最終章
一瞬、何が起こったのかその場にいた全員が理解できなかった。
レムへ斧が振り下ろされた後、斧は金属を弾いたような音がして、祭壇からすべり落ちた。
自分が無事であることに気づいたレムは、ゆっくり目を開けた。
「ご無事ですか、坊ちゃん」
「―ああ、ルシアン…!」
いつの間に、駆けつけたのか、ルシアンはその身で斧を受け止め、
体は金具を撒いて崩壊を始めていた。
涙で全く前が見えなくなったレムは、ぐちゃぐちゃの顔でルシアンを抱きしめた。
「早く、逃ゲて…!」
「ルシアン…!」
「…、サいごに、母親らしくデきて、…よかっタ…」
レムは力を振り絞って、ルシアンの体を突き飛ばし、
祭壇から飛び降りた。
聖少女は舌打ちをし、ルシアンの体を蹴り上げる。
「何をしている!少年が逃げたぞ、追え!」
レムは振り返らず、とにかく走った。
無我夢中で足を懸命に動かし、肺がどんなに痛んでも走った。
前は見えない。あふれてくる涙は止まることを知らなかった。どうか、
どうか父さんが彼女をもう一度!
そう願いながら。
やがて、追っ手から逃れたレムは、シュツィアのアトリエへ逃げ込んだ。
彼のアトリエは出入りを禁止されていたため、入るのは初めてだった。
明かりは一切なく、点在する機材に足をとられながらレムは息を潜めた。
幸い、シュツィアの姿はない。
思い浮かぶのはやはりルシアンの最期。
服の袖で何度も顔を拭い、レムはうつむいた。
あの優しい温もりはもう自分にはないのだ。
そう考えただけで頭が痛んだ。
そんな中、アトリエのドアが開き、
レムは緊張して、体をぎゅっと抱きしめた。
誰かが来た。
心臓がドキドキと警鐘を鳴らし、耳を打ち付ける。
ぱっと辺りが明るくなり、電気が灯ったのを知る。
「ここにいたか。」
なぜこの場所が、そう口から音にならない声が掠れ、目を疑った。
そこにいたのは自分を殺そうとした、聖少女の姿だった。
「手間をかけさせる。私でなければわからなかったな」
そして、ゆっくりとベールを脱いだ少女を目にすると、
レムは絶句した。
「会いたかった、レム」
聞きなれた優しい声を出す、笑顔の似合ういつも通りの
アリシアの姿がそこにあった。




