(自称)美しき大魔法使い、北条凛子!
担「あんたのその目…」
担は相変わらず、信じられないものを見たかのように、大きく目を見開いたままだった。彼の視線は、凛子の顔から離れようとしない。
「あのー?ちょっと拘束を解いてくれないかしら?」
凛子が、どこか困ったような、しかし諦めを含んだような声で頼む。彼女の体は未だに縄に縛られたままだ。
担「いやだ。口も塞いでやろうか」
担は冷たく言い放ち、その顔には表情筋の一つも動かない。
「ですよねー…。」
凛子は、やっぱり、とでも言いたげな表情でため息をついた。すると、それまでの飄々とした態度から一転、担の瞳に鋭い光が宿り、真剣な趣になる。
担「あんた…名前は?」
担がふと尋ねた。その声には、先ほどまでの無関心さとは異なる、妙な響きがあった。
「私は美しき大魔法使い、北条凛子!」
凛子は、拘束された身でありながらも、どこか誇らしげに名乗った。その表情には、自称「大魔法使い」としての自信が満ちている。
担「あっそ」
「あなたが聞いてきたんでしょーが!」
担のあまりにも素っ気ない返事に、凛子は思わず叫んだ。彼女の不満げな声が店内に響く。
担「(無声呪文、読心)」
担は凛子から目を離さず、しかし呪文を唱えることなく、静かに心を読んだ。これは、相手に悟られることなく発動する、かなりの高等技術だ。彼の表情は変わらないまま、その瞳だけがわずかに揺らめく。
担「…なるほどな」
凛子「あなた、四季一族の末裔よね?」
凛子が、担の顔をじっと見つめながら尋ねた。その視線には、確信にも似た探求心があった。
担「四季…うちの従姉妹か。俺はなんか、おこぼれでこの店もらっただけ」
担は一瞬、何かを考えるように沈黙した後、驚くほど冷静に告げた。その言葉には、一切の感情が籠められていない。
「はあ!?じゃあ、その従姉妹とやらはどこにいるのよ!」
凛子は耳を疑うかのように叫んだ。彼女の顔には、苛立ちと焦りが露わになる。
担「黙れ。沈黙」
担は一瞥することもなく、凛子に沈黙の魔法をかけた。彼女の口は開くのに、声は一切漏れてこない。焦燥感に駆られた凛子の表情が、さらに歪んだ。
担がゆっくりと、その場で巨大な魔法陣のようなものを床に出現させる。それは、青白い光を放ち、複雑な紋様が刻まれていた。
担「転送!」
担が呪文を唱えた瞬間、魔法陣のようなものから強烈な光が放たれ、その光に包まれるようにして、担と凛子の姿は音もなく、どこかへと消え去った。