6.3日目
エリオス・ヴェルザークは目の前の男リブレ・ハウンドが苦手だ、
身長は小さく体格は華奢、見た目は中性的で男とも女ともとれる顔をしている。
服装はこのギルドの紋章が胸元に入った白と黒の正装姿、常にしわ一つなく着こなしている。
「では、エリオスさん今現状での攻略組の状況を端的に答えてください。」
そう言ってリブレは椅子に座りながらエリオスを見つめている。
「問題なく順調だぁ、死人も怪我人も出てねーよ、そんな事よりよぉー、俺はぁマスターを迎えに行きてぇーんだけど?早く行かねぇ―とマスターが怪我するかもしれねぇーだろ!?」
エリオスにとっては今回のダンジョン攻略はどうでもいいもでしかない、マスターが行ってらしゃいと送り出してくれたから行っただけ、それだけでしかない。
ダンジョンを攻略中の初期メンバー組と呼ばれる人たちとは違いダンジョン攻略にさして興味がない。
「エリオスさん私は、端的に状況を答えてくださいと言いました、それはけが人や死者の有無ではありません、そもそも怪我ならまだしも、死ぬはずがないのですから。
私は今の攻略の進行度を教えて欲しいんです、そこまで言わないと分からないのですか?」
呆れたようにため息をつきながらリブレは首を横に振る。
エリオスという男はマスターにしか興味がなくマスターが好きで仕方がない。少し、いや、かなり厄介な人物である。
そのせいでマスターが制作した特別な上級ポーションを使う羽目になったのだから。
「エリオスさん、あなたがもし今回の問題児達を殺害していたらどうなっていたと思いますか?ギリギリを見極めるのは大変結構ですが、それで死亡した場合、マスターに迷惑がかかるとは考えないのですか?
そもそもです、武器を没収し縛って部屋に入れて置くだけでいいものを、何故、あなたは、あそこまで、ボロボロに、するんですか?」
後半の言葉を一音ずつ大きな声で怒気を交えながら話すリブレにエリオスの耳は垂れ下がり。
「マスターに…迷惑かけるつもりは、ねーんだけどよぉ…帰ってきたらマスターが居ねぇ―から…、理由聞いたらわけわかんねぇー事ばっか言いやがるし、でも手加減はしたんだぜぇ?昔ならとっくに殺っちまってるのによぉ~。
生きてるだけ褒めて欲しいぜぇ。」
後半は少し自信気に話すエリオスだが。
「えぇ、えぇ、手加減したのは大変賢いと思います。偉いですね~いい子ですね~。」
リブレは微笑んでエリオスに言う。
エリオスは垂れ下がっていた耳が立ち上がり少し上機嫌な顔をした時だった。
「なんて、言うわけないでしょう!あなたね!毎回毎回毎回!!なぜこちらの仕事を増やすんですか!?
折角いたたポーションを使う羽目になったんですよ?あれ、いくらすると思ってるんですか??わかってますか?
それにです、今回はたまたまあなたが手加減したのかもしれませんが!
もし彼らが亡くなっていたら、死者数0ギルドという名誉が無くなるところだったんです!
もしあそこまでボロボロにするなら最初にギルドから追放してから行ってください、証拠も残さないでください、あんな分かりやすくマスターの作った武器で攻撃したら足が付くでしょう!!
頭が足りないのは前々から理解はしていますが!今回のことはマスターに報告しますからね!」
言い終えて息切れを起こした様にぜぇぜぇと息をするリブレにエリオスは耳だけではなく尻尾まで垂れ下がり、顔を青くしていた。
「マ…マスターに言うのだけはぁ…やめてくれぇ…。頼む。」
「ダメです!報告対象です!!是非ご褒美なしの刑に処されてください。」
そう言い切りリブレは再度現在の攻略状況についてエリオスから話を聞くことにした。
「中ボスを倒し終わって、ボスを倒す前でジークさんがマスターが欲しがりそうな薬草を見つけて採取してるから少し遅れるって言われてるぅ…でもあと5日もしないうちに帰ってくるとおもうぜぇ…それとボスは問題なくグレンさんだけでも倒せるだろうって…ルーベンさんがぁ…。
ちゃ、ちゃんと報告したんだしよぉー、マスターには言わないでくれよぉ…。」
ふむふむと話の内容を報告書に纏めつつ、エリオスに言われたリブレは少し考えて。
「マスターには報告しますよ、それにマスター女性に手を出すのはとても嫌いますから、例え自身に害があろうとなかろうと、まあ、叱られるとかは無いでしょうし、今回ぐらいご褒美我慢したらいいじゃあないですか。
あなたが勝手に取った行動なんですし。」
それを聞いたエリオスは天井を見ながら何かぶつぶつ呟きどうにかご褒美を貰えないかを考えていた。
この目の前のいけ好かない男をいっそ殺して、口封じを…。
とも考えたが、それこそマスターに嫌われかねない。
それに、この男こんな見た目なのに俺よりも腕が立つ、なによりあのマスターの補佐役に選ばれてるぐらいの男だ。
本来ならエリオスがなりたい役割、なれるものならなりたい、だが頭も腕も劣る自分ではマスターの役には立てないそれをわかっているからこそ。
エリオス・ヴェルザークはリブレ・ハウンドが苦手なのだ。