神獣妖人戦争
凛子「あなた達、魔法使いよね?神獣妖人戦争を知らないの…?」
凛子の声には、困惑と、ほんのわずかな絶望が混じっていた。この世界を揺るがす最大の戦いを、なぜこの二人が知らないのか。彼女の目には、担と冠の表情が信じられないものとして映っている。人間界ではまだその存在すら囁かれていない、遠い世界の出来事のように。
担「心中用心…?カップル禁止にでもしようとして争ってんのか…?」
担は眉間に深い皺を寄せ、怪訝な顔で凛子を見返した。彼の表情は、まるで意味不明な冗談を聞かされた時のような、心底どうでもよさそうなものだ。
凛子「すごいわね。そんな発想はなかったわ」
凛子がもはや呆れすぎて、感心するような口調で言った。その皮肉めいた称賛に、担は涼しい顔をしている。
冠「しんじゅうようじん…?うーん…?」
冠は首を傾げ、可愛らしい仕草で考え込んでいる。彼女の頭の中には、戦争などという物騒な概念は存在しないかのようだ。
凛子「神人、獣人、妖人、人間の戦争ってことよ」
凛子が簡潔に説明した途端、担と冠の顔に同時に驚愕の表情が浮かんだ。
担、冠「「あー…なるほ…ええ!?」」
まさかの理解に、凛子は心底呆れたようにため息をついた。
凛子「本当に何も知らないのね…」
担「待て待て待て!なんでうちはともかく、冠姉に連絡行ってねーの!?」
担は急に前のめりになり、冠に問う。彼の声には、いつもの無気力さとは異なる焦りの色が混じっていた。
冠「あ、なんかそんなこと言ってたような…担ちゃんへのプレゼント選んでたから、気に留めなかったけど…」
冠は朗らかな笑顔のまま、何の悪気もなく答える。彼女にとって、担へのプレゼントこそが、世界の優先順位の最上位にあるようだ。
担「なるほど。だからプレゼントギロチンになってたのか。納得納得」
担は妙に冷静に頷き、合点がいったような顔をした。その口ぶりからは、冠の異常な行動にも慣れきっている様子が伺える。いや、恐ろしい奴だな、冠。
冠「担ちゃんにこそ、連絡行ってなかったの?」
冠が純粋な疑問を投げかける。
担「俺んとこは知名度皆無だから。ただの怪しい店のお兄さん、くらいにしか思われてない」
担は肩をすくめ、自嘲気味に答えた。
冠「優秀なのにね」
冠の言葉は、担の力を知る者だけが発する、真実の称賛のように響く。
担「俺はそもそも…」
担が何か言いかけた、その時だった。
凛子「腕試しに…少し私と戦ってちょうだい」
凛子は、突然、真っ直ぐに担を見つめ、挑戦的な眼差しを向けた。その言葉は、まるで彼女の中で何かが吹っ切れたかのようだった。
冠「え…?な、なんで?」
冠は目を丸くして、困惑したように尋ねる。彼女の頭には、戦う理由が全く理解できないのだろう。
担「わかった」
担は、一瞬の逡巡もなく、あっさりと承諾した。彼の顔には、どこか面白いものを見つけたような、微かな笑みが浮かんでいるようにも見える。
冠「担ちゃん!?」
冠が驚いて声を上げた。彼女の知る担は、面倒事を避けることを好むはずだ。
担「で?魔法使いの賭けとやらだろ?何が目的だ?」
担は凛子に向かって尋ねた。その声には、彼女の意図を見透かすような、鋭い響きがあった。
凛子「あなた達は、戦争に興味がなさそう。だから…戦争への参加を要求する」
凛子は、一切の迷いなく、はっきりと自分の目的を告げた。その瞳の奥には、強い決意と、何かを成し遂げようとする切羽詰まった感情が宿っていた。
担「…わかった。冠姉は?」
担は冠に視線を向ける。
冠「なるほど…いいよ」
冠はいつもの笑顔を崩さず、まるでゲームでもするかのように、あっさりと了承した。彼女はその白い手から、細身の杖を抜き出した。
担「そっちが先攻でどうぞ」
担は悠然と構え、凛子に促した。彼の態度には、絶対的な自信が窺える。
凛子「わかったわ…エアドレスカミリア!」
凛子が杖を振り、その声と共に、激しい風が渦巻き、周囲の空気が一瞬で圧縮されるような異音が響いた。彼女の杖の先端から、眩い光を放つ魔力の塊が、弾丸のように担めがけて放たれた。それは、周囲の空間すら歪ませるような、強烈な爆発系の攻撃魔法だった。