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寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―  作者: 雪ノ瞬キ


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20/30

20話:鏡の中の意思

「いくぞ」


 起床した皆を引きつれ、俺は扉を開けて潜った。

 その先は、今までと異なる奇妙な空間だった。


 全体が鏡面でできたかのように、あらゆるものが映り込み、距離感が狂う。

 上下左右すべてが鏡だ。


 一歩進むたびに、靴音が薄れていく。

 最初は反響していたはずの足音が、気づけば鏡に吸い込まれていた。

 音が奪われていく――いや、俺の中の“音”そのものが削がれていく気がした。

 第十九の女が言っていた「音を代価にする」という言葉が、遅れて蘇る。


 息は白むほど冷え切り、氷水で冷やされた空気を肺へ流し込むような感覚。

 理由も意図も検討がつかないこの広間は、先の場所と同等の広さに思える。相変わらず天井は高く、見えない。


 リリはいつも通り無邪気にあたりを見渡し、レジーネは警戒を強めていた。

 ミミはこれまでの式神を駆使していくようにみえた。


「式神は大丈夫か?」


 周囲を見渡す。

 この奇妙な空間で、何をさせたいのか検討がつかない。


「何もないし、誰も来ないな」


 思わずつぶやくと、レジーネが慌てて告げる。


「悠斗さま、ここは洗脳部屋です」


 言葉の危機感と、目の前の様子が噛み合わない。


 俺がいる?

 鏡に映るのは確かに俺だ。

 だが、不敵に笑っていやがる。しかもかなり悪そうな笑みだ。


「おい、そんなクセェ笑みを見せんなよ。聖人ぶってんのか?」


 だが、鏡の中のヤツはしゃべらない。音を発しない。

 ただ視線を送るだけだ。

 その視線の奥に、どこか“理解されている”感覚があった。まるで俺より俺を知っている。


 すべてが鏡に覆われ、ミミもレジーネもリリもいない。

 何が起きたのか。地平線すら見える。

 一体どうすりゃいいんだ。


 突然、一部が景色に切り替わった。

 そこに俺がまたいた。


 なんだよあの姿。変身?

 やっていることは、敵対する相手を蹂躙する姿だ。

 圧倒的な暴力。

 あんな攻撃、防げるわけもなく、相手は殲滅されていく。


 おいおい。無差別はひどくねぇか?


 俺の発した言葉に気がついたのか、目の前の“俺”は俺を見る。

 またしても黒い笑みを浮かべていた。


 いや、俺じゃない。

 そう否定したいが、どこかしっくりくる。


 なんだよ。俺はあっち側ってことか。

 今度は何か口を動かしている。

 何を言っているんだ。聞こえねぇよ。


 けれど、鏡面越しの唇が確かに形作った――

 

『……おまえの意思は、どちらだ?』


 その言葉のあと、すべてが光に塗り潰された。

 音も、冷気も、意識も、いっぺんに消えた。



 数刻後かもしれない。


「悠斗、おはよ」


 ミミの声が耳をくすぐる。

 俺は床の上で寝ていて、左右にミミとレジーネが並んでいた。


「夢?」


 曖昧な記憶の中で、俺の意識を吸い上げたのは夢だったのか。


「うん。夢だよ。人によっては悪夢かもね」


 寝ていたのか? 一体どこからどこまでだ。


 なんだ、本当に夢なのか。俺は化かされていないか。

 わけがわからない。だが、覚えている感覚は紛れもなく本物に思える。


「急ぎ脱出といきたいところだが、出口はどこだ?」


「光を当てると、抜ける箇所があります。そこが通路になっているはずです」


 レジーネは光の玉を作り、空中に浮かせて周囲を徘徊させる。


「悠斗様、ありました。あちらです」


 視界の先には、大理石に近い白い壁が続く。

 壁の奥から、誰かの足音が“鏡越し”に響いた。

 光を当てた瞬間、反対側の“俺”が微笑んだ。


「行こうぜ」


 意を決して歩を進めるが、内心はだいぶ参っている。

 またしても一本道が続く。


「階段? なんでこんな――」


 これまでの通路の幅のまま、階段が延々と続く。これを上るのか。


 階段に足をかけた瞬間、違和感があった。

 ん? 俺は今一段あがったよな?

 あがったはずなのにその場から動いていない。


 もう一度試すが同じだ。

 なら、跳躍し数段先にのる。

 するとそのまま段が下におりていく。


 どうなっているんだ。

 

 後ろを振り返ると、いたはずのミミやレジーネがいない。


『意思だけで登れ』


 誰だ?

 鏡の中の俺がしゃべりやがった。

 意思だけだと? 何言ってんだ。


 ならば階段を降りようと下を向き、下り始める。

 これもその場で、階段が俺の足に合わせて動き、その場で空回りしている感じだ。


 黒顎、白顎を出しあたりを喰らいつくそうとしたが透過し、すり抜ける。

 何がなんだか、わけがわからない。


 それならと俺はしゃがんだ。

 それでそのまま階段を背に寝転がる。

 もうどうでもいい。

 お前らの世界で好きにやってろ。


 その言葉を合図に、再び視界が暗くなり始めた。

 鏡の奥で、ほんの一瞬――笑わない“俺”がいた気がした。


 そしてまた光が消えて視界が暗転した。



「悠斗さま大丈夫ですか? 悠斗様」


 俺をゆするレジーネに起こされたようだ。

 なんだ。今度は本当に現実なのか?


 さっきのは一体。


「俺は寝ていたのか?」


「はい。かなりうなされていました」


「そうなのか」


「なので、申し訳ないですが、強くゆすり起こしました」


「助かったよ。わけがわからなかった」


「ええ、この部屋は何度も夢を見させて、どれが現実か混乱させるのが目的です」


「ここから早くでよう」


「はい、向こう側がこの部屋の出口です。いきましょう」


 俺は膝をつきおきあがると、鏡に映る俺は笑わなかった。

 ようやく戻ってきたようだ。


 けれど、離れる直前、鏡の奥で“何か”が口を動かした気がした。

 今度は――聞き取れなかった。




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