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三話 父


 レムの父、シュツィアは妻ルシアンの死をきっかけに

全く他人と関わることを極端に止めた。

それは血の繋がった息子にも同様であった。

幼い息子を遠い存在にし、頑なにも拒絶するには、シュツィアの思惑があった。

その末端として今年、彼は神託の神子となった。



 食卓の席にシュツィアが現れたのは、奇跡に近かった。

レムは数年ぶりの父の姿に唖然とし、立ち尽くしてしまった。

口を開けっ放しにして呆ける息子に、シュツィアはしゃがれた声で

促した。


「何をしている、さっさと座らんか」

「あ、う、うん」


何の気遣いかと探る息子を尻目に、シュツィアはさくさくと食事を続けた。

沈黙と静寂が続くダイニングに、遠慮気味なレムの声が響く。


「め、珍しいね。どうかした?」


返事はない。

レムはそれでもシュツィアがこうして食事を共にしていることが、たまらなく

幸せに感じた。

髪は好き放題に伸びきって、とても町の地主だなどとはいえない風貌にはなったが、

うっすら残っていたレムの父親像とは、寸分の狂いもなっかった。

嬉しさからこみ上げる笑みを一生懸命堪え、

それらはすべて今晩の夕飯と共に胃へ流し込んだ。

レムが食事を終えるのを待つこともなく、シュツィアは席を立った。

レムは急いで口のなかを空にし、シュツィアに声をかけた。


「と…父さん!」

「…なんだ」

「明日も、よかったら一緒に…!」


黙って行ってしまうのでは、と思ったレムだが、

シュツィアが返したのは意外な言葉であった。


「ああ、構わん」


そうして去った父の背中を見届け、

レムは体中から声を振り絞り、拳を掲げた。


「ぃやったああ!」


僅かな変化だった。だがそれはレムにとっての改革であり、

大変喜ばしいものに違いなかった。

どうか父の気まぐれでありませんように。

そう何度も繰り返し、レムは嬉々として部屋へ戻るのであった。







 薄暗い室内。

ランプの明かりがぼんやりと足元の人形を照らしていた。

外界からの視界や光を遮断した室内は、湿気を帯び、じっとりしていた。

人形を作成するアトリエとしてはこの上なく悪い部屋であるに違いない。

シュツィアは机にだらしなく足を組んだ人物を見やる。

目深くフードを被っているため、性別や表情は分からない。

全体的に、華奢な体をしていた。


「かわいそう、お前の息子は喜んでおったぞ」

「そうか」

「お前という人間はつくづく面倒に生まれてきたんだな」

「…何の用だ」


高い声であった。

おそらく女性のものであるような艶めいた声は、

りんごを噛み砕く音に時折かき消され、

くつくつと笑いをこみ上げさせる際にはとうとうりんごを床へと落としていた。

シュツィアはそれを嫌そうに見つめた。


「謝っておくよ」

「なんだ」


高い声は低いシュツィアの声に反して耳につく。

ゆっくり囁かれた言葉に、シュツィアは目を見開いた。



「お前の最高傑作、間違って壊してしまったんだよ…」





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