しだけ安心した。

少なくとも、エリカは悪い人ではなさそうだ。

だが――レイアの言葉が、まだ心に引っかかっていた。


「匂いが、時々、違う」


それは一体、何を意味しているのだろうか。

ティオはその答えを、まだ知らなかった。

馬車は――次の町へ向かって、ゆっくりと進んでいく。

木々の間を抜ける風が、馬車を優しく撫でていった。

だが――その風の中には、どこか不穏な気配が混じっているような気がした。

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