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寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―  作者: 雪ノ瞬キ


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12/30

12話:灯の巣、偽命は撚れる

「どうしてこうなった」


 宿に向かう前、偽命は二秒単位で揺れていた。


 俺のわかる範囲での偽命のログは、2秒から3秒を行ったり来たりしている。

 その秒数なら破棄しかなくそのログが続く。


 ストックしていた魔石も少なくなってきた。

 低格の魔石キューブはまだあるが、あれは使わない方がいい。

 中格も少しだけあるが同じだ。


 このままだと寝る時間すら確保できない。


 ああ、まいった。マジでまいったぞ。


「悠斗様、もしかしてうまくいかないのですか?」


 レジーネは、心配そうに見つめる。


「悠斗大丈夫! 大丈夫! なんとかなるよ」


 かたやミミはお気楽だ。


「灯の巣を作ろか?」


 リリはいうが本当に確率が上がるんだろうか。


「なあ、リリ。それ宿に帰ったら部屋の中でできるんか?」


「うん。全然大丈夫。やろやろ」


 俺は一旦こねるのを止めた。これ以上やってもほんの数秒ばかりの地獄だからだ。


 ああ、この秒刻みの延命サバイバルなんとかしてぇな。


 内心で焦りつつ数分歩いた先に、目的の宿の紅屋根が見えてきた。


「あれか?」


「うん。そうだよ」


 大きいのか小さいのかわからないが、以前いた町の宿と比べて大きいかもしれない。

 扉を開けて中に入ると、エルフに見える恰幅の良い女将らしき人がいた。


「三人一部屋で泊まれるか?」


「大丈夫さね。どのぐらいだい?」


「ひとまず一ヶ月」


「いいね。宿代はひと月・一人・銀貨三十。三人で九十だよ」


「この金貨使えるか?」


 女将は息をのんで目を細めた。


 俺はあの時、レジーネが開いた宝物倉庫で得た金貨を見せた。


「……こりゃアルフォンシア王国の金貨じゃないかね。この辺りを治めてた王家の印だよ。今じゃ遺跡だけが残って人はおらんのに、よう残ってたもんだ。崩すには惜しすぎる代物だよ、いいのかい?」


 レジーネの指が小さく震えた。

 

「崩せないのか?」

 

「釣り銭は用意できないし、鑑定所を通した方がいい。……こうしな。一年分はうちの宿帳に前納で記して、残りは“預かり札”にしておく。嫌なら明日、遺跡の“ゴダード”に見せな。あの爺さんが一番詳しい」

 

「それで頼む」

 

「はいよ。――宿帳『悠斗一行』、前納一年。預かり札は鍵と一緒に。朝夕の飯は鐘で呼ぶから遅れないようにね」


 ミミが割って入ってきた。

 

「掃除と湯、込みだよね? 夜更けの出入りは?」

 

「どっちも込み。門限は無いさね」

 

 そういや王国の名前を出してきたけど、あの感じだともうなさそうな雰囲気だ。

 

「なあ、そのアルフォンシア王国はどうなったんだ?」

 

「詳しくは知らないけど、酷い大戦で忽然と消えたと聞くよ。ここもその跡地さね。続きはゴダードに聞くといい」

 

「どこで会える?」

 

「この先にある遺跡に居を構えておるよ。赤茶色の屋根が目印さね」

 

「わかった助かる」

 

「ミルコからの紹介だといえば大丈夫だよ」

 

「ああ、ありがとな」

 

「あと飯は朝と夜出るよ。鐘がなったら食べにきな。時間が遅いと無くなっちまうからね。ほい、鍵。部屋は二階の端だよ。鍵と同じ模様の扉が目印ね」

 

「わかった」

 

 レジーネは今にも行きたそうな顔をしているが、ここは待ってもらうしかない。

 なんせ、まだ偽命がこねられていない。

 マジでこのままだと死ねる。

 俺たちはさっさと部屋に入り、くつろぐ。ベッドは四つ。三人掛けと二人掛けのソファが一台ずつ。机と椅子が一組。

 奥にあるのはトイレか? 悪くないな。

 

「灯の巣ってのは?」

 

「妖精の群れ魔力域。空気が“”で満ちて、偽命の撚りが整いやすくなるの」


「ねね、やる?」

 

 リリが楽しそうに、俺の周りを回っている。

 

「レジーネはベッドで安静。あたしは外で見張りやる。十五分ごとに合図、いい?」


「集中してっとそれ無理だな」

 

「わかった私の方から気になる時は声かけるね」

 

「ああ、頼む」

 

「レジーネ。まずは、偽命1日分相当が作れるまで待ってくれるか?」

 

 そろそろレジーネの稼働時間が心許ない。

 あの白い霧の場所以外で、うまくいくのか?

 リリの言う、『灯の巣』の中でなら安全かもしれない。

 でもな。これでダメだと積むぞ。

 

「ええ、もちろんです。もしかして顔にでてました?」

 

「ああ、めちゃんこな」

 

「うんうん。レジーネって意外と顔に出るよね」

 

 ミミは嬉しそうだ。

 案外レジーネは天然なところがあるやもしれない。

 ミミが窓掛けを少しだけ下ろす。

 

「音、吸うようにしておくね」

 

「ミミ助かる。それじゃ、リリ頼んだ」

 

「任せて!」

 

 なんだ? どうにでもなぁ〜れ〜と言っているように聞こえてきたぞ。

 そういう呪句なんだろう。気にしねぇ。

 

「すげぇな。光の粒かよ」


 光の粒でできた濃霧が発生した。

 待てよ。これってあの時の白い濃霧と似ているな。

 ……似てるが、匂いが甘い。保存域の白霧じゃない――これが妖精系の“灯”なのか。

 

【識別】白霧:保存域/活性灯〈別系統〉


 それなら、試そう。

『灯の巣』の中でこねる。

 

【展開】灯の巣:局所濃度 増大

【製作】偽命(13分20秒)→ 破棄(手応え:薄)

【製作】偽命(9分12秒)→ 破棄(手応え:薄)

【製作】偽命(3分28秒)→ 破棄(手応え:並)

【投与】触媒:魔石キューブ(低格)×1

【製作】偽命(8時間0分0秒)→ 保留(予備[1]へ)/手応え:強

【製作】偽命(24秒)→ 破棄(手応え:薄)

【製作】偽命(2日)→ 生成(良)/手応え:極


 きた――! レジーネに取り付けよう。

 

【記録:灯の巣】微ハウリング発生(半径200m/拡散予想2時間)→ 外部検知リスク:低(安全域内)


「レジーネ、2日分ができたからつけるぞ」

 

「はい。ありがとうございます。すみません私を優先させてしまって」

 

「いいってことさ。作れるの俺だけだからな」

 

「それに――」

 

 レジーネは言いかけて、視線を落とした。指先が胸元の紋をそっとなぞる。

 紋が、爪先で触れるたび微かに温い。――言えない言葉がある温度だ。

 

「……ううん、なんでもない」

 

「?」

 

 レジーネを近くに引き寄せ、以前と同じく胸骨中央に手のひらを当て、試そうとした時、思いとどまった。

 待てよ。これ失敗したら破棄だよな。かといって手元にはこれしかないし……。

 よし、やるぞ。


【結線失敗】受け側飽和不足/接触面積不足(胸骨:20%)→ 偽命フラグメント破損


 胸の下で、薄い静電の痛み。レジーネの喉が小さく鳴った。

 やっぱりか、なんでだ。もっと密着していた方がいいのか?

 それともこの濃霧の滞在時間が影響するのか。

 

 わからん……こねないとな。

 あれから十度目にして、再度できた。3日間分という大ものだ。


【結線】完了(胸骨:92%密着/灯素補助あり)→ 稼働3日


 今度は何の問題もなく、結線できた。

 なんだ? 一度目と何が違うんだ。


 リリが無邪気に呟く。

 

「ダダ様。もうすぐ終わっちゃうよ」


 全く、そんな気楽なものじゃねぇんだけどな。

 

「え! まじで? 今急ぐ」

 

【製作】偽命(12時間0分0秒)→ 生成(良)/自装着

【製作】偽命(3時間0分0秒)→ 予備[2]へ


 俺、十二時間と三時間ゲット

 出来すぎだろ。

 よし、十二時間の入れ替えだ。

 

【稼働残:11時間59分59秒|予備①:8時間|予備②:3時間|錨:魔法袋|錨:鉄棍〈回帰〉]】


 そんで一息ついたら、ゴダードのところへ向かう。


 灯の巣の粒が薄れていく。レジーネは寝息。リリはカーテンレールで一回転、着地。


 廊下で女将の足音が一度。鐘までは、まだ少し。


【行動予定:遺跡北口→ゴダード→次行程】

【補助ログ】副交感↑/情動ノイズ↓/稼働残 変化なし

 

 喉に金属味なし。偽命は持つ。――出るか。


 部屋の扉を引くと、樫の廊下が乾いた音で一度だけ鳴った。


 宿の1階でちょうど女将に会ったので、念のため場所を確認する。

 宿を出た先の北側にある遺跡群の中に家があるので目立つということだ。

 

 宿の扉を押すと、乾いた粉塵と磨き油の匂いが薄金の光にほどけた。

 リリはすでに知っているらしくゴダードとは何度もあっているという。

 

「アタシ知っているよ? 案内してあげるね」


 上機嫌に俺の頭上をくるくると回りだす。

 道程はさほど大変でもなく、街道をひたすら歩くこと三十分程度。

 話に出てきた赤茶色の屋根が見えてきた。


 遺跡の裂け目に風が溜まり、乾いた粉塵が足首で渦を巻く。

 赤茶色の屋根の軒先に、小さな“波形鈴”が吊るされていた。風もないのに、ひと鳴り。

 

 遺跡の真ん中に、書庫兼工房。赤茶色の屋根に星図。扉を押す前に、向こうから開いた。

 現れたのは、ドワーフを想像していたが違った。

 

 エルフなのか?

 年配の白髪とシワが深く刻まれた表情から、年季を感じる。

 

「灯の匂いが濃い。ヴァーダー、ここへ」

 

 ヴァーダー、だと? ……誰の分類だ、それ。

 ……その時だ。遺跡の底から――。遠い金属の泣き声が、一度だけ。






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