四季魔法店
ここは四季魔具店。ドームのような奇妙な形に、漆黒の壁が夜闇に溶け込み、見上げれば天井には満点の星空が瞬く。足元は柔らかな芝生のような緑色に輝く床で、まるで別世界に迷い込んだかのような、明らかに怪しい店だ。
外見の通り、店の中はさらに異質だった。店の中心には人の背丈ほどもある巨大な水晶が鈍い光を放ち、棚には泡立つ怪しげな薬瓶がずらりと並び、見たこともないような奇妙な道具が所狭しと置かれている。そこは、まともな品など一つもない、混沌とした空間だった。いや、唯一まともなものといえば、奥の机に置かれたペン立てと写真立てくらいだ。
「担くん!これ何?」
店の片隅から、子供の甲高い声が響く。幼い少年、実が、その巨大な水晶を指差し、キラキラと輝く純粋な瞳で尋ねている。彼はこの店の常連客だ。
「あ"?…それは覗き水晶。設定した場所がその水晶で映し出されるんだ…非売品だぞ」
担は、店の奥に置かれた年代物の椅子に深く沈み込み、興味なさげに答える。その表情は相変わらず不機嫌そうで、実を一瞥することもない。
この世には、神の血を引く者、神人。獣が人の姿を得た者、獣人。妖が人を真似た者、妖人。そして、何の変哲もない人間がいる。
これら四つの種族は、長きにわたり争い、互いに血を流し合ってきた。しかし、人間は特殊な力を持たない。魔法は妖人の専売特許だ。だが、人間の中にも、選ばれし者のみがその力を扱うことができる。その者達は、は魔法使いと呼ばれる。
「火」
担がぶっきらぼうに呪文を唱えると、彼の指先から鮮やかな炎が花火のように弾け飛んだ。それは見る者を魅了する、美しい火だった。
「すごい!どうやったの?僕もやりたい!」
無邪気に実が歓声を上げ、身を乗り出すようにして尋ねる。その瞳には、彼の力への憧れが満ちている。
「お前にゃ無理だ。けど…」
冷たく事実を言い放った後、担は珍しく言葉を詰まらせた。彼の視線は、遠く、現実から離れた場所を見据えているかのようだ。
「けど?」
実が前のめりになって促す。
「いつか…できるかもな。もしも、才能に恵まれたのならば」
担は、まるで自分自身に言い聞かせるように、静かに呟いた。その声には、冷徹な現実と、微かな諦めのような響きが混じっていた。彼はただ事実を告げただけなのか、それとも、別の何かを示唆しているのか。
「え!?」
実の目が、さらにキラキラと輝きを増す。希望の光が宿ったかのようだ。
「まあ、無理か。お前に才能があったとしても努力できねーもんな」
しかし、担はすぐに現実へと引き戻すように、冷酷な偏見を言い放った。その言葉に一切の躊躇はない。だが、実は気にも留めない。彼はすでに次の興味を見つけたかのように、「ねえねえ!こっちは何?」と、また別の怪しげな品を指差している。
やはり、担には道徳心などないようだ。そして、このやり取りに完全に慣れてしまっている実の将来が、ただただ心配になる。彼は自分に課された宿命を知らないのか、はたまた知っているが、無視しているのか…。
今日も彼は、あの奇妙な店で、のんびりと時を過ごしている。