不運は唐突に
中二病、一匹狼気取り、童心大学生、鈍感火星人、異星ギャルと共に厳重すぎる契約を取る。
そしてやっとのこと会社の中を見れるようになったのだった。
部屋の至る所にあるモニターには、世界各所のなんてこと無い映像が映っていた。迫力にやられそうになったが、案内人が口を開けて説明を始めたので、すかさず耳を傾けた。
「ここモニターデッキでは、私たちだけが所有する技術を正しく使われているか、悪用されていないかを監視しています。モニターデッキがあることで、世界のあらゆる害の抑止力にもなっています。一番重要な職と言っても過言では有りません。」
名刺を見るに、ほとんどの時間ここに勤務しているのであろう。案内人はさも自分がここのトップであるように得意げに話していた。
「そのさ、「私たちだけが所有する技術」ってなんだ?」
オモトがそう聞くと、案内人は目を細くして睨んでいた。オモトがこちらに助けを求める目で見てきたので自分も睨まれることを考慮して、無視をした。
全体を見ると、モニター達はカラーと白黒で分かれていて、どこが重要で、どこを必要としていないかが大体予想がついた。まぁ分かりきってたことだけど、どれがどれだかは全然覚えられなかった。
一通りサッと見たあと、次の違う案内人が来るなり、急かされるように次の施設へ連れて行かれた。
「こちらは経営・管理系です。通路でつながっているため中からは見えませんが、縦に何階層にもなっていて、経営陣、経営企画部、人事部、総務部、法務部、財務・経理部に分かれています。経営陣はBOSS、人事部はBOSSの幹部達が同じようなことをしているため、無いに等しいです。ですが、それらを抜きにしても、一番重要な職と言っても過言では有りません。」
俺達は一つ一つの部屋の広さと、働いている人達の環境に驚いていた。
「すげぇ...アナログがないよこれ」
「スター・ウォーズとかジュラシック・ワールドの研究施設で見た!」
女子二人組みも騒いでいた。
でも使っている機材が高密度転移機構とか思考転写機とかで常軌を逸しているだけで、仕事内容は他と変わらなそうだった。全員が死にそうな目と天国にいるような表情を左右しながら作業していて少し怖かった。
「あれはなりたくないな」
「そうですね」
「うん」
オモトとルチアーバも同じことを思っていたようだ。
そしてここの次は会社の外に通じているらしい大きいトンネルだった。何台かの宇宙探査車が駐車していてすぐに気づいたが、ここは運送のための場所だった。案内人が話しだす。
「この場所では最先端の宇宙走行車や航宙機を使い、世界各地からさまざまな物品を仕入れたり、現地に送ったりしています。先ほど見学したであろう施設の物も、全てここから入っているので一番重要な職と言っても過言では有りません。」
ここもちょっと規模が大きいだけで、他の大企業と変わらない光景だった。
それからはかなりスムーズに全体を回って、やっと上の階に上がっていった。しかし違和感だったのは、明らかに内装が違ったこと。そして重々しい雰囲気が次は居るであろう部屋から漂っていたからだった。
部屋に入ると、また長々しい絨毯が敷かれていて、その先に一人、趣のあるテーブルの縦に大きな椅子に座っていた。壁全てが透明だからか、彼の背中に宇宙そのものが広がっている感じがした。もちろんここは地球ではなく、月のような何も無い場所なようなので、宇宙が目に見えるのは当たり前のことだが、彼は不思議と背負っているように感じた。
ローブを羽織った髪先に行くにつれ紺色になる純白ロングヘアーの彼は俺たちの方を見て口を開けた。
「君たちが先ほど聞いた新人かね?」
案内人すら入らなかったので、沈黙が少し訪れあと、俺が声をあげた
「そうだと思います」
彼は満足がな顔をしたので少し安心した。
「フム、君たちはもうここの施設は一通り回ったかね?」
「はい!」
次はルチアーバが言った。
「ではまぁ、そんな小さい話は今度にして、私について話そう」
全員が彼に萎縮していたので、逆に興味が湧いた。
「私は此処の会社、YEKK社の社長である「不運」だ。この会社におけるすべての事象は私の管轄内だから、君たちを雇ったのも、ここの部屋に呼んだのも私だ。君たちのことはまだあまり知れていない。どんどん行動を起こして、自分と言うものを誇示してくれ。理解が及び次第、質問に移る。」
今までの人とはまるで違う言葉使いに、頭がパンクする人が2名ほどいた。しかし社長は、それをゆうに超える言葉を投げ飛ばし始めた。
「いや、こちらが問いかけよう。君たちはこの宇宙に起こる現象は何の力で動いていると思う?」
ルチアーバが声を震わせながら答える
「万有引力とか…ですか?」
「それを含んでだ」
皆が黙るのを見て、社長はまた喋り始める
「一番説明しやすいであろう物は「神」だ。全知全能という言葉だけで意味が通じる。そして人類はかつて、それを不可能の領域と見ながら挑戦し続け、超未来である今、不可能は存在を薄くしている。しかし、それを持ってしても人類が納得できない、再現できない物がある。」
俺はツバを飲んだ。夢中になっている社長の姿に威厳を感じた。答える口は重く開かれた。
「それは『時巡り』だ。その中でも『逆行』が特に。」
「人類は幾度となく時を操作しようとした末、「未来」「過去」「平行世界」の分野に分けて研究をして、今や「未来」「平行世界」についてはわが社がその技術を発見し、保持している。しかし過去だけがどうしても完成しない。」
黙って聞いていたオーディンが口を開く
「なんか、ここに来てから胡散臭いことばっかでイライラしてるから言ってやる。時の逆行など無謀だ!」
「でもなぜ辞めないと思う?」
その問いをされてオーディンはまた黙る。
「なぜ辞めないか。実現できるとか、根拠があるとかじゃあないだよ。ロマンだよ。それが一番伝えやすい。私たちはそれを求めている。君たちも、それを胸に働いて欲しい。熱心に働いていれば、研究員の一人なれるかも知れないからね。理解が及べばその扉から戻りなさい。」
納得したような、呆れたような、そんな感情が頭を巡った。
しかしだ、得体のしれない企業のトップにこんなオーラのある男がいたこと、思ったよりも壮大な話を吹っ掛けられたことに、なぜか胸が高鳴っていた。
モハメド・ルチアーバ
地球人 身長159cm 体重59kg アフリカ生まれの黒い肌
白のスキッパーシャツに黒色のパーカーを重ね着していて、ジーパンを下に着ている。
パーマ。その中でも無造作なツイスパ
新人の中では2番目に背が低いが、身体には筋肉が詰まっている。中二病を患っているが、基本敬語で話している。服はお姉ちゃんのお下がりだったりする。