獣人の村と聖獣
街道を進んでいると、森の奥から煙が見えてきた。
「......あれは?」
ティオは、馬車を止めた。
「村のようだな。だが——何かおかしい」
ダリウスが、遠くを見つめた。
「煙の量が多すぎる。それに——」
風に乗って、叫び声が聞こえてきた。だが——その声は、人間のものとは少し違う。
「......獣人か」
ダリウスの表情が、険しくなった。
「獣人?」
「ああ。亜人連合国の一員だ。我々——帝国とは、敵対している」
「......」
ティオは、馬車の中を見た。三人は、窓から外を見ている。
「でも——助けを求めている声が聞こえます」
「そうだな......」
ダリウスは、少し考えてから頷いた。
「行こう。敵味方以前に、困っている者を見捨てるわけにはいかん」
「はい」
ティオは、馬車を村の方へ向けた。
村に近づくと——そこは、獣人たちの村だった。
狼の耳を持つ者、猫の尻尾を持つ者、兎の耳を持つ者——様々な獣人たちが、武装した傭兵団に囲まれていた。
「金目のものを全て出せ! さもなくば——」
傭兵のリーダーが、剣を振り上げた。
「やめろ!」
ダリウスが、馬を走らせた。
「......帝国の騎士!?」
獣人たちが、驚愕した。
「まずい、帝国軍が来たのか!?」
「違う! 我々は——」
ティオが説明しようとした時、馬車の扉が開いた。
「わあ! けもみみ!」
ハルトが、飛び出してきた。
「しっぽもある!」
ユイも、目を輝かせている。
「......ふわふわしてそう」
レイアも、興味津々だ。
「ちょ、ちょっと待て!」
ティオが止めようとしたが、三人はもう獣人たちに駆け寄っていた。
「ねえねえ! おみみさわっていい!?」
ハルトが、狼耳の獣人の前で飛び跳ねた。
「え......あ......」
獣人は、困惑している。
「しっぽ、ふわふわだね!」
ユイが、猫尻尾の獣人の尻尾を撫でた。
「ひゃっ!?」
獣人は、驚いて飛び上がった。
「......かわいい」
レイアが、兎耳の獣人を見上げている。
「こ、子供......?」
獣人たちは、完全に混乱していた。
その時、シロが馬車から飛び降りた。
「クゥーン!」
シロは、三人の後を追いかけて走ってくる。
だが——シロを見た瞬間、獣人たちの表情が一変した。
「これは......まさか......!?」
年老いた狼の獣人——村の長老らしき者が、震える声で言った。
「白き毛並み......銀の瞳......そして、その気配......」
「どうしたんですか?」
ティオが尋ねると、長老は深々と頭を下げた。
「聖獣様......! まさか、あなた様が現れるとは......!」
「聖獣......?」
ティオは、シロを見た。
シロは——普通に、ハルトに飛びついて遊んでいる。
「クゥーン! クゥーン!」
「シロ! まてまて!」
「聖獣様が......遊んで......おられる......?」
獣人たちは、信じられない様子だった。
「あの、聖獣とは......?」
「我ら獣人の言い伝えにございます」
長老が、説明した。
「白き聖獣が現れし時、世界に大いなる変革が訪れる、と」
「変革......」
「はい。聖獣様は——選ばれし者を導き、世界を救うと言われております」
長老は、三人を見た。
「そして——その選ばれし者とは......」
「ゆうしゃ、だよ!」
ハルトが、元気よく答えた。
「ハルと、ユイと、レイア!」
「......」
獣人たちは、呆然としていた。
「勇者様が......こんなに、幼い......?」
「ああ、色々事情があってな」
ダリウスが、苦笑しながら説明した。
その時、傭兵団のリーダーが叫んだ。
「おい! 何をごちゃごちゃ話してる! さっさと金を出せ!」
「......わるいひとたち」
レイアが、傭兵たちを見た。
「むらのひとたちを、いじめてる」
「ああ。だから——」
ティオが剣を抜こうとした時、ハルトが走り出した。
「ねえねえ! おにいちゃんたち!」
「あ? 何だガキ」
「かくれんぼしよー!」
「......は?」
傭兵たちは、困惑した。
「ハル! 今はそんな——」
ティオが止めようとしたが、ハルトはもう走り出していた。
「もーいーかい!」
「待て、このガキ!」
傭兵の数人が、ハルトを追いかけ始めた。
「ティオにいちゃん、ユイもあそぶ!」
「え、ちょっと——」
ユイも、村の中を走り出した。
「まてまて〜! おにごっこだよ!」
「くそっ! もう一人!」
別の傭兵たちが、ユイを追いかける。
「......これは」
ダリウスが、ハッとした。
「また、かくれんぼとおにごっこか!?」
ハルトは、村の小屋に駆け込んだ。
「きっききのこー♪ きのこー♪」
ハルトは、歌いながら小屋の中に入った。そこには、キノコの栽培棚が並んでいる。
「ここなら、みつからないぞ!」
ハルトは、栽培棚の下に潜り込んだ。
「おい、どこ行った!」
傭兵たちが、小屋の中を探し回る。
その隙に——ダリウスが、別の傭兵を斬り伏せた。
「敵が分散している......今のうちだ!」
ティオも、剣を抜いて応戦する。
ユイは、村の広場を走り回っていた。
「まてまて〜!」
「くそっ! ちょこまかと!」
傭兵たちが、ユイを追いかける。
その間に——獣人たちが、逃げ出していた。
「今だ! 逃げろ!」
「おお!」
獣人たちは、傭兵団の包囲を抜け出した。
レイアは、静かに村の裏手にいた。
「......ティオにいちゃん、こっちだよ」
レイアが、ティオを呼んだ。
「レイア?」
「こっちから、わるいひとたちをはさめる」
「......そうか!」
ティオは、レイアの指示に従って動いた。
結果——傭兵団は、完全に撹乱された。
「くそっ! 何だこれは!」
「ガキどもに、翻弄されてる!?」
傭兵たちは、混乱していた。
その時——
「ゴー、レッツゴー♪やっつけろー!」
ハルトが、栽培棚の下から飛び出し、青い光の弾を放った。
「ぐあっ!」
傭兵が、吹き飛ばされた。
「みーつけた!」
ハルトは、嬉しそうに笑った。
ユイも、傭兵たちの前に立った。
「もう、たたかうのやめよ? ね?」
ユイの目から、涙が零れた。
その涙が——光となって、傭兵たちを包んだ。
「ぐ......ぐああああ!」
傭兵たちは、浄化の光に苦しみ始めた。
「こ、降参だ......!」
リーダーが、剣を捨てた。
「もう、やめてくれ......!」
残りの傭兵たちも、戦意を失った。
戦闘が終わり、獣人たちは三人に感謝した。
「ありがとうございます、勇者様......」
長老が、深々と頭を下げた。
「我らを、救ってくださいました」
「えへへ」
ハルトは、照れくさそうに笑った。
「ハルたち、ただあそんでただけだよ?」
「そうだよ。かくれんぼと、おにごっこ」
ユイも、不思議そうに首を傾げた。
ティオは、三人を見て——小さく笑った。
この子たちは、本当に遊んでいただけだった。
でも——その遊びが、結果的に村を救った。
それが、この子たちの力なのかもしれない。
シロが、長老の前に座った。
「クゥーン」
「聖獣様......」
長老は、シロの前に跪いた。
「どうか、この者たちを——いや、この世界を、お導きください」
「クゥーン?」
シロは、首を傾げた。
その様子を見て、ハルトが笑った。
「シロ、せいじゅうなんだって!」
「すごいね、シロ!」
「......でも、シロはシロだよね」
三人は、シロを普通に撫でている。
獣人たちは——その光景に、何とも言えない表情を浮かべていた。
「聖獣様が......普通の犬のように......」
「いや、これはこれで......微笑ましい......?」
その夜、獣人の村では、小さな宴が開かれた。
獣人たちは、三人を囲んで、感謝の言葉を述べた。
「勇者様、本当にありがとうございました」
「これからも、どうかお元気で」
三人は、獣人たちと一緒に食事をした。
「おいしい!」
「このおにく、やわらかいね!」
「......おかわり」
ハルトは、狼耳の獣人の耳を触ろうとして、ティオに止められた。
「ハル、失礼だぞ」
「えー、でもふわふわしてそうだもん」
「ふふ、構いませんよ」
狼耳の獣人——若い女性だ——は、笑って頭を下げた。
「どうぞ、触ってください」
「ほんと!?」
ハルトは、嬉しそうに耳を撫でた。
「わあ! ほんとにふわふわ!」
「ユイも、さわりたい!」
「レイアも......」
三人は、獣人たちの耳や尻尾を撫でまくっていた。
獣人たちは——最初は困惑していたが、次第に笑顔になった。
「こんなに無邪気な勇者様は......初めてだ」
「ああ。でも——だからこそ、信じられる」
長老が、三人を見つめた。
「この子たちなら——本当に、世界を変えられるかもしれん」
ティオは、ダリウスと一緒に、村の外れに立っていた。
「獣人たちは——我々を、受け入れてくれましたね」
「ああ。あの子たちのおかげだ」
ダリウスは、空を見上げた。
「あの子たちは——敵も味方も関係なく、純粋に接する」
「......そうですね」
「それが——時に、大人が築いた壁を壊すのかもしれん」
ダリウスは、ティオを見た。
「帝国と亜人。本来は、敵対している」
「ええ」
「だが——あの子たちは、そんなこと気にしない」
ダリウスは、小さく笑った。
「もしかしたら——この戦争を終わらせるのは、大人の策略じゃない。子供の純粋さかもしれんな」
「......」
ティオは、村を見た。
三人は、獣人の子供たちと一緒に遊んでいる。
「なんで、たたかってるの?」
ハルトが、無邪気に尋ねた。
「それは......」
獣人の大人は、答えに詰まった。
「むずかしいことは、よくわからないけど——」
ハルトは、笑顔で言った。
「なかよくしたほうが、たのしいよね!」
「......そうだな」
獣人の大人は、小さく笑った。
「そうだ。本当は——仲良くしたほうが、楽しいんだ」
翌朝、村を出発する時、獣人たちが見送りに来た。
「勇者様、ありがとうございました」
「お元気で」
「また——いつか、お会いできることを」
三人は、元気よく手を振った。
「ばいばーい!」
「またね!」
「......またね」
シロも、尻尾を振っている。
「クゥーン!」
長老が、前に出た。
「聖獣様。そして、勇者様方」
「はい?」
「どうか——この世界を、お救いください」
長老は、深々と頭を下げた。
「我ら獣人も——いつか、人間と共に生きられる日が来ることを、願っております」
「......うん」
ハルトは、真剣な顔で頷いた。
「ハル、がんばる」
「ユイも」
「......レイアも」
三人は、それぞれに答えた。
馬車が、村を離れていく。
ティオは、前方を見た。
「獣人との出会い......か」
ティオは、小さく笑った。
「この子たちは——本当に、世界を変えるのかもしれないな」
「ああ」
ダリウスも、頷いた。
「そして——我々は、それを支える」
「......はい」
ティオは、手綱を引いた。
世界は深刻だ。
でも——この子たちは、深刻じゃない。
そして——その無邪気さが、少しずつ、世界を変えていく。
ティオは、そう信じていた。
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