深みへ
集められた新人達。怪しい老いた男。黒そうな会社。捻くれた主人公。物語は日常のように続いていく。
間を置かず、どんどん自己紹介は続いていく。次は眼力の鋭い黒人の少年だ。どこ出身かまでは想像できない。
彼は、老いた男が「次どうぞ」と言う前に立ち上がった。そのぶっきらぼうさから、この会社の真相を知ってると思ったが、発した言葉から「ただすぐに終わらせたい」のだと分かった。
「僕の名前は「モハメド・ルチアーバ」。月の表から来た。僕は走るのが好きで、特技もそれだ。人と関わるのは効率のいいことじゃないから、程々に話は済ませて欲しい。よろしく。」
なんとまぁぶっきらぼうな挨拶で、真っ先に中二病と疑った。老いた男や周りの皆も目を細めて絶妙な表情をしている。続いて自己紹介する男も少しまゆを傾け、少し間を置いてから席を立った。彼はたぶん、あの土星人だろう。モフモフの厚着で、常態化したヒビが頬に入っており、全体的にデカい。
「俺は土星の衛星のタイタンから来た「オーディン」だ。俺は人を信頼していない。だから会話ができるようになるまで素性を話すつもりはない。よろしく。」
最後の「よろしく」にはかなり力が入っていた。でもそれ以外の文言はだいたいモハメド・ルチアーバ。むしろそれより重症で、ルチアーバは比較的に律儀だったと感じた。ルチアーバ自身も恥ずかしさでく少し照れていた。
次は...俺か。今まで全員分を見てきたが、ここでドッと緊張してきた。予想していなかった圧迫感が自分に襲いかかって、体が震えながら動こうとしているのが分かる。悪目立ちしないよう、慎重に立ち上がった。
「俺の名前は...えと...「カガ・リョースケ」だ。地球出身で、好きなことは寝ることと食べること。嫌いなものはチョコミント....」
やばい続きが思いつかないぞこれ。いやもういい締めよう。
「精一杯会社に勤めようと思っています。よろしくお願いします。」
見ていた割に、俺が一番内容がなかった。悔やましい。
そこから老いた男が流れを切り、会社のアピールを始めた。間を置かずに30分近く長ったらしく話していた。簡潔にまとめると
1.この会社は未来に及ぶ可能性のある危険を排除する
ための事業を行なっている
2.この会社は世界理念に基づいた正義である
3.最初は新人たちでの団体行動だから、わからないこ
とがあれば老いた男に聞くこと
4.ここから出ようとすることも、起きたことを発信す
ることも基本的に禁ずる
5.社長のことは「BOSS」、もしくは「不運」と呼ぶこと。
ざっとこんな感じだ。
その後、職場案内の準備ができるまで待機だと言われた。すると火星人のマゼンタが近づいてきた。
「あなたに聞きたいことがある!」
結構大きな声で話しかけられて、若干ビビったが
彼女にはこの会社の黒い部分を話していたことを思い出した。
「隻眼じいさんの話の前に、その...何ていうか...あれの話!」
何となく言いたいことは分かった。とりあえず部屋の端に移動した。
「あんたの言いたいことはわかる。とりあえず聞いてほしいんだが...」
チラッと顔を見ると、不満そうな顔をしていたので急いで話し始めた。
「あんたには会った時に「俺はここの会社で記憶を抜かれたことを覚えている」と言ったな?あれは嘘じゃあない。俺がしっかりこの目で見たことだ。」
また顔を覗くと、不満そうな顔を続けていた。彼女はそのまま反論してきた。
「でも我は家を無くして、それで助けてもらって...」
「じゃあそれを覚えているか?どうやってここに来た?一番最後に覚えている景色は何だ?」
そう言うと、黙りこくってしまった。信じられるような、信じられないような、そんな感じだ。
「まぁ信じないならそれでもいい。どうせこの会社からは出れない。様子をうかがおうと思ってる。」
「なんか問題起こすつもりなら、我のことは絶対にしゃべらないでよ」
「分かった」
てっきり知ってると思って話してしまったが、失敗だったかもしれない。気づいていたと知られたら、なんか殺されそうだからな。
...今、人影が見えた気がした。小柄な人。心臓の鼓動が速くなったが、できる限り抑え冷静になり、なにげない形で戻ることにした。
マゼンタ・ガルミムス
火星人 身長170cm 体重63kg 真っ赤な肌
ドルマンスリーブっぽい服に短パンジーパンを履き、腰に上着を巻いている
茶髪のミディアム
筋肉質な身体でスタイルがいいし、スポーツもできるが、本人は一人黙々とゲームをしたりするのが好き