表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―  作者: 雪ノ瞬キ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/30

22話:鐘胆録の間、静かな風

 「なんだこれ?」


 向かった先は広いどころの話じゃない。

 足を踏み入れた瞬間、ひやりとした冷気が肌を撫でた。

 

 太い石の柱が円環を描くように林立し、その中心には、天井から差し込む光がまっすぐ降り注いでいる。

 乾いた空間なのに、澄んだ風がどこからともなく流れ込み、足音が反響しては吸い込まれていく。

 まるで森の中に立つ神殿のようだった。


 俺たち以外に変わらず人気はない。


「ねね、これなんだと思う?」


 リリが指し示すのは、探していたものにしか見えなかった。

 いや、石板というよりこれは、石碑だろ。


 見た目は、人の背丈の二倍ほどはある黒い御影石に見える。

 ちょうど両腕を真横にひろげたぐらいの大きさだ。


 こんなのもちかえられるわけがない。

 それにここにあるたたずまいから、かりに魔法袋にいれられたとしても、いいものに見えない。

 あの魔女は――持ち帰れない、って言ってたのは本当だった。


「悠斗さま。これは、鐘胆録しょうたんろくですね」


「やっぱり、そうか……」


 ミミが目をまるくして俺を見る。

 なんだ? おれはそんなにアホっぽいか?


「へ? 悠斗しってたの?」


「この状況なら、そうとしか思えねぇよ」


 そうだ! 視写符ししゃふだ。

 針で刻みをなぞれば文脈が転写されるといっていたな。

 針はさっきの得体のしれないやつからの贈り物としてある。


 ほんとあいつは何だったのか。

 まあ今はいい。

 でも、すべて知った上で、『それをなぞるのか変えるのか』を楽しんでいると想像までできてしまうほどの物言いだったな。


 ひとまず背丈は大小さまざまあるが、数十とある。

 整然とおかれているわけでもなく、一番大きいものの周囲に寄り集まるようにして存在している。

 今のところ、墓標というわけではなさそうだ。

 どれも根元に供物台はなく、刻みは祈り文ではなく“記録”の体裁だ。


 さっそく転写できるのか一番端にあるものから試していく。

 見上げると、リリは顔寄せて石碑の文字を眺めていた。


「リリ手伝ってくれるか? 上のほうはリリに任せたい」


「うん! 手伝うー」


 屈託ない笑顔で俺のところに舞い降りてくる。

 

「ほら、これ針な」


 おれにとって手のひらほどのサイズだとしてもリリには、背丈ほどもある。

 大丈夫なのか。


「受け取ったー! 視写符はどうするの?」


 無邪気に楽しそうだ。大きさも重さもきにしちゃいない感じだ。


「ああ、俺が持つ。もちながらだと大変だろ?」


「へへ、ダダ様ってやっぱ優しい」


 ミミとレジーネはなんでそんな温かい目でみるんだ?

 二人ともしゃがんでリラックスしているようにも見える。


「おいおい、警戒していなくて大丈夫か?」


 レジーネは柱の間を一瞥し、首を横に振った。


「ここは見た目以上に神聖な場所に感じます」


 レジーネはだからこそ、敵対する種族は現れないといいたげだ。


「あたしの星導術でも反応がまったくないわ」


 ミミはあたりを慎重に見回しながら、周囲を見てくると言い少し離れた。


 どのくらい集中していたのか、リリに声をかけられ気が付いた。


「ダダ様、ここからなぞればいいの?」


「ああ、そこの端から1行横にはじまでなぞったら、1行下がってまた同じようにたのむ」


「うん、わかった!」


「そうすれば、ここに同じように描写されるからあとで読みやすくなる」


「がんばる!」



 一瞬、場が静まり返る。

 光が黒い石碑の表面を這い、リリの金の髪がちらちらと反射した。

 視写符の白地に、墨が裏から染みるように一行ずつ文字が立ち上がる。


 リリとかたっぱしから作業をはじめ、ミミがもどって来る頃にはもう終わっていた。


「あれ? もう終わったの?」


「終えましたー!」


「リリのおかげで早くすんだよ」


「そしたら帰投しましょ」


「そうだな。レジーネかえろうぜ」


「はい」


 何事もなく、出れたらいいのだが。

 俺はふと思い出したことがあった。


「なあ、この針をくれたあの女は誰だったんだろうな」


「悠斗様、女ですか?」


「悠斗何いってんの?」


「えっ、お前らの目の前で、この針を俺が受けとっただろ?」


「見てないよ。いつの話?」


「はい。私も見ていないです」


「リリもだよー」


 どういうことだ?

 俺は確かここに入る前のあの場所で、確かに会ってこの針を受け取った。

 なのに、こいつらは知らないという。

 

 いやいや、待てよ。どうなっているんだ。

 俺は何を焦っているのか気持ちが落ち着かない。

 なんだ。一体なんだっていうんだ。


 胸の奥がざらつく。記憶の層がずれたような、居心地の悪さ。

 “見た”という確信と、“見ていない”という現実の板挟みで、足元がぐらりとした。

 柱の影がわずかに歪んで見えた。

 その瞬間だけ、世界が微かにずれた気がした。


 俺は大きく息を吸い込んだ。


「まあ、いい。いけばわかる」


 目的の品を確保した俺たちは、もと来た道を辿り、出口へ向かう。

 これ以上の探索は無しだ。今は好奇心よりも依頼を優先したかった。


 敵に遭遇することなく、再びあの場所に戻ってきた。

 俺が奇妙な出会いをした場所であり、針を受け取った場所でもある。


 針を握った手のひらに、まだ微かに温もりが残っていた。

 ……誰のものだったのかもわからない温もりが。



「ここだよ、ここ。見覚えあるだろ?」


 三人とも不思議そうな目でおれを見る。

 近くの小屋のような場所までくるが、あの時いた女はいないし、誰かがいた形跡も見当たらない。


「霊体……だったのか?」


 俺は何もない小屋の壁を見つめていた。

 あれはなんだったのか。


「悠斗も見えるの?」


 突然背後からミミが顔をのぞきこんでくる。


「見える?」


「そそ。見えないものがみえちゃうやつ」


「幽霊とかそういう類のことがいいたいのか?」


「大正解! あたしは職業柄みえちゃうから気にしていないけど」


「もしさっき遭遇したやつに対していうなら、見えるどころじゃない。そこに存在がはっきりとあった。といえるな」


 ミミは顎に手を当てて何か考えごとか。


「星導術の反応がまったくないわ……いや、ちょっと待って、これって――いや、気のせいかしら」


 この小屋に何か仕掛けでもあるのかもしれない。

 俺の勘はあてにならないが、壁に手を当てて何かをさぐれるか試す。


 ミミはその間、何か折り紙を使い周囲を探索していた。

 何かが気になるのか、何度も試行錯誤しているように見える。


 俺自身何も進展していないわけで、少しいらだってきた。


「さっぱりわかんねぇな」


 今探っても、これ以上は意味がないだろう。


「ミミ、帰ろうぜ。何かがわかったとしてもどうにもならない」


「ええ、確かにそうね。少し気になったけど」


「何かきがかりか?」


 何か思い当たるのか、妙に悩む姿だ。


「式神よ。普通の人には見えないけど、痕跡がここにあるの」


 ミミは首をかしげ、唇の端をゆるめた。

 

「……可能性は、なくはないかな。ね、怖いでしょ?」


 ミミの笑みは軽かったが、その奥に、どこか探るような光があった。


「高度か低度かそのあたりはわかんねぇよ」


 だとしても俺に何かをさせたい奴が別にいるってことかもな。

 今はわかんねぇけど。


「これ以上は……無理ね」


 ようやくあきらめた様子だ。


「また次回な」


 踵を返すおれを迎えたのは、レジーネだ。


「悠斗さま、何かわかりました?」


「いんや、さっぱりさ」


「ふふ。でもみな無事でよかったと思います」


 まさに野に咲く花という感じで、やわらかい笑顔に救われる。

 光の残滓が背後の柱をかすめ、淡く揺らいだ。


「そうだな」


 俺たちは再び帰路についた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ