謎の女性、襲来!?
担「さっむ…火」
担は卓上にあった蝋燭に、ひょいと指先で火を灯した。その炎はか細く揺らめき、まるで凍える彼を嘲笑うかのようだ。担は見るからに凍えているようだが、果たしてこの微かな灯火で、身を切るような寒さが癒えるのだろうか。
担「無理無理寒すぎ…!」
やはり、無理だった。小さな炎の前でぶるぶると震える担の姿は、なんとも情けない。
すると、担は店の奥から、禍々しい模様が刻まれた大きな釜のようなものを持ってきた。そして、無造作にその中に薪をくべていく。
担「よし…炎!」
担の言葉と同時に、釜の中から真っ赤な炎が天に向かって猛烈に燃え上がった。それはまるで生き物のように蠢き、店内の空気を一瞬で温める。
担「はぁ…あったかい…」
担は至福の息を漏らし、その炎に手をかざして暖まっている。これは本来、悪魔の召喚の際に用いられるような代物なのだが…。まあ、今は彼を温めているのだから、よしとしよう。
担「なんか飲み物でも…あ、お汁粉あったな。召喚」
担がぶつぶつと呟きながら呪文を唱えると、足元に淡い光を放つ魔法陣のようなものが浮かび上がった。そして、その中心から湯気を立てる温かいお汁粉が出現した…。いや、能力の無駄遣いにもほどがあるだろう。
担「今は客いねーし、極楽極楽…」
まるで温泉にでも浸かっているかのように、担はだらけきった顔で呟いた。
「カルラム!」
【ガラスの砕ける音】バリーン!
突然、耳をつんざくようなガラスの砕ける音が店内に響き渡った。黒色の生地に、鮮やかなピンクのリボンが結ばれたとんがり帽子を被った女性が、杖を構え、割れた窓枠を乗り越え、荒々しく姿を現したのだ。
「貴方ね?四季一族の末裔の魔法使いは」
女性は担を真っ直ぐに見据え、その声には強い威圧感が込められていた。
担「窓が…お気に入りだったのに…そこを退け」
担は女性には目もくれず、粉々に砕け散った窓枠に目をやり、心底がっかりしたような表情を浮かべた。そして、次の瞬間、その声には明確な怒りが滲んでいた。
「話を聞きなさいよ」
完全に無視された女性は、思わずといった様子でツッコミを入れる。
担「退け」
担はそれでもなお、女性の存在を無視し続ける。その無関心さは、もはや徹底的だった。
「はぁ…わかったわよ…」
女性は深いため息をつき、諦めたような、あるいは呆れ果てたような口調で、割れた窓から数歩遠ざかった。
担「修繕」
担が静かに呪文を唱えると、床に散らばっていた無数のガラスの破片が、まるで時間を巻き戻すかのようにふわりと浮かび上がり、元の窓枠の位置へと吸い込まれていく。やがて、ひび割れ一つなく、窓は完全に元通りになった。
「やっぱり、貴方は四季の…」
呆然と立ち尽くす女性の言葉を遮るように、担は平然とスマホを取り出し、警察に連絡を始めた。
担「もしもし、警察ですか?」
「ちょっ…ちょっと待ちなさい!」
女性は焦ったように、担の腕を掴もうとするが、彼はそれをすり抜ける。
担「拘束」
担が呪文を唱えると、瞬時に幾重もの太い縄が現れ、女性の体をきつく縛り上げた。
「なに!?…まあいいわ。私の魔法で…破壊!」
女性は杖を振り、先ほど窓を割った破壊の呪文を唱えた。しかし、彼女を縛り上げる縄は、びくともしない。
「あら…?!マネカトラ!ストラティクス!」
女性は焦り、次々と杖を振って様々な呪文を唱えるが、やはり縄は微動だにせず、彼女は身動きが取れないままだ。
そんな女性を完全に無視し、担は淡々と通報を続ける。
担「…はい。静夜町の…四季魔具店ってわかりますかね?あー…はい。お願いします」
「ねぇ!お願いだから!」
女性が必死に叫んだその時、頭に被っていたとんがり帽子がはらりと床に落ちた。帽子の陰に隠れていた女性の素顔は、担が予想だにしなかった息をのむほど美しいものだった。
担「…!」
担は女性の素顔を見るなり、目を見開き、それまでの無関心な表情が一変した。
担「あ…やっぱ大丈夫です」
担は何を思ったのだろう。なぜ、彼は通報を急にやめたのか。その美しい素顔に、何か特別な意味があったのだろうか。
一応これ、水曜と金曜の10時連載予定です。いつか打ち切りになるかもしれません。作者が飽きて。