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寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―  作者: 雪ノ瞬キ


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19/30

19話:顛末を告げる声

……太鼓の音が遠ざかり、沈黙が世界を包んだ。

 

「……音が消えた」

 

 さっきまでの鼓動も、剣の熱も、嘘みたいに遠い。

 その“静けさ”が、次の不吉を知らせていた。


「待っていたよ、11人目」


 現れたのは、妖艶な女性で見た目は20代後半ほど。

 その黒い瞳の縁には、一筋だけ乾かぬ涙の跡があった。

 光を吸い込むようなその黒は、なぜか“黒涙”の名を思い起こさせる。

 傾国の美女と言われれば、誰もが間違いないと答えるほどの女性だ。


 この者が発した言葉のすべてが疑問でしかなかった。


「誰だ?」


 俺が今最善と思える問いかけはそれだけだった。


 様子からして、レジーネもミミもリリも知らない。

 この女性は、俺以外の者には興味がないかのように、彼女たちの存在には気にも留めていなかった。


「まずは欲しいんだろう?――無鳴の針」


 なんだこいつは。なぜ知っている?

 

「……予定より少し早いけど、上が急かしていてね。お前が潰れる前に渡しておけってさ」

 

「上?」

 

「気にするな。ただの観測者の独り言さ」

 

 女は笑い、針を俺の掌へ落とした。

 冷えが骨に這い上がる。


【付与:静寂の誓約/発声干渉(軽)/鼓動パターン混線リスク】


「代価は音さ。読む者は自分の音を少し失う。それでも要るかい?」


「……借りる」


「いい返事だよ、十一人目」


 戸惑いしかない。

 もうこの瞬間から、何が狙いか気になってしかたなかった。


「予言の通りさね。気にせず受け取りな。私は、すべての終わりが、どんな音で閉じるか見てみたいのさ」


「顛末が見たい? 抽象的だな」


「十一で揃うと、鐘胆録は別の頁を開く。誰も最後まで読めなかった。……今度は?」


 この一言で俺は無理やり納得したつもりで、でも警戒は怠らずにいた。


「なら受け取っておく」


「あと、鐘胆録の石板はこの先をしばらくいった先にあるけど、勇者魔獣もいるから気をつけな。倒してもいいし、好きにするといい」


 なんだこいつは、協力的すぎるぞ。しかも勇者と名のつく魔獣だと。

 勇者が魔獣に落ちたのか、それとも魔獣が“勇”の名を奪ったのか――わからない。


「なんでそこまでするんだ?」


「さっき言った通りさね。ことの顛末さえ知れればいい」


「どこまで知っている?」


 ニヤリと口角をあげると、レジーネやミミとリリを眺める。


「何を」


「もう行きな。……この頁は、まだ早い」


 勇者のことなど大して気にすることもない様子だ。

 そのまま女はゆっくりと背を向け――

 

「……無傷で返す、それが条件だからね、主様」

 

 誰にも聞こえぬほどの声で、女はそう呟いた。



「様子が違うな」


 白い石造の壁面や天井と通路に先までとは違う静謐さがある。

 神聖さがあると言っても言い過ぎではない。


「ええ、ここだけ神殿の一角のようです」


 レジーネは思案していた。そこにリリが顔を挟んできた。


「んー。なんか他のダダ様がいる感じ? でも何か違うかな」


 首をかしげながら言う。


「あ、ああ」


 俺はそのまま前を向いて歩き出す。

 俺の残り時間を確認してみた。


【稼働残 42分30秒|予備①:58分11秒|予備②:3時間50分41秒】


 レジーネの残り時間はまだ大丈夫だ。

 

【レジーネ稼働残 2日10時間25分11秒】

 

 顛末を知りたいといいながら、ついてくるわけでもないあの女性に違和感しかない。

 ただ悪意は誰も感じることはなかった。それが勘違いなのかは、今はまだ判別がつかない。


「これはすごいな」

 

 俺は思わず口をついてでた。

 行き着く先は円形の聖堂のような場所で天井が見えないほど高い。

 あまりにも荘厳で静謐な雰囲気から、今まさに何かが降臨しても不思議ではない場所だ。

 

 ステンドグラスから穏やかな光が指す。空気は冷んやりし、森の中の空気の匂いに近い。

 ただ知識として知っている聖堂に近いというだけで、まるで違う。

 その大きな違いは、目の前に聳え立つ人の彫像だ。目の前の像は、肘から先が鱗と蛇骨に置き換わり、左に小盾。台座の銘は擦れて読めない。

 

「“勇の左、蛇の右”……古い祈りの型式かもしれません」レジーネが囁く。


「俺の狼とは違うタイプか」

 

 思わず、みたままを俺は呟いた。

 

「ん〜まるでわからないわ。この彫像とあの遺骨何か関係あるの?」

 

 ミミも困惑していた。

 

「この彫像は私も初めてみます」

 

 レジーネも知らないとなると、当時から知られていない可能性もある。

 

「なあ、生贄と言うけど、当時何を基準に誰に対して贄の供物を与えていたんだ?」

 

「それについては、私も今皆さんが知っている以上のことは知らないです」

 

 鐘胆録の石板はこの先というが、ここの聖堂ではなさそうだ。

 この先の彫像の裏にある扉がその先なのかもしれない。


「ここならある意味、安全と言えるかもな」


「ええ、私もそう思います。ここは聖堂ですし」


「そしたらここで休むの?」


 ミミがどこか嬉しそうに言う。


「一旦、ここで休んでから向かおう」



 俺は、各自備え付けのベンチに横になり、一夜を過ごした。


「寝てるのか……」


 ミミは仰向けに横たわり、静かな呼吸をくり返していた。

 だが、何かうなされている。


 魔導灯の淡い光が頬を照らし、唇がわずかに開いている。

 その光景が、まるで夢の中で誰かを待っているように見えた。


「……力。食う……あたしの……」


 なんだ? 何を言っているんだ?

 背中を指でなぞられたような感覚が走った。

 その声が空気を冷やした。

 

 一瞬、俺の首筋を風が撫でた気がした。

 夢の中の声にしては、はっきりしすぎていた。


 何を言っているんだこいつは。

 俺は、息を殺して様子を見る。


「……力。食う」


 まただ。

 俺は何か秘密に触れたのかもしれないと思った。


 翌朝――。


 魔導灯の淡い光が、まだ夜の名残を抱えたまま、ミミの頬をやわらかく照らしていた。


 まだ、レジーネとリリは寝息をたてている。

 ミミはゆっくりとまぶたを開ける。

 髪が頬にかかり、寝起きの瞳がわずかに潤んでいる。

 ……けれど、その瞳の奥に、何か冷たいものが一瞬だけ光った。

 

「……おはよう、悠斗」

 

 声は掠れて、どこか甘さを含んでいた。

 俺は平静を装いながらも、心臓の音がうるさい。

 

「よく、眠れた……か?」

 

「うん……でも、変な『夢』を見たの」


「いいのか? 聞いて?」


「いいよ。でもね、さっきまで覚えていたのに思い出せない」


「まあ、夢なんてそんなものだろ?」


「そうなんだけど」


 どこか歯切れが悪い。


「何か言ってなかった? あたし」


「ああ、言ってたな」


「え? なんて」


「しきりにあたしのってな。子供のころの夢じゃないか?」


 胸の奥で何かが警鐘を鳴らした。答えは言わない。

 まあ、嘘でもないな。すべてに答えていないだけだ。

 何か勘がささやく気がする。こいつはヤバイと。


 力を食うってことは、こいつは自分のために相手を犠牲にしている可能性すらある。

 悪いほうに考えて、最悪の場合を想定したほうがいいな。


 でも俺は顔に出さない。


 ミミはいつもと異なる表情をみせる。


「そっか、うーん子供のころにおもちゃ取り上げられたことかもね」


 こいつ気が付いていないのか?

 目は見開き、口角が上がっているのを。


「よくある話だな。たまたま思い出したんじゃないか」


「それもそうだね。ありがと」


 もし、万が一相手を殺して力を奪うタイプなら、俺を狙う可能性があるだろう。

 珍しい、“咬んで奪う”力だからな。

 俺なら仮にやられても、自己蘇生ができる。


 なら、自己蘇生は目撃していないし、知らない相手なら反撃のチャンスはあるな。

 たった一言「……力。食う」の寝言だけど、なぜか確信に変わりそうな。

 そんな予感が俺の胸の中で渦巻いてきた。


……そして、その夜、風の音だけが妙に重かった。



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