魔王の影
リオネルとの遭遇から三日後。
一行は、小さな村に立ち寄った。
だが——村の様子が、おかしかった。
「......静かすぎる」
ダリウスが、警戒した様子で周囲を見回した。
村には人影がない。家々の窓は閉ざされ、通りには誰も歩いていない。
「どうしたんでしょう?」
ティオも、不安そうに村を見つめた。
その時、一軒の家の扉が開いた。
年老いた男が、恐る恐る顔を出した。
「......旅の方ですか?」
「はい。一晩、泊めていただけないでしょうか?」
「......それは構いませんが——」
老人は、周囲を見回した。
「早く、中へ。外は危険です」
「危険......?」
ティオたちは、急いで家の中に入った。
家の中は、薄暗かった。
窓には板が打ち付けられ、外の光がほとんど入ってこない。
「一体、何があったんですか?」
ティオが尋ねると、老人は震える声で答えた。
「三日前から——村に、おかしなことが起き始めたんです」
「おかしなこと......?」
「ええ。夜になると——黒い影が、村を徘徊するんです」
老人の目には、恐怖が浮かんでいた。
「その影に触れられた者は——気を失い、目を覚ますと......」
「......目を覚ますと?」
「魂が、抜けたようになっているんです」
老人は、震えながら続けた。
「何も喋らず、何も食べず——ただ、虚ろな目で座っているだけ......」
「......それは」
ダリウスの表情が、険しくなった。
「魔王の力......か」
「魔王......?」
「ああ。魂を抜く力——それは、魔王だけが持つ、禁断の魔法だ」
ダリウスの言葉に、ティオは顔色を変えた。
「まさか......魔王が、この村に......?」
「おそらく。そして——」
ダリウスは、三人を見た。
「我々を、狙っているのだろう」
その夜。
ティオは、三人と一緒に部屋にいた。
「ティオにいちゃん、このむら、へんだね」
ハルトが、不安そうに言った。
「ああ。少し、危険かもしれない」
「......わるいひとが、いるの?」
ユイが、怯えた様子で尋ねた。
「大丈夫だ。ティオにいちゃんと、ダリウスおじさんが守るから」
「......うん」
レイアが、小さく呟いた。
「でも——」
「ん?」
「......なにか、ちかづいてくる」
レイアの言葉に、ティオは窓の外を見た。
夜の闇の中——何かが、蠢いていた。
「......黒い影」
ティオは、剣を抜いた。
「ダリウスさん!」
ダリウスも、部屋に駆け込んできた。
「来たか......!」
次の瞬間——窓が割れ、黒い影が部屋に侵入してきた。
「ぎゃああああああ......」
影は、不気味な声を上げながら、三人に向かって伸びてきた。
「させるか!」
ティオは、剣で影を斬りつけた。
だが——剣は、影を通り抜けた。
「何だ、これは!?」
「実体がない......! 魔法で攻撃するしかない!」
ダリウスが叫んだ。
その時——ハルトが前に出た。
「ゴーバスターズ、レッツゴー!」
青い光の弾が、影に向かって飛んでいく。
影は——光に触れると、悲鳴を上げて消えた。
「ぎゃああああ......!」
「やった!」
ハルトは、嬉しそうに笑った。
だが——窓の外には、まだ無数の影がいた。
「くそっ、数が多すぎる!」
ティオは、三人を庇った。
「ハル、ユイ、レイア! オレの後ろに!」
「うん!」
三人は、ティオの後ろに隠れた。
影たちが、一斉に部屋に侵入してきた。
「まずい......!」
その時——レイアが小さく呟いた。
「......ひかり」
次の瞬間、部屋が眩い光に包まれた。
「ぎゃああああああ!」
影たちは、光に触れて消えていった。
「レイア......お前、こんな魔法まで......」
ティオは、驚愕した。
「......ちょっとだけ、できる」
レイアは、疲れた様子で座り込んだ。
影たちは——全て、消えていた。
翌朝、村人たちが集まってきた。
「昨夜——影が、消えたんです!」
「本当ですか!?」
「はい! もう、村に影はいません!」
村人たちは、喜びに満ちていた。
そして——魂が抜けたようになっていた人々も、目を覚まし始めた。
「......あれ? 私は......?」
「目が覚めた!」
「良かった......!」
村人たちは、抱き合って喜んでいた。
老人が、ティオたちに近づいた。
「ありがとうございます......勇者様......」
「いえ、お礼を言うのは——」
ティオは、三人を見た。
「この子たちにです」
村人たちは、三人に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「村を、救ってくださいました!」
ハルトは、照れくさそうに頭を掻いた。
「えへへ」
ユイは、笑顔で手を振った。
レイアは、静かに頷いた。
村を出発する時、ダリウスが深刻な表情で言った。
「ティオ、あの影は——魔王の力だ」
「......やはり」
「魔王が——動き始めている」
ダリウスは、空を見上げた。
「これから先——もっと危険な戦いが、待っているだろう」
「......はい」
ティオは、三人を見た。
三人は、馬車の中でシロと遊んでいる。
その無邪気な姿を見て——ティオの胸が痛んだ。
「この子たちを——守らなければ」
「ああ」
ダリウスは、頷いた。
「そして——この子たちなら、魔王にも勝てるかもしれん」
「......そうですね」
ティオは、小さく笑った。
だが——その笑顔の裏には、不安が隠れていた。
その夜、焚き火の周りで。
三人は、眠りについていた。
ティオは、焚き火を見つめながら——考えていた。
「魔王が、動き始めた......」
ティオは、三人を見た。
「この子たちは——本当に、魔王と戦えるのだろうか......」
「不安か?」
ダリウスが、隣に座った。
「......はい」
ティオは、正直に答えた。
「この子たちは——まだ、幼い。魔王と戦うなんて......」
「その気持ちは、分かる」
ダリウスは、空を見上げた。
「だが——この子たちは、我々が思っている以上に、強い」
「......」
「そして——我々がいる」
ダリウスは、ティオを見た。
「君と私が——この子たちを、支える」
「......はい」
ティオは、頷いた。
「絶対に——この子たちを、守ります」
「ああ」
ダリウスは、小さく笑った。
「それでいい」
翌朝、出発の準備をしていると——レイアが小さく呟いた。
「......ティオにいちゃん」
「ん?」
「なにか、おおきなものが、ちかづいてくる」
「......大きなもの?」
「うん。とても、つよくて、こわい」
レイアの言葉に、ティオは不安を感じた。
「......魔王、か」
「たぶん」
レイアは、遠くを見つめた。
「でも——だいじょうぶ」
「......え?」
「だって——ティオにいちゃんたちが、いるもん」
レイアは、笑顔で言った。
「だから、こわくない」
「......レイア」
ティオは、レイアを抱きしめた。
「ありがとう」
「......どういたしまして」
レイアは、小さく笑った。
ティオは——決意を新たにした。
魔王が来ても——この子たちを、絶対に守る。
それが——自分の、役目だ。




