3.2日目
なんでこんなことになったんだ…。
俺は、みんなの為にあいつを追い出してやったのに。
なんで、どうして、俺は悪くない!全部全部あいつが悪いんだ!
動かない身体で、赤髪の男、エドワード・クロウは嘆いていた。
だが、邪な考えが浮かんだ頃、彼の目の前に銀色に輝くナイフが刺さっていた。
「なあ?折角報告役を獲得できたってのに、マスターが居ないんだぁ?褒めてもらえると思って急いで帰ってきたってのによぉ…どうなってんだって聞いてんだよ!!!」
そういって緑の短髪に獣人特有の耳、琥珀石のような目の男は、目の前で倒れている屈強そうな男の体をいとも簡単に蹴り飛ばしていた。
「俺はなぁ…いつも通りマスターに会えるって思ってたのによぉ?どうしてこんなことになってんだよ!なぁあ!!!ティナはどうしたぁ!!」
怒りを露わにしながら、彼はとある女の名前を呼んだ時だった。
「すみません兄さん、私がマスターに頼まれレオン様のギルドに依頼の品を渡しに行ってる隙にこのようなことに、現在マスターの行方を探っております。」
エリオスの横に音もなく現れた獣人の女性が現状の話をし始めた。
「私や主要メンバーが居ない隙に、我らがギルドマスターを追い出し、グレン様をギルドマスターにしようと動いていたようです。主犯はエドワードさん、バリーさん、ミランダさん、カトリーナさん四名と、入って間もない方々数十名とのことです。」
坦々と報告していると彼女の目の前に銀色が横切る、横を見ると壁にナイフが刺さっていた。
「そんなこと聞いてんじゃあねーよぉ、そもそもなぁ、新しいメンバーなんて要らねぇーんだよ!今のメンバーだけで足りるって何度もいってんのによぉ!!!なんで入れるんだぁ!!??あ”ぁ”??答えろよ!!」
ティナは少し困ったようにため息をつきながら
「それは、冒険者ギルドに言ってください、冒険者ギルドが年に数回教育と経験と称して名だたるギルドに新米冒険者を寄こしているんですから、それでも今回は少ない方なんですよ?マスターも世のため人の為と断りませんし、今後断るようマスターに兄さんがお伝えください。」
エリオスはうっと息を詰まらせ、眉を下げた。
「そんなん…俺がマスターに言えるわけねーだろうがよぉ…」
さっきまでの威勢は何処かに消えたかのようにエリオスの耳は垂れ下がっている。
そんな時、扉が勢いよく開いた。
「邪魔するぞ~、おぉーおぉー派手にやってんな~、帰ってきてるのはエリオスだけか、これだけで済んでよかったぜ。」
辺りを見渡しながら部屋に入ってきたのは、冒険者ギルド<ルヴァン王国>のマスターグレイブ・グランツだった。
そしてグレイブの目の前を3つの銀色が横切った。
「てめぇ!!てめぇの寄こしてきた奴らのせいでマスターが居なくなっちまったじゃあねぇーかよ!!どう責任とるってんだぁ!!!あ”ぁ”!!!??土に返してやろうかぁ”???」
エリオスは怒りの矛先をグレイブに変えナイフを3つ投げていた。
そんな様子のエリオスを見てグレイブは呆れなのか疲れなのか目頭を押さえながらため息をついた
「はぁ…そっちが選んだ奴らだろう、こっちに何の落ち度もないはずだが、まあいい、エリオスお前ダリオスに会いてぇーんだろ?場所、教えてやろーか?まあ、お前ひとりじゃあ行けないだろうけどな~」
その言葉にエリオスの眉がピクリと動いた
「おい!!今すぐ吐けぇ!!マスターは何処にいんだよぉ!!」
意地が悪そうな顔でグレイブは答えた
「【無明の深淵】だよ、一人で材料採取だとよ。」
「嘘だ!!あんな奴に行けるわけない!!あんな軟弱なやつに!!行けるわけないだろ!!」
動きにくかった身体を無理に起こし、エドワードは叫んだ。
そんな様子を横目にティナが呟いた。
「【無明の深淵】ですか…私たちではお迎えに向かうこともできませんね…グレンさん達であれば可能かもしれませんが…あそこはSランク冒険者しか入れませんし、パーティーを組まないと行けませんからね。」
ティナは入口になら迎えに行くことも可能かもしれませんがと言いながらどう動こうか考えていたが。
「俺はぁ行くぞぉ!!マスターがいるんだからな!!ぜってぇー、行くぞぉ!!」
「ダメだ、お前はそもそもランクBだろーが、それにソロで行けるようなダンジョンでもねーんだからな、大人しく飼い主の帰りを待ってるこったな。」
そういってグレイブはエドワードを横目で見ていた。
青くなったり赤くなったり緑になったりと顔色がコロコロと変わっていってる。
「なあ、エドワード、お前はなんで自分のマスターがマスター足らぬと思ったんだ、見た目か?それとも他のやつらをダンジョンにやってあいつだけギルドに居るからか??お前らは何を見ていたんだ、まあダリウスが帰ってくるまで暫くかかるだろ、その間にあいつが、お前らの為に何をしていたか学び直すんだな、まあ、その前に死ぬかもしれねーけどな、精々踏ん張れや。」
グレイブはそういって部屋を後にした。
「あ、あんな奴に【無明の深淵】が攻略できるはずない…あり得ないんだ…あり得ない」
そう床に呟きながらエドワードは意識を手放した。