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寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―  作者: 雪ノ瞬キ


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3/30

3話:稼働残:1日23時間台

 町の廃棄処分場の出入り口――。

 月明かりが、俺たちとひとりの見張りを照らしていた。


「よお、今夜も化け物と晩餐会か?」


 髭面の禿頭のオヤジは軽口を叩く。俺も合わせる。いつも通りだ。


「ああそうだな。今日は、もう一人連れがいる」


 じろりと大きな目はミミをとらえる。確かめるだけの目だ。


 俺は金貨を数枚、奴の手に握らせる。

 指先が冷えた金貨を離れる。金属が皮膚に貼りついたように感じた。

 一枚ずつが、血の気を抜いていく。……命の通行料だ。

 

「通るぞ」


 物珍しかったのか、オヤジはどこかニヤついた目を向けてきた。


「あんまり無理すんなよ? 俺は構わないがお前……まあいい」


 ニヤリ。口は悪いが、こいつは俺の数少ない理解者だ。……それが余計に沁みる。


 ここは正門とは別、処分場に通じる出入り口。

 ここを通る荷は、ほとんど死体。剥き出しの遺体が転がり、腐臭が立つ。

 だから誰も寄りつかない。気味悪がられる場所でもある。俺には好都合だが、鼻は慣れない。


 ミミは比較的平然として、俺の後をついてくる。見かけによらず、度胸がある。……強い。


「なあ、おっちゃん。こいつも一緒に泊まっていいか?」


「ああそうだな。大きな声だけは出さないでくれよ?」


「助かる」


「え? えー!」


 ミミは何を察したのか耳まで赤い。こういう反応、救われる。


 俺はそのまま、いつもの裏通りを歩き、宿屋の裏口から入る。


「こっちだ。急げ」


「え? う、うん」


 二階へ駆け上がる。扉の先は見慣れた風景。二人掛けのソファ、ベッド、机と椅子。それだけ。


「ひとまずここまでくれば、いったんは安心だ。……たぶんな」


「え? でも」


「ここは大丈夫な場所だ。あいつらは信用できる」


 そう言いながら、喉の奥が乾く。自分で言ってても半信半疑だ。


「そ、そうなんだ」


 どこかソワソワして落ち着きがない。念のため、気をつける点を伝える。


「ただし、町中は歩けない……寝る時だけだ」


「そ、そうね。こんなに光っているし」


 互いの手の甲――界印が青く滲む。ため息が重なる。消えない札だ。


「移動は常に夜。光っても、あの通る場所なら問題ない」


「わかったわ。念のため、理由を聞いても?」


「ああ。似た光がでたらめに点く。魂の残滓が漂うと言われてる。実際それが何かは知らない」


「だから皆、怯えて見ても見なかったことにしたい、と?」


「その心理が大きい。憑依の噂もある。……俺たちには都合がいい」


「普通に怖いわね、それ」


「だろ?」


「あとな。万が一ここに踏み込まれたら、ここから飛び出す」


 俺はダストボックスを指さす。


「ここ?」


「ああ。ボックスの奥に点検口がある。潜れば屋根裏に出て、そのまま屋根へ。屋根づたいに向こう側へ抜けられる」


 他の注意も伝え、夜に動くため昼は寝る、と決めた。

 もちろんベッドはミミに譲り、俺はソファで眠る。陽射しがのぼっていく。柔らかいのに眠りは浅い。いつも通りだ。

 夢を見なかった。最近は、それが少しだけ怖い。

 でもな、夢を見られるほど、まとまった時間、偽命をこねれてねぇんだよな。

 

◇


 日が沈み、夜。行動の時間だ。


 ミミはベッドでモゾモゾとしながら背伸びをし、上半身を起こす。


「起きたか?」


「うん。おかげさまでね。悠斗は?」


「俺も問題ない。これから行くところがある。来るか?」


「うん。どこに?」


「地下ギルドだ」


 元来た道を戻り、処分場へ。満月。月明かりが道を照らす――その届かないところを歩く。

 一体どこから、これほど死体が出ているのか。いっこうに減らない。

 増えているのか、オヤジがサボっているのかはわからない。


 やはりオヤジが一人でいた。


「よおデートかい?」


 俺を見るなり、気さくに声をかけてくる。


「まあ、そんなところだ」


「え?」


 ミミが素っ頓狂な声をあげる。わざと否定しない。軽口は盾だ。


「ここを通るぜ?」


 地下へ続く細い階段を指す。


「ギルドか?」


「そうだ」


「気をつけろよ。あの一帯、たまに出くわすからな」


「ああ、ありがとな」


 一歩踏み入れるだけで、息が白む。

 冷えた空気が肺に刺さり、声が半拍遅れる。鉄格子がきいと鳴った。――息が止まった。


「ミミ、あの時の遮音は?」


「うん、お安いご用よ。任せて」


 ミミが囁くと、足元に風が舞う。足音が消え、衣擦れだけが残る。静寂の中の呼吸がやけに大きい。


 しばらく進むと、屈折膜の残滓みたいな揺らぎが景色をなぞる。

 俺とミミは構え、狼顎が出かかる――だが動きはない。目で追い、やり過ごす。


 さらに進むと、いつも通り見張り。地下ギルドの連中だ。

 鈴虫の音、死体袋の匂い。右手の界印を見せ、ミミも掲げる。鉄の扉が開く。古いのに軋まない。


 中へ入る。ざわめきが一気に押し寄せる。


「わぁ、音が一気に聞こえてきたね」


「ああ。出入り口に魔法が張ってあるんだろう」


 ここは広い。ホールだけで百人は入る。奥にも部屋がある。


 俺は『灰鳴』の情報について、提供と収集の依頼を出す。代金は他人の依頼を片付ける支払い。いつも通りだ。


 受付の男が顔を出す。


「よお悠斗、なかなかの依頼じゃねぇか」


 こいつは、そこそこ“いい”依頼を回してくれる馴染みだ。


「ここを離れるかは状況次第だ」


「まあそうだろ。お前らにゃ、この町は息が詰まるよな」


「本当に俺たちを受け入れる町があるなら見てみたい」


「ああ、間違っちゃいねぇよ。そんでどうする? チャラの依頼を受けるか、いくらか手元に金が残るやつか、どっちだ?」


 ここでの依頼は、金だけ払ってというものはない。

 依頼をするなら、誰かの依頼を達成するのがいつもの条件だ。


「いくらか手元に残る奴で」


「うははは、お前やっぱそうだよな。いいぜお前向き用意してやる」


 そういうと奥に引っ込み、いくつか書類を開き始めた。


「待たせたな。お前にあつらえ向きのはこれだ。『古代地下道・魔核集め』どうだ? なかなかだろ? 近けぇしな」


「いつまでだ?」


「期限はねぇよ。ただなここは以前より難易度が上がっている。どうにも中クラスがウヨウヨし始めているからな。気ぃつけな?」


「中クラスか、わかった。いつも通りあるだけ買い取りか?」


「ああ、そうだな。最近は不足してるからな。高く買い取るぜ」


「じゃあこの依頼受ける」


「お前のイカれ具合、楽しみにしてるぜ」


「ああ、またな」


 踵を返す。ミミのもとへ戻る。命を増やすために、命を削りに行く。

 いつも通り――それが、一番怖い。



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