大きな街での騒動
獣人の村を出て五日後、一行は大きな街——商業都市アルベルグに到着した。
「わあ! おっきい!」
ハルトが、目を輝かせた。
アルベルグは、帝国でも有数の商業都市だ。城壁に囲まれた街には、無数の建物が立ち並び、街道には多くの人々が行き交っている。
「すごいね、ティオにいちゃん!」
「ああ、帝都の次に大きな街だ」
「......ひとが、いっぱい」
レイアが、少し不安そうに呟いた。
「大丈夫だ。はぐれないように、ちゃんとティオにいちゃんの手を握っててくれ」
「......うん」
三人は、それぞれティオの服の裾や手を掴んだ。
シロも、馬車から降りて、三人の周りをうろうろしている。
「クゥーン」
「シロも、いっしょだね!」
ハルトが、シロを撫でた。
ダリウスが、馬を降りた。
「ティオ、この街で補給をしよう。それに——少し休息も必要だ」
「そうですね。子供たちも、疲れているでしょうし」
「ああ」
一行は、街の中へ入った。
街の中は、活気に満ちていた。
露店が立ち並び、商人たちが声を張り上げている。果物屋、パン屋、武器屋、雑貨屋——あらゆる店が、ひしめき合っていた。
「わあ! あれなに!?」
ハルトが、露店の飾り物を指差した。
「ああ、それは——」
ティオが説明しようとした時、ユイが別の店に駆け寄った。
「ティオにいちゃん、このおにんぎょうかわいい!」
「ユイ、待って——」
ティオが追いかけようとすると、今度はレイアが立ち止まった。
「......このほん、きれい」
「レイア、後で見よう。今は——」
ティオは、三人をまとめようと必死だった。
「ハル、ユイ、レイア! 三人とも、バラバラにならないで!」
「はーい!」
三人は、一応返事をしたが——またすぐに、別々の方向に興味が移る。
「......胃が」
ティオは、胃を押さえた。
ダリウスが、笑っていた。
「フフ、大変だな」
「笑ってないで、助けてください......」
「分かった。私がハルを見よう」
「お願いします......」
ティオは、ユイとレイアの手を引いて、街を歩いた。
しばらく歩くと、広場に出た。
そこには、大きな噴水があり、周りにはベンチが並んでいる。子供たちが、噴水の周りで遊んでいた。
「ティオにいちゃん、あそこであそびたい!」
ハルトが、子供たちを見て言った。
「そうだな。少し休憩しよう」
ティオは、ベンチに座った。三人は、噴水の周りに駆け寄った。
「ねえねえ、いっしょにあそぼ!」
ハルトが、他の子供たちに声をかけた。
だが——子供たちは、ハルトたちを見て、少し距離を置いた。
「......誰?」
「知らない子たち」
子供たちは、警戒している様子だった。
「ハルは、ハルト! こっちは、ユイと、レイア!」
「......」
子供たちは、まだ警戒している。
その時、一人の少年が前に出た。
「君たち、どこから来たの?」
「えっとね——」
ハルトが答えようとした時、別の少年が割り込んできた。
「あ! その服——」
その少年は、豪華な服を着ている。貴族の子供だろう。
「君たち、田舎者? 服がダサい」
「......え?」
ハルトは、首を傾げた。
「ダサいって、なに?」
「かっこ悪いってことだよ! ぼくの服を見て! こんなに豪華なんだから!」
貴族の少年は、自慢げに服を見せた。
「......ふーん」
ハルトは、特に気にした様子もなく、噴水を見ている。
「ね、無視しないでよ!」
貴族の少年は、ムッとした。
「君たち、田舎者のくせに——」
「あのね」
ユイが、貴族の少年の前に立った。
「ふくが、かっこいいとか、わるいとか——そんなの、かんけいないよ」
「え......」
「だいじなのは、なかみでしょ?」
ユイの言葉に、貴族の少年は黙り込んだ。
「......」
周りの子供たちも、静かになった。
レイアが、小さく呟いた。
「......このこ、さみしいんだね」
「え?」
貴族の少年は、驚いた。
「ともだちが、いないから。だから、じまんして、きをひこうとしてる」
「......!」
貴族の少年の顔が、真っ赤になった。
「そ、そんなこと——」
「でも、だいじょうぶ」
レイアは、少年の手を握った。
「わたしたちが、ともだちになるよ」
「......え?」
少年は、呆然としていた。
その後、子供たちは一緒に遊び始めた。
貴族の少年——名前はエドワードというらしい——も、最初は戸惑っていたが、次第に笑顔を見せ始めた。
「ハル、すごくはやいね!」
「えへへ!」
ハルトは、他の子供たちと一緒に走り回っている。
「ユイ、やさしいね」
「そんなことないよ」
ユイは、転んだ子供の手当てをしていた。
「レイア、ふしぎなことがわかるの?」
「......うん。ちょっとだけ」
レイアは、子供たちに囲まれて、質問攻めにあっていた。
ティオは、その様子を見て——小さく笑った。
「子供たちは、すぐに仲良くなるな」
「ああ。大人が築いた壁も、子供には関係ない」
ダリウスも、笑っていた。
その時、一人の女性が近づいてきた。
「あの......すみません」
「はい?」
ティオは、女性を見た。質素な服を着た、優しそうな女性だった。
「あの子たちは......勇者様、ですか?」
「......え?」
ティオは、驚いた。
「どうして、分かったんですか?」
「噂を聞いていました。幼い勇者様が、三人いると」
女性は、三人を見た。
「私は、この街の孤児院で働いている者です。名前は、シスター・マリア」
「孤児院......」
「はい。戦争で親を亡くした子供たちを、保護しています」
マリアは、悲しそうに言った。
「最近、孤児が増えて——食料も、場所も足りなくて......」
「......」
ティオは、言葉に詰まった。
「あの......もし、よろしければ——勇者様方に、孤児院を訪ねていただけないでしょうか?」
「孤児院を?」
「はい。子供たちに——希望を、見せてあげたいのです」
マリアの目には、真剣な光が宿っていた。
「......分かりました」
ティオは、頷いた。
「行きましょう」
孤児院は、街の外れにあった。
古い建物で、壁には亀裂が入っている。窓ガラスも、いくつか割れたままだ。
「ここが......」
ティオは、建物を見上げた。
「はい。お恥ずかしい限りですが......資金が足りなくて、修繕もままならないのです」
マリアは、申し訳なさそうに言った。
中に入ると、二十人ほどの子供たちがいた。
年齢は、五歳から十歳くらいだろうか。皆、質素な服を着て、痩せている。
「みんな、お客様よ」
マリアが、子供たちに声をかけた。
子供たちは、ティオたちを見て——少し警戒した様子だった。
「こんにちは!」
ハルトが、元気よく挨拶した。
「ハルは、ハルト! こっちは、ユイと、レイア!」
「......」
孤児院の子供たちは、黙っている。
その時、一人の少女が前に出た。
「......あなたたちが、勇者様?」
「うん! ゆうしゃだよ!」
「......嘘」
少女は、首を横に振った。
「勇者様は、もっと大きくて、強そうな人のはず」
「でも、ハルたち、ほんとにゆうしゃだよ?」
「......信じられない」
少女は、頑なだった。
レイアが、少女の前に立った。
「......しんじなくても、いいよ」
「え?」
「だって、ゆうしゃかどうかなんて、かんけいないもん」
レイアは、少女の手を握った。
「わたしたちは、ともだちになりたいだけ」
「......友達?」
「うん」
レイアは、笑顔で頷いた。
少女の目から、涙が零れた。
「......ありがとう」
その後、三人は孤児院の子供たちと一緒に遊んだ。
ハルトは、子供たちに「ライダーキック」の真似を教えていた。
「こうやって、ジャンプして——キック!」
「わあ、すごい!」
子供たちは、目を輝かせている。
ユイは、怪我をしている子供たちの手当てをしていた。
「いたいの、いたいの、とんでけ」
傷が、みるみる治っていく。
「す、すごい......!」
子供たちは、驚愕していた。
レイアは、子供たちに絵本を読んであげていた。
「むかしむかし、あるところに......」
子供たちは、レイアの周りに集まって、静かに聞いている。
ティオは、その様子を見て——胸が温かくなった。
「子供たちは......本当に、無邪気だな」
「ああ。そして——その無邪気さが、人を救う」
ダリウスは、マリアを見た。
「シスター、この孤児院は——どのくらいの支援を受けているのですか?」
「......ほとんど、ありません」
マリアは、悲しそうに答えた。
「戦争で、国の資金も底をついています。孤児院まで、手が回らないのです」
「......」
「でも——私たちは、諦めません。この子たちを、守らなければ」
マリアの目には、強い決意が宿っていた。
ティオは、ダリウスを見た。
「ダリウスさん......何か、できることは......」
「......そうだな」
ダリウスは、少し考えてから頷いた。
「帝都に、報告しよう。この孤児院のことを」
「本当ですか!?」
マリアの顔が、明るくなった。
「ありがとうございます!」
「いや、礼を言うのは我々の方だ」
ダリウスは、三人を見た。
「あの子たちが——我々に、気づかせてくれた」
夕方、孤児院を出る時、子供たちが見送りに来た。
「勇者様、ありがとうございました!」
「また、来てください!」
子供たちが、手を振っている。
「うん! またくるね!」
ハルトが、元気よく答えた。
「ばいばい!」
ユイも、手を振った。
「......またね」
レイアも、小さく手を振った。
マリアが、深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
ティオは、笑顔で答えた。
馬車に乗り込み、出発する。
ティオは、窓の外を見た。孤児院の子供たちが、まだ手を振っている。
「......この子たちは、本当に——」
ティオは、三人を見た。
「人を、救うんだな」
「ああ」
ダリウスも、頷いた。
「大人が見落としていたものを——子供の目で、見つけ出す」
「......そうですね」
ティオは、小さく笑った。
三人は、馬車の中で、シロと一緒に眠っていた。
その寝顔は——とても、穏やかだった。
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