表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こどもでもゆうしゃです。〜保護者は胃が痛い〜  作者: ちゃーき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/29

束の間の安らぎ

灰色の空が、少しずつ明るくなっていく。

ティオは宿の窓から外を眺めながら、小さく息を吐いた。魔王ザルガンとの遭遇から三日が経った。あの圧倒的な魔力、底知れぬ威圧感――今でも思い出すと、背筋が凍る。

幸い、三人は無事だった。それどころか、あの魔王を退けたのだ。無意識のうちに発動した力だったとはいえ、その事実は変わらない。

だが――それがティオの不安を増幅させていた。

「次に来る時は、もっと強大な力で来るだろう」

ダリウスの言葉が、頭の中で繰り返し響く。

魔王は、必ず戻ってくる。そして次は――

「ティオにいちゃん?」

背後から声をかけられ、ティオは振り返った。ハルトが、眠そうな目をこすりながら立っていた。

「ああ、おはよう。もう起きたのか?」

「うん。おなかすいた」

ハルトは素直に答えた。その無邪気な様子に、ティオは少しだけ気持ちが和らいだ。

「そうか。じゃあ、朝ごはんにしよう」

「やったー!」

ハルトの声で、ユイとレイアも目を覚ました。

「おはよう、ティオにいちゃん」

「……おはよう」

三人は、いつもと変わらない様子だった。魔王との戦いのことは、ほとんど覚えていないようだ。それが良いことなのか悪いことなのか、ティオには判断がつかなかった。

ただ――この笑顔を守りたい。

ティオは、改めてそう思った。




朝食を済ませた後、一行は村の中を散策することにした。

ここは、グランベルという小さな村だ。帝国の東部に位置し、戦争の影響はほとんど届いていない。人々の表情は穏やかで、街道を行き交う商人たちの声にも活気があった。

「わあ! あそこになにかある!」

ハルトが、村の広場を指差した。広場には、露店が立ち並んでいる。果物や野菜、手作りの雑貨――色とりどりの商品が、陽光を浴びて輝いていた。

「市場だな。見てみるか?」

「うん!」

三人は、目を輝かせて駆け出した。シロも、嬉しそうに三人の後を追いかける。

「クゥーン!」

「シロ、まてまて!」

ティオとダリウスは、三人が迷子にならないよう、後ろからついていった。

「ティオ、少し疲れているようだな」

ダリウスが、小声で言った。

「……少しだけ」

ティオは、正直に答えた。

「魔王のことが、頭から離れなくて」

「そうだろうな」

ダリウスは、前方を見つめた。三人が、果物屋の前で楽しそうに話している。

「だが――今は、この時間を大切にしろ」

「……え?」

「この子たちは、今を楽しんでいる」

ダリウスは、ティオを見た。

「未来の不安に囚われるな。今、この瞬間を――この子たちと一緒に、楽しめ」

「……はい」

ティオは、頷いた。

ダリウスの言葉は、いつも的確だ。そして――優しかった。




市場で、三人は思い思いに品物を見て回った。

ハルトは、木で作られた剣のおもちゃに夢中になっていた。

「ティオにいちゃん、これ! かっこいい!」

「ああ、よくできてるな」

「ほしい!」

「……分かったよ」

ティオは、店主に銅貨を数枚渡した。ハルトは、嬉しそうに木剣を振り回している。

「えい! やー!」

「ハル、人にぶつけるなよ」

「はーい!」

ユイは、花屋の前で立ち止まっていた。色とりどりの花が、籠に入れられて並んでいる。

「きれいだね」

「ああ、きれいだな」

ティオが答えると、ユイは小さな黄色い花を指差した。

「この花、ママがすきだったの」

「……そうか」

ティオの胸が、少し痛んだ。

ユイの母親――元の世界にいる、ユイの本当の家族。

この子たちは、時々そうやって元の世界のことを思い出す。そして、寂しそうな顔をする。

「ユイ、この花が欲しいか?」

「……いいの?」

「ああ」

ティオは、花を買ってユイに渡した。

「ありがとう、ティオにいちゃん」

ユイは、花を大切そうに抱きしめた。その笑顔を見て、ティオは少しだけ救われた気がした。

レイアは、雑貨屋の前で、小さな本を見つめていた。

「……これ、なに?」

「ああ、それは絵本だ」

店主が、優しく答えた。

「お嬢ちゃん、字は読めるかい?」

「……ちょっとだけ」

「なら、これをあげよう」

店主は、絵本をレイアに差し出した。

「え……いいの?」

「ああ。可愛いお嬢ちゃんへのサービスだ」

「……ありがとう」

レイアは、絵本を受け取って、嬉しそうに微笑んだ。

ティオは、その様子を見て――少しだけ、心が温かくなった。




昼過ぎ、一行は村の外れにある丘に登った。

丘の上からは、村全体が見渡せる。赤い屋根が連なり、煙突からは煙が立ち上っている。遠くには森が広がり、さらにその向こうには山々が連なっていた。

「すごい! たかい!」

ハルトが、興奮した様子で叫んだ。

「ああ、高いな」

「ティオにいちゃん、あそこに鳥がいる!」

「本当だ。鷹かな」

ティオは、ハルトが指差す方向を見た。確かに、大きな鳥が空を旋回している。

ユイは、花を摘んでいた。丘の斜面には、小さな白い花がたくさん咲いている。

「きれいな花がいっぱい」

「ああ。ユイは、花が好きだな」

「うん! 花はね、みんなをしあわせにするの」

「……そうだな」

ティオは、ユイの言葉に頷いた。

確かに、花を見ると心が和らぐ。この戦争の時代でも、花は変わらず咲き続ける。それは――希望のようなものかもしれない。

レイアは、丘の頂上で、風に吹かれていた。

「……きもちいい」

「ああ、気持ちいいな」

ティオも、レイアの隣に座った。

風が、優しく二人を包む。遠くから、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「……ティオにいちゃん」

「ん?」

「このへいわ、ずっとつづけばいいのに」

レイアの言葉に、ティオは少し驚いた。

「……そうだな」

「でも……」

レイアは、遠くを見つめた。

「……なにか、くる」

「……え?」

ティオは、レイアを見た。

「何が来るんだ?」

「……わかんない。でも、なにか、おおきいものが」

レイアの言葉に、ティオの胸が冷たくなった。

レイアの予感は、いつも当たる。

もし――魔王が、また来るのだとしたら。

「大丈夫だ」

ティオは、レイアの頭を撫でた。

「何が来ても、オレが守るから」

「……うん」

レイアは、小さく頷いた。

その表情には――まだ、不安の色が残っていた。




夕方、一行は宿に戻った。

夕食は、宿の食堂で取ることにした。村の料理は素朴だが、温かくて美味しかった。

「おいしい!」

ハルトが、スープを飲みながら言った。

「うん、おいしいね」

ユイも、笑顔で頷いた。

レイアは、静かに食事をしていた。だが------時々、窓の外を見ている。

「レイア、どうした?」

「……なんでもない」

レイアは、首を横に振った。

だが、ティオには分かった。レイアは、何かを感じている。

食事が終わり、三人は部屋に戻った。

ティオは、三人に服を着替えさせ、歯を磨かせた。毎日の日課だ。

「はい、終わり。じゃあ、寝よう」

「うん!」

三人は、一つのベッドに並んで横になった。シロも、三人の足元で丸くなる。

「ティオにいちゃん、いっしょにねて」

ユイが、ティオの服の裾を引いた。

「ああ、一緒に寝るよ」

ティオも、ベッドに横になった。三人に囲まれて、少し窮屈だが――それが、心地よかった。




夜、焚き火の前で――というわけにはいかないので、部屋の中で、三人と話をすることにした。

窓の外には、満月が浮かんでいる。月明かりが、部屋を優しく照らしていた。

「ねえ、ティオにいちゃん」

ハルトが、ティオを見上げた。

「なんだ?」

「かぞくって、なに?」

「……家族?」

ティオは、少し驚いた。

「どうして、そんなことを聞くんだ?」

「だって……」

ハルトは、少し考えてから答えた。

「ハルね、パパとママがいた。もとのせかいに」

「……ああ」

「でも、いまは、いない」

ハルトの声は、少し寂しそうだった。

「でも、ティオにいちゃんと、ダリウスおじさんと、ユイと、レイアと、シロがいる」

「……うん」

「これも、かぞく?」

ハルトの問いに、ティオは少し考えた。

家族とは、何だろう。

血の繋がり? それとも――

「……ああ、家族だ」

ティオは、ハルトの頭を撫でた。

「家族っていうのは――血が繋がってるとか、そういうことじゃない」

「じゃあ、なに?」

「一緒にいて、幸せだと思える相手」

ティオは、三人を見た。

「お前たちと一緒にいると、オレは幸せだ」

「ほんと?」

「ああ、本当だ」

ティオの言葉に、ハルトは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、ティオにいちゃんは、ハルたちのかぞくだね!」

「……ああ」

ユイも、頷いた。

「ユイも、ティオにいちゃんといると、しあわせ」

「ユイちゃんと、ハルと、レイアちゃんといると、さみしくない」

レイアも、小さく呟いた。

「……ティオにいちゃんたちが、いまの、かぞく」

「……そうだな」

ティオは、三人を抱きしめた。

「お前たちは――オレの、家族だ」

三人は、ティオにしがみついた。

その温もりが――ティオの心を、温かく満たしていく。




しばらくして、ユイが小さく言った。

「でも……」

「ん?」

「ママにも、あいたい」

ユイの目には、涙が浮かんでいた。

「ママは、もとのせかいにいる」

「……ああ」

「ユイ、ママのこと、わすれたくない」

「忘れなくていいんだ」

ティオは、ユイの涙を拭いた。

「ママは、ユイの大切な家族だ。忘れちゃいけない」

「でも……」

「でも?」

「ふたつ、かぞくがあってもいい?」

ユイの問いに、ティオは笑顔で頷いた。

「ああ、いいに決まってるだろ」

「ほんと?」

「ああ。ママは、元の世界にいる家族。オレたちは、この世界にいる家族」

ティオは、三人を見た。

「どっちも、大切な家族だ」

「……うん」

ユイは、涙を拭いて笑顔になった。

ハルトも、頷いた。

「そっか! じゃあ、ハルにはふたつ、かぞくがあるんだ!」

「ああ、そうだ」

レイアも、小さく笑った。

「……ふたつ、かぞく」

「そうだ。だから――」

ティオは、三人を抱きしめた。

「今は、この家族と一緒にいよう」

「……うん」

三人は、ティオにしがみついた。

その姿を見て、ティオの胸が温かくなった。




その夜、ティオは一人で窓の外を見ていた。

三人は、もう眠っている。静かな寝息が、部屋に響いていた。

月明かりが、村を照らしている。静かで、穏やかな夜だ。

だが――ティオの心は、穏やかではなかった。

レイアの言葉が、頭から離れない。

「何か、大きいものが、来る」

魔王だろうか。それとも別の何かだろうか。

いずれにせよ、平穏な日々は――長くは続かない。

ティオは、拳を握った。

「絶対に――この子たちを、守る」

それが――自分の、役目だから。

その時、背後から声がした。

「……ティオにいちゃん」

振り返ると、レイアが起きていた。

「レイア、どうした?」

「……ねむれない」

レイアは、ティオの隣に座った。

「そうか」

二人は、しばらく黙って月を見ていた。

「……ティオにいちゃん」

「ん?」

「こわい?」

「……何が?」

「これから、おこること」

レイアの言葉に、ティオは少し考えた。

「……怖いよ」

ティオは、正直に答えた。

「お前たちを守れるか、不安だ」

「……」

「でも――」

ティオは、レイアを見た。

「お前たちがいるから、頑張れる」

「……」

「お前たちの笑顔を守りたいから――怖くても、前に進める」

ティオの言葉に、レイアは小さく笑った。

「……ティオにいちゃん、つよいね」

「そうかな」

「うん。だって、こわくても、まえにすすむんでしょ?」

「……ああ」

「それが、つよいってことだよ」

レイアの言葉に、ティオは少し驚いた。

この子は時々、大人びたことを言う。


「……ありがとう、レイア」

「……どういたしまして」

レイアは、ティオにもたれかかった。

「……ティオにいちゃんがいれば、だいじょうぶ」

「……そうか」

ティオは、レイアの頭を撫でた。

「じゃあ、寝よう」

「……うん」

二人は、ベッドに戻った。

レイアは、すぐに眠りについた。

ティオは――その寝顔を見て、小さく笑った。

この子たちを絶対に、守る。

それが――自分の、使命だ。




翌朝、一行は村を出発することにした。

村人たちが、見送りに来てくれた。

「お気をつけて」

「勇者様、頑張ってください」

「ありがとうございました!」

三人は、元気よく手を振った。

「ばいばーい!」

「またね!」

「……またね」

馬車が、ゆっくりと動き出す。

村が、徐々に遠ざかっていく。

ティオは、御者台から村を振り返った。

平和な村だった。戦争の影もなく、人々は穏やかに暮らしていた。

こういう場所を――守りたい。

ティオは、改めてそう思った。

「ティオ」

ダリウスが、馬を並べてきた。

「はい」

「この村での時間は良かったな」

「……ええ」

「この子たちも、楽しそうだった」

ダリウスは、馬車の中を見た。三人は、シロと遊んでいる。

「ああ。でも――」

「ん?」

「こういう平和な時間がいつまで続くか――」

ティオの声は、少し不安げだった。

「分からん」

ダリウスは、前方を見た。

「だが――だからこそ、今を大切にするんだ」

「……はい」

ティオは、頷いた。

ダリウスの言葉はいつも、的確だった。




馬車の中で、三人は窓の外を見ていた。

「ティオにいちゃん、つぎは、どこいくの?」

「次は――少し大きな町に寄る予定だ」

「おおきな町!」

ハルトが、目を輝かせた。

「どんな町?」

「商業が盛んな町らしい。色々な店があるそうだ」

「わあ! たのしみ!」

ユイも、嬉しそうだ。

レイアは――静かに、外を見ていた。

「……レイア、どうした?」

ティオが尋ねると、レイアは小さく首を横に振った。

「……なんでもない」

だがその表情は、少し不安げだった。

ティオは――レイアが何かを感じていることに、気づいていた。

「何か、大きいものが、来る」

レイアの予感はいつも、当たる。

ティオは――不安を胸に抱えながら、馬車を進めた。

だがその不安を、三人には見せなかった。

今は――この平和な時間を、大切にしよう。

それが今、自分にできることだから。


馬車は――次の町へ向かって、ゆっくりと進んでいく。

空には少しだけ、雲が広がり始めていた。

【作者からのお願いです】

・面白い!

・続きが読みたい!

・更新応援してる!


と、少しでも思ってくださった方は、

【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にし ていただけると嬉しいです!】


皆様の応援が作者の原動力になります!

何卒よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ