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神獣妖人  作者: リアリス・リスタート
第一章 魔法使い編
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決闘、妖人&獣人VS人間

担「刃物ナイフ弓矢アロー!」


担は店の片隅で、粗末なわら人形に向かって手をかざし、淡々と呪文を唱えていた。彼の指先から現れた見えない刃物がわら人形を切り刻み、続く矢が的確に命中する。一見、真剣な訓練のようだが、その表情はどこか退屈そうだ。


担「…暇だな」


独りごちた彼の言葉が、静かな店内に響く。客のいない時間は、彼にとって持て余すものなのだろうか。


実「担くん!」


と、その時、店の扉が勢いよく開き、少年、実の元気な声が響き渡った。


担「いらっしゃっせー」


担は気だるげに声をかけ、実の方に目を向けた。彼の視線の先にいたのは、いつも通りのはずの実と、その隣に立つ小さな白い狐だった。しかし、その狐の姿は、担にとって見覚えのあるものだった。


実「見て見て!狐さんが迷子だったからね、連れてきたの!」


実が満面の笑みで、白い狐を撫でる。狐は実の腕の中で、愛らしい仕草で尻尾を振っていた。


担「ふーん…って白狐 琥珀じゃねえか!?」


担の顔に、驚愕の色が走った。彼は思わず立ち上がり、信じられないものを見るかのように目を剥いた。目の前にいるのは、先日「退出エジェクト」で店の外へ放り出したはずの、あの少年、琥珀の獣の姿だったからだ。彼の口調は、いつもの無気力さとは打って変わって、明確な動揺と困惑が入り混じっていた。


李琳「ありゃりゃ…バレちゃったか…」


どこからともなく、李琳の声が聞こえてきた。彼はいつの間にか店の隅に立っており、楽しげに笑っている。


担「退エジェク…」


担は李琳と琥珀を一瞥すると、すぐに忌々しげな顔に戻った。再び「退出エジェクト」の呪文を唱えかけ、彼らを店から追い出そうとする。しかし、その言葉は途中で途切れた。実が琥珀を抱きしめている姿が、彼の脳裏をよぎったのだ。


李琳「まあまあ、一旦話を聞いてくださいよ」


李琳は、担の行動を予測していたかのように、にこやかに言った。その声には、妙な余裕が感じられる。


担「魔法使いでもないガキを巻き込むな」


担は低い声で言い放った。彼の視線は、まだ琥珀を抱きしめている実に向けられている。その言葉の奥には、彼なりの「平和への執着心」が垣間見えた。


李琳「ファンシーランカー」


李琳が指をパチンと鳴らした。その瞬間、店の空間がまるで万華鏡のように歪み始めた。色彩が乱舞し、現実と幻想の境界が曖昧になる。実の目には、何が起きているのか理解できない驚きの色が浮かんだが、李琳の意図は、彼をこの異常な状況から切り離すことのようだった。


担「精神安定化カーマダウン


担は、乱れ始めた店内の空間と、困惑する実の様子を見るや、即座に呪文を唱えた。彼の手から放たれた目に見えない力が、歪む空間と、実の混乱した心を包み込む。実の顔から驚きの色が消え、まるで何事もなかったかのように穏やかな表情に戻った。彼の意識は、李琳が引き起こした「ファンシーランカー」の幻覚的な影響から切り離されたようだ。担は、李琳の意図を見抜き、それを無効化したのだ。


担「何が目的だ」


担は李琳を真っ直ぐに見据え、低い声で問い詰めた。彼の目には、もう退屈そうな色はなく、鋭い警戒心が宿っている。


李琳「神獣妖人戦争への参加の要求だよ」


李琳はにこやかに、しかし一切の躊躇なく、その目的を告げた。彼の表情は、まるで当然のことを述べているかのように穏やかだ。


担「チッ…お前も敵か。そりゃそうか…妖人ようじん獣人じゅうじんだもんな…って待て。お前、獣人を取り入れたのか」


担は舌打ちし、李琳の言葉に隠された意味を瞬時に読み取った。担は、妖人である李琳が、敵対するはずの獣人を味方につけたことへの驚きがあるようだった。


李琳「そうだよ。獣人は弱いからね。それに、神人には妖人も到底敵わないから、なるべく味方を増やすべきなんだ」


李琳はあっけらかんと答えた。その言葉には、獣人への侮蔑と、神人への明確な警戒感が滲み出ている。彼にとって、力のない者は利用すべき対象であり、強大な敵にはあらゆる手段で対抗すべきという現実的な思想が垣間見える。


担「なるほど…冠姉はスカウトか…?俺は邪魔だから排除しようと…」


担は、納得したように頷いた。凛子の目的がスカウトであること、そして李琳が排除を試みた理由が、彼の頭の中で繋がり始めたのだ。彼の言葉には、李琳の行動原理を理解したことによる、微かな諦めのような響きが混じっていた。


担「この間の凛子とやらは、やっぱり妖人か…目が人間じゃなかった」


担は独りごちた。凛子の瞳の異質さを思い出し、彼女が妖人であることを確信した。


李琳「すごいね。そんなことまで気がついているなんて。まあ、凛子ちゃんは失敗したみたいだね。四季ちゃんスカウト計画。だから、四季ちゃんもあとで殺しに行く。まずは君から!」


李琳は、担を嘲笑う様に言った。その言葉の響きは、それまでの飄々とした態度とは裏腹に、冷酷な決意が込められていた。


担「結界バリア!」


担は即座に手をかざし、透明な障壁を張った。彼の表情は、李琳の殺意を真正面から受け止めている。


李琳「アクラティクス!」


李琳は、その場から一歩も動かず、担の結界目掛けて強力な魔法を放った。それは、目に見えない衝撃波のような、あるいは空間そのものを歪ませるような、形容しがたい攻撃だった。結界にぶつかった瞬間、まるでガラスが砕けるような鋭い音が響き、店内の空気が激しく震えた。


担「(こいつ、殺意が…!)」


担の結界は、李琳の攻撃を辛うじて防ぎきった。しかし、その衝撃は担の体にも響いたようで、彼の顔には微かな苦痛の色が浮かんでいた。李琳の魔法に込められた、純粋なまでの殺意を肌で感じ取り、担は内心で警戒を強める。


担「ガキ!逃げろ!」


担は、結界を維持したまま、実に向けて叫んだ。彼の声には、いつもの気だるさはなく、強い焦りと命令の響きが混じっていた。その視線は李琳から離さず、実が巻き込まれることを何よりも危惧しているのが見て取れる。


李琳「ナヤサムランカ!」


李琳は担の警告を無視し、更なる呪文を唱えた。空間に張り巡らされた魔力が収束し、複数の鋭い漆黒の茨となって、担の結界目掛けて容赦なく突き刺さる。それぞれの茨は、結界にぶつかるたびに裂けるような音を立て、視覚的にも痛々しい攻撃だった。


担「くっそ…強力結界インビンシブル・シールド!」


担は苦々しく呟き、両手を前に突き出した。透明な結界が瞬時に幾重にも厚みを増し、彼の周囲を完全に覆い尽くす。李琳の放った茨がその結界に叩きつけられると、乾いた音を立てて弾け飛んだ。しかし、担の表情には、依然として余裕はない。


琥珀は、担に一瞬怯んだものの、すぐさまその白い狐の姿で、低く唸り声を上げながら担へと襲いかかった。彼の小さな体からは想像もつかないほどの敏捷さで、残像を残しながら担の懐へと飛び込もうとする。


担「(無声呪文、拘束アンバインド)」


担は李琳の攻撃を受け止めながら、琥珀を見もせずに、無声で呪文を唱えた。次の瞬間、琥珀の体が空中でピタリと硬直し、透明な縄に縛り上げられたかのように身動きが取れなくなった。そのまま宙に浮いた状態で、必死にじたばたともがく。


琥珀「んぎゃ!」


琥珀の、小さくも不満げな叫び声が、虚しく宙に響く。彼は担に近づくこともできず、もがくだけだ。


李琳「タナヤナサティル!」


李琳は、琥珀が捕らえられたことに構うことなく、更なる追撃を放った。店の天井から、無数の細い光の糸が雨のように降り注ぎ、担の強力結界に降りかかる。光の糸は結界に触れると、まるで硫酸のようにジュウジュウと音を立て、結界を蝕もうとする。


担「分散ディスパージョン!」


担は焦りの色を顔に浮かべながら、素早く対応した。彼の手から放たれた目に見えない力が、降り注ぐ光の糸をまるで霧のように散らしていく。攻撃は防がれたものの、担の表情は依然として厳しい。李琳の猛攻が、彼の魔力を確実に削っていることが見て取れる。


担「(そろそろ貯まったな…)」


担は何かをずっと見計らっていた様だった。


担「停止ストップ


担が低い声で呪文を唱えた瞬間、李琳から放たれる魔法の光、空気の震え、そして店の空間を揺らすすべての現象が、ピタリと止まった。まるで、映画の一時停止ボタンを押したかのように、時間そのものが停止したかのようだ。降り注ぐ光の糸は空中で静止し、李琳の顔に浮かんだ余裕の笑みも、琥珀のもがきも、すべてが凍りついた。担の周囲だけが、微かに時間の流れを取り戻したかのように、彼の息遣いが聞こえる。


担「拘束アンバインド!」


担は動かない李琳の目の前へと素早く移動し、手をかざして呪文を唱えた。透明な縄が瞬時に李琳の全身を固く縛り上げ、その余裕の笑みを凍らせたまま、彼は身動きが取れなくなった。担は李琳から距離を取り、警戒を緩めない。


担「停止解除ストップリリース!」


担が再び呪文を唱えると、凍結していた世界が再び動き出した。降り注いでいた光の糸は唐突に床に落ち、李琳の顔に驚愕の色が広がる。琥珀は宙で再びもがき始め、「んぎゃ!」と不満げな声を上げた。


李琳「なっ…!これは一体…!?」


拘束された李琳が、信じられないといった表情で担を見据える。彼の顔から、これまでの余裕が完全に消え去っていた。


李琳「君…西の魔法使いじゃないの…?そんな魔法、西の魔法使いが使うだなんて聞いたこともない!」


李琳は、担のあまりに規格外の能力に、これまでの自信を失ったかのように問い詰めた。彼の驚きは隠しきれない。


担「だから言ってんだろ?俺は南の魔…」


担が、自身の正体を示唆する言葉を口にしようとしたその時、宙に浮いたまま拘束されていた琥珀が、必死に声を上げた。


琥珀「李琳様!まずいです!国王陛下からすぐ戻れと!」


琥珀の叫び声が、担の言葉を遮った。彼の言葉には、李琳への忠誠心と、切迫した状況が窺える。


担「妖人の王か?」


担は、琥珀の言葉からその意味を正確に読み取り、李琳に問いかけた。彼の表情には、確信の色が浮かんでいる。


李琳「うん…すぐ戻らないと…」


李琳は、拘束されたまま、焦りの表情で頷いた。国王からの命令は絶対であるかのように、その声には切迫感が滲む。


担「じゃあ契約だ。契約のホール・オブ・コントラクト


担は、李琳の返答を聞くや否や、すかさず呪文を唱えた。彼の手から放たれた魔力が、店内の空間を再び歪ませる。しかし、今度は万華鏡のような幻覚ではなく、現実の空間そのものが変容し始めた。店の壁や床が、まるで意思を持ったかのように形を変え、荘厳で古めかしい石造りの広間へと姿を変えていく。その広間の中心には、巨大な円卓が浮かび上がり、その上には光り輝く羊皮紙と、羽ペンが静かに置かれていた。李琳と琥珀は、その異様な光景に目を見開いている。


李琳「これは…」


李琳は、目の前の信じられない光景に言葉を失った。空間そのものが変容したことに、彼の驚きと警戒心が最大限に高まっている。


担「お前は人間に手を出すな。そして、お前が操れる全ての者も、人間界に手は出すな。もしも破れば、お前は力を失うこととなる」


担は冷徹な眼差しで李琳を見据え、はっきりと契約の内容を告げた。彼の言葉は、まるで揺るぎない法の宣言のようだ。その声には、人間界の平和を守ろうとする強い意志が込められている。


李琳「わかった…仮にも僕は、君に負けたんだもんね…契約成立」


李琳は、担の圧倒的な力と、彼の作り出した「契約の間」の強制力を悟ったのだろう。口惜しげな表情を浮かべながらも、その言葉を飲み込み、契約に応じた。彼の言葉が空間に響くと、円卓の上の羊皮紙がまばゆい光を放ち、その内容が不可視の文字で刻まれていくのが見えた。同時に、李琳を縛っていた透明な拘束が解け、彼は地面に膝をついた。宙に浮いていた琥珀も、同様に拘束が解かれ、床に落ちて「んぎゃ!」と小さく悲鳴を上げた。


李琳「じゃあね」


その瞬間、李琳と琥珀がどこかへ消えていった。

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