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寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―  作者: 雪ノ瞬キ


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13/30

13話:ヴァーダーの系譜

【稼働残 11時間47分3秒|予備 3時間】――さっさと要件だけ。

 

 魔導油と紙の匂い。石壁に木の仕切り、乾いた温度。

 一人に住むにしては大きすぎる石造の家だった。

 

「ミルコの紹介だ。知りたいことがある」

 

「ヴァーダーが自分で来るとは。……入りなさい」

 

 ゴダードからは歓迎され、俺たちは中に入った。

 石造の部屋でところどころ木材で壁を作り囲っているためか、ぬくもりを感じる。

 三人掛けの年季の入ったソファーに腰掛けるよう促される。

 

 突然訪れたのに、随分と友好的だな。

 何か目的でもあるのか。

 じろり、と見られる。人じゃなく仕組みを見る目だ。

 

「歓迎はありがたいが、理由は?」

 

「悠斗様それは失礼では」

 

「いや、いいんじゃ。そこのお嬢さんのいう通りだからの」

 

「ん? なんだ?」

 

 ゴダードが俺を見る目が人そのものじゃなく“仕組み”を見る目だ。興味か、研究か――観察者の視線。

 

「本物を見るのは久しぶりじゃのう。確認したくなる。――お主、ヴァーダー(ヴォイド使い)じゃ」

 

 俺は思わず怪訝な顔をしてしまう。

 ゴダードは、俺のことをヴァーダーと呼ぶ。

 一体なんだそれは?

 

 リリは俺の肩に座り嬉しそうにしている。

 リリが肩で跳ねる。


「ね、言ったでしょ」


 なんだこの妖精は、わけが分からん。

 ミミやレジーネも真剣に聞き入ってはいるが、どこまで信じているやら。

 先に俺は金貨を見せた。まずはこれについて知るのが先だろう。

 

 レジーネの必死さが伝わってくる。

 ゴダードは金貨を受け取り、皿にそっと置いた。

 

「鑑定は後だ。稀物ほど匂いが先に逃げる――まず腕を見せてくれ」


 絡んでくる。まあいい、見せる。

 

「これでいいか?」


 黒牙と白牙の両方を顕現させた。

 ゴダードは触れるわけでもなく、魔導具を取り出し光を当てるだけだ。

 

「なるほど。ヴァーダーに比較的多い汎用系だが、それ故に万能で強い」

 

「よくわかるな」

 

「それぞれ異なるハイリスクを背負っておるんじゃろ? 強力なヴァーダーは必ず何かある」

 

「何かと言ってもな……」

 

 俺は特に答える気もなかった。

 

「記憶も命も贄にする――そういう手合いもおる。命を犠牲とはおかしな話だが、それと引き換えに別者になる」


 ゴダードの鼻がわずかに鳴る。

 

「偽命の撚りの匂いが濃い。代償は“前稼働の全焼却”。違うか?」


 喉が鉄を思い出す。違わない。

 

「“ダダ”は名ではなく称だ。腕に牙を棲まわせ、偽命を撚る者」

「お前さん、気がついとるかもしれんが」

 

「なんだ?」

 

「ダダの呼称はさらにもう一段階ある。ラダーだ」

 

「なんだそれ?」

 

「ダダをまとった者って意味じゃ。その時だけは異なる異形の者となるじゃろう。だがな、身に合わぬ外套は、着るたびどこかを擦り減らす――そういうもんじゃ」


 ミミが息を呑む。レジーネは膝上の指をさらに丸くした。

 

「おいおい。驚かせるなよ」

 

 でもどこかそんな違和感はあった。

 はあ、なんだか本当に……。俺、知らねぇことが多すぎるぜ。

 俺の思惑なんぞ関係なしに、話だけが先に進む。


 ――【製作】偽命(9秒)→ 破棄。……まあ仕方ねぇ、解説は聞いとくさ。

 

「お前さんの場合、選択肢がなく全て注いで得たと見えるのう」

 

 俺はただ、生き続けたい思いで生きてきた。

 死んでいることだけは、はっきりしている。

 以前の世界も覚えている。

 

 ん?

 待てよ。

 以前の世界を覚えているだと……。

 世界だけで俺自身は。

 覚えて――いない。

 

 何だ?

 俺は一体何を求めて……。

 ゴダードは、俺の胸中などお構いなしに続けた。


【製作】偽命(12秒)→ 破棄/会話負荷:集中−


「――昔語りをしよう。

名は三つ。イノーイ・ミール、ラルフィ、ノックス。この地で「賢者」と呼ばれた者たちじゃ。

彼らは“外”を覗いた。界と界の継ぎ目――ヴォイド、誤差の帯だ。そこを手繰るうち、日本という、奇妙に整った種を見つけた。

言葉がよく馴染み、規律で自らを結える。界文に適応しやすい。だから“候補”に選ばれた」


 

 ゴダードは言葉を切り、湯飲みに口をつけた。

 神じゃなく賢者からって、人為的かよ。俺は思わず口にしそうになってつぐむ。


「……うむ。お主のいいたいことはわかる」

 

 呼ばれた側にしちゃ。たまったもんじゃないよな。


「ワシが思うに、輪廻思想が強い種族ではないかと思っておる。つまりな、次の世界でもう一度やり直せると。ワシらは、死んだら天国か地獄の二択じゃ。それが日本人という種(系統)は違うというわけじゃ」


 

 輪廻か。俺はどうなんだ……。


「話を戻すぞい」

「そこで、見つけた“日本人”に活路を見出した賢者たちは行動に移しよった」

「それで賢者は候補者を呼んだ。来るまでに、ヴォイドの洗礼を受ける。代わりになにかを手放す。それがヴァーダー(ヴォイド使い)の始まりじゃ」


 

「型は幾つもある。お主のような汎用系――過去の稼働をまるごと焼いて立ち戻れる型じゃ。万能だが、代償が重い。

 ヴァーダーは牙を持つ――黒は捻り、白は伸び、だな。それは“名”ではなくダダ。腕に牙を棲まわせ、偽命を撚る者の称だ。

 何のために? 任務は討伐――」



「帝都でも“討伐”は建前だった……」


 ミミは小声で呟いた。


「おう、建前よ。実のところは『ならし』(世界の偏りをならすこと)じゃ」


「巨獣、悪魔、そして神族。偏りを削ぐ――と言えば聞こえはええが」


 俺みたいな奴がいたのか。

 界印はあるが、同郷に巡り会えたことは一度もなかった。


「最初は上手くいっとった。だが、世界は……広すぎた。千分の一ほど削ったところで、向こうが“押し返して”きおったわ。

それが黒涙こくるい。黒い雫が空から降り、町をまるごと飲み込む現象じゃ。境界が溶け、鐘の内まで染みた。鐘音の結界で辛うじて踏み止まった町もあるが、多くは失われた」


 

「黒涙の最中、第四の賢者が現れたという記録も残る。名を欠く。人の町を幾つも“整理”し、跡形を残さず消えた」


「それからだ。ヴァーダーたちは忽然と姿を消した。召喚はやみ、残滓だけが漂った。腕に牙を残したまま、行方知れずになった者もいる」


「残ったのは制度じゃ。人族は“神の側”を掲げて界人(異界来訪者)に界印を刻み、差別を神の名の下で正当化したんじゃ。受け入れを掲げる町も、税を取る。鐘の内へ踏み入るたび、時間を払わせる。形を変えたならしだよ」




「アルフォンシア王国も、黒涙の渦中にあった。王はしるしを選ぶ。王族を水晶に収め、生きたまま保管した。最後の防壁だ」


 レジーネのまつ毛が震え、膝上の指がそっと丸くなる。

 喉が小さく鳴った。


「場所は灰鳴かいめい。界印と界籍なしの受け入れを掲げながら、門で“固定−じゅっ分”を課す町。鐘の音の届く範囲=〈鐘域〉が結界で、その外縁=〈境界線〉。境界線を跨いだ瞬間、計量が走り、その場にいる全員から等しくじゅっ分が自動で落ちる」


 

「……要は世界の自動引き落としか。誰も交渉相手じゃないってわけだな」


「お主がそこへ行くなら、外結線の“帯域”(安定幅)を用心しろ。外結線は揺れる。灰鳴は受け入れるが、等しく削る――それが、この界のやり方だからな」


 外結線が揺れた瞬間――レジーネは落ちる。

 それはまずいな。

 外結線が外れたら十メートルを超えたのと同じ扱いになるのか、まだ分からない。

 裏側から入る方法を探るしかなさそうだな。


「……それと、帝都エド。星導の戦士は今も息をしておる。道は、繋がっておる。ワシも詳しい場所まではわからんが」


「帝都エド」――ミミの瞳が一拍、揺れた。


 時間を払う門……命を小銭みたいに扱いやがる。

 これまで必死に目の前のことにしがみついて生きてきたが、知らないことが多すぎた。


 廊下が一度だけ鳴る。金属の泣き声が、さっきより近い。


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