「戴冠パレード」
快晴の城下町。
誰もが待ちわびたハレの日に浮き立つ国民が街道を埋め尽くす中、唯一道が開かれた群衆の中央に座す馬車が一台、ゆっくりと走っていた。
国中の祝福を受けるその馬車はキャビンが開かれており、常ならば屋根に覆われ覗けない中に座る人物を柔らかな陽光が照らし出す。
頭上に王冠を輝かせた男女二人が、その祝福に応えるように手を振っていた。
国を上げて熱狂の渦に落ちるこの日……戴冠パレード当日。
この場にいる誰も彼もがその顔に喜色を浮かべる中、僅かに、けれど確かに顔を顰める者達がいた。
歓声へ紛れるその声に、半ば無意識に耳を澄ます。
「なああれ、どう思う?」
「どうも何も……あれが妃殿下の趣味なんじゃないか」
「でも慣例に反してるだろ。陛下と合わせているならまだ分かるが、てんでバラバラじゃないか」
「……なあ、もしかしてあの噂、あながち間違ってないんじゃないか」
それは、この歴史的な場面を記事にしようと集まった記者の集団から発せられた言葉だった。
隠すことなく疑念を滲ませた会話に、思わずこみ上げた笑いを噛み殺す。
伴侶を持つ王族が式典やパレードに出席する際は、服装のデザインを揃えることが暗黙の了解とされている。互いに揃いの生地や差し色を使用するのが通例であるが、仲の睦まじさが国政に関与する国王夫妻は、その蜜月ぶりを示すように相手の髪や瞳の色を纏うことが多い。
記者として少なからず社交界への知見があるからこそ、気付いてしまったのだろう。
国王陛下の正装は、自身が持つ髪色の黄金と瞳の紺碧を主色に、上品に纏められている。
王妃殿下のドレスは、彼女の静謐さを表すような優しい深緑の生地で仕立てられている。
二人の装いには、全くと言っていいほど共通点が見当たらなかった。
「どうされたんだろうな、妃殿下……」
憐れみを帯びた声を上げる記者の目線の先には、群衆の向こう側から手を振る王妃の姿がある。
彼女の髪は透き通った銀色であり、その瞳は美しい菖蒲色だ。
紫系統の色合いが非常に様になる彼女のドレスは、何故か補色となり得る緑色。
率直に言って、ドレスだけが浮いていた。
更には、常に嫋やかに微笑んでいた彼女の口角は、何故か引きつったように歪んでいる。
隣で笑みを浮かべながら手を振る陛下と視線が交わることは一度もなく、遠目からでも、二人の間に見えない壁が聳え立っているように感じられた。
「なんか……嫌に現実味を帯びてきたな」
ぽつりと零れた記者の言葉に、必死に噛み殺していた笑いがとうとう口に出る。
社交界から少しずつ広まりつつある、彼らが憂慮している噂。
即ち――国王夫妻は不仲である、と。
噂も、嘗ては虚言だと一笑に付される程二人の仲は睦まじかったことも、より仲が深まるきっかけとなった三年前の”事件"のことも、その真相も、全てを知っている身として正直に言おう。
大変に、胸がすく思いだ。