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忘却伯の勿忘草  作者: ブロンズ
第三章:忘却伯と死屍累々

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エピローグ:歯車は回る




「―――ぅ……、あ……ッ!!?」



 墜ちる、落ちる―――。

 暗い屋内で階段を下りた時、最後の一段に気付かず踏み出してそのままつんのめる、或いは大転倒するってことがあるだろう。

 完全な意識外、全く思いもよらない出来事っていうのに思考は弱い。


 けど俺の場合はその限りでもない。

 たった一段の浮遊感と衝撃を永遠感じたような、単にアスファルトの道を歩いていた自分が本来感じる筈もない感覚を……それこそ数十分、数時間味わい続けたような。

 そんな状況が、気が遠くなるほどに続いて―――。


 ………。

 それで?



「*****! ****!? ****、***!!」

「……………」


 

 ―――ここは……?

 

 気付けば俺はそこにいたんだ。

 のどかな。

 青々とした空、自然の中の空気。

 背中に感じる草の感触……もはや小鳥のさえずりさえ聞こえてきそうな野原の中で、俺は空を見上げて横になっていた。



「***?」



 ………。

 電柱も電線も、高層マンションも車の音もない。

 静かで、穏やかで……そしてここにいるのは自分ただ一人―――じゃねえな。



「*******、****!!」

「……………」

「***? ***、***??」



 ………。

 さっきから声をあげてるこの少女は何処のアイドルなんだ?

 

 自然で明るい、光の当たり加減によっては金色にも見える茶髪で、瞳の色も茶色。

 年は俺とおんなじくらいで、利発そうで……だけど明らかに困惑しているように首をひねり俺をのぞき込んでいる女の子。

 利発そうでどこか中性的な、いわばボーイッシュな感じがあるか。 


 よくよく見ずとも美少女だ。

 よく知るゲームの能力値指標の一つ……APPでいうなら多分15以上は確実。

 通ってる高校にこんな子がいたら、まず知らないやつはいないだろうってくらいには美少女。


 それだけに、彼女の服装に違和感がある。

 麻……とかかな。

 俺はそういうのに明るいわけじゃないが、まるで社会科の教科書に載っているかのような貧しい人の服装、それより幾分かマシといったくらい。

 麻の服を着た茶髪の美少女が、地面に転がってる俺を不思議そうに屈んでのぞき込んでるんだ。



「―――まて、おかしいだろそれは」

「………?」

「あ、いや。まじまじと見てて失礼……ってより。起き―――ッ……!!」


 

 普段礼儀を重んじてるわけでもなく授業中にスマホ弄ってたりは日常だが、それでも流石に失礼だと。 

 そろそろ起きようとした時だった。

 


「が、ぁ!?」

「!」



 あまりの激痛に身体が痙攣する。

 当然起きられず倒れたまま。



「***、****!!」

「……えぇ……?」



 怖いわ。

 車に轢かれたのか? 俺。

 病院案件じゃない? これ。



「普通、病院とか。あ、すみません。もしかしてもう連絡とか―――」

「……?」

「してなさそうだな。ってかスマホ持ってる?」



 そもそも明らかに言葉通じてないよな? これは。

 何て言うか……いや。

 あれだ、俺の好きなゲームにTRPGっていうのがあって、その中の更に細かいジャンルの一つに「クローズド」と「シティ」ってシナリオ区分がある。


 シティってのは日常の中に潜む不思議な探検。

 都市という名の通り移動に制限はなく、好きな場所をを自由に回って謎を解けるけど、あくまで日常の延長であるゆえに逃避もできる。

 怖ければすべての謎を捨てていつもの日常へと逃げ出せる。


 が、クローズドはまさに未知。

 気が付いたら自分の全く知らない場所にいて、閉じ込められて……わずかな情報を頼りにゲームを進め脱出を目指していくのが基本。

 シナリオ製作者の都合やゲームマスターの側として、導入とかを考える必要が全くないから汎用性が高い物語だ。

 けど、当然ソレをやられる側からはたまったものじゃないわけで。


 青空の下なのに今の俺の状況はまさにクローズドに近い、クソッタレな状況。

 痛いってことは現実だよな? 

 大丈夫か? 内臓コンニチハとかしてない?



「***。……***、***」



 自分を指さしたり俺を指さしたり忙しない少女には悪いけど、今の俺は現実を受け入れる準備がまるで……ん?



「*し、る―――せ、し、る」

「……………」



 そういう事か。



「あー、セシル?」

「……!」



 すっごいうんうん頷いてる。

 実家のゴールデンレトリーバー思い出す。

 で、それまで自分を指していた少女は期待を込めた目で俺を指さしている―――どうやら病院は自己紹介の後らしい。

 


「伊織。八代イオリ」

「……い、お、り。いおり―――……。いおり!」



 ……。



 所謂、事故紹介。

 それが俺とセシルの出会い。

 なんていうか、後から振り返ってみると本当に物語のオープニングっていうか、物語が始まりそうな出会いだったと思う。

 実際、俺たちの物語は此処から始まったわけだからな。


 ………。



「―――村人Aだけど……」



「イオリーー? 休憩***、たらこっちで薪 ***よー?」

「あーい、すぐ行くよ」



 出会いはやがて行動へ。

 何はともあれ、俺が混乱している間にも時間は待ってくれず、秒が分へ、時間へ、そして日から週へ。

 過ぎ去るのは早く、数えるのをやめた程には日にちが経った。


 本気で、死ぬ気で……人間は脳の機能の数パーセントしか普段は使っていないという迷信が昔あったが、実際俺はそのタイプだった。

 数年間あれだけ勉強しても英語を覚えられなかったのに、短期間で未知の言語に適応し始めてるんだからな。



「人間死ぬ気でやれば何事も出来ちまうんだなぁ……やりたくなくても」

「イオリー?」



 人口にして40人余り。

 何処までも大自然に囲まれた小さな村で生活していく中で、幾つか分かった事がある。

 まず、此処は日本じゃない。


 っていうか公用語がまるで見たこともない字だし、大自然だし、村長な御爺さん赤髪だし。

 村ぐるみで俺を謀ってるにしても壮大すぎるイジメ。

 今のところ魔物っていうかゴブリンだのスライムはいないっぽいけど、そういうのを身振り手振りで伝えたら皆が慌ててたからマジで居る可能性もある。 

 後ついでに俺がそういうのに襲われて行き倒れてたって誤解を現在形で受けてる可能性大。

 

 

 ―――そして……。



「ふん~ふんふん♪ 大量大量……!」

「……うぇぇ、おっも……!」



 俺は女の子にも勝てない程非力だったという事実。

 やっぱり畑仕事が多いと体力付くのかね。

 茶髪の少女―――セシルは俺の腿の四倍は太く、身長の倍はあるだろう長さの木の幹を当たり前のように肩に担いで歩く。

 重さにして100キロは軽く超えてるだろ、絶対。

 乾燥させて薪にするのだとか。

 手伝いはさせてもらっても、俺が運べるのは精々20、30キロが限界だ。


 やってることだけ聞けばやっぱり何かの間違いで外国の、自然の中で営んでいるようなマッスル集落に迷い込んだだけと思うんだが―――。



「お疲れ、イオリ。今日のご飯―――何?」

「はいはい。火付けといてくれ。今から元居た街の知識を動員する」



 家に入り、調理器を兼ねた暖炉に近づくセシルが当たり前のように掌に灯した火を焚きつけへ移す。

 本当に魔法なのか? コレ。

 彼女、当たり前のように掌から火だの水だの出す。

 で、同じことができる人たちがこの村にはほかにも数人いるという事実―――筋肉手品師の村?


 暫定、ここ異世界。


 おれ、異世界転移。


 卓上で今朝貰ったばかりの卵を縦に置く……倒れる、縦に置く、倒れる。

 そんなことをしつつ思案にふける。

 当然、卵の立たせ方を考えてるわけじゃない。



「もっと勇者とかいろいろあるだろ……何で村人Aなんだよ。てか特殊能力は? メレンゲ立ててスフレオムレツ作るだけ? 豚汁の錬金術師?」

「どうかしたー?」

「いんや、なーんにも。さ、メシだメシ。お嬢さんが空腹で暴れないうちに作ろうと思いまーす」

「あばれませーん」

「昨日の行いを思い出してくださーい」



 ………ただ、確かなこととして。

 ここは俺の知ってる世界ではなく、帰れるのかどうかは全く分からないという事。

 いや、多分望みは薄だと思ってる。

 帰れる帰れない以前に、月日がたつほどに自分の身体が弱っていっているのを感じるんだよ。


 多分、落ちた時に何かが壊れたんだと思う。 

 自分の身体の事は自分が一番よくわかるってやつだ。


 だから俺は俺のやりたいことをやろうと決めた。

 それは、せめて死ぬ前に女の子と良い仲になって一発―――ではなく、目の前の女の子を支えてやること。


 セシルは確かに力は強い女の子だけど……年相応だ。

 何気ない言葉で喜んでくれるし、逆に怒りもする。

 


「冒険者……勇者? になりたいって癖に夜は怖いっていうし雷苦手だし芋虫もビックリするし食いしん坊だし負けず嫌いだし……」

「誰の話?」

「―――あ、いえ……」



 既に両親もいない、山の木こりと村の皆の手伝いで生計を立てているらしい一人暮らしの少女。

 いつか冒険に出たいとか物語みたいなことを本気で、生涯の夢のように語る等身大の女の子だ。


 下心はともかく、恩を受けて一人にしておける筈もない。

 出会いから暫くずっと起き上がることも、どころか指一本動かせなかった間もずっと世話をしてくれてた恩人でもある事だし、ちょっと惚れた弱み―――義理もあるし、出来得るぎりの借りを返させてもらう事にしたんだ。


 

 そう、下心はないのだ。



 ………。

 ……………。



 ………。

 ……………。



「異界の者、だと?」

「そ! 最近はもっぱらその話ばかりさっ。エルフの捜索しようとしてもそっちの噂にかき消されてる感じ? こまっちゃうよね~」



 たはー、と。

 厄介ごとしか持ってこないタイプの商人ルルシオと向き合い情報を搾り取っていく中で、風の噂を聞く。

 曰く、近頃異界の者などという意味の分からない存在が各地で見られていると。

 何処からともなく現れた彼らはこの世界の言語とは全く異なる言葉体系を持ち、真偽不確かな知識を持ち、挙句特異な能力すら保有していると。


 けど、それはまるで伝え聞く「異界の勇者」ではないかと。

 最初に話を聞いた時はまるで意味が分からなかったけど、今でもわかっていない。



「ヴァレット。これはどういう事なんだ?」

「坊ちゃま。私は全知全能ではありませぬ」



「ただ、転移者……大陸における伝承の一つ。召喚ではなく、精霊を始めとする存在などの悪戯によってここではない場所の存在が現れるという話は過去にも」

「かつて物語を話してくれたな」

「僕も知ってるねぇ。けど、そういうのって本当に数十年に一人とか、現れてもすぐ死んじゃったりするから確認できないとかなんだろう? ヴァレット氏」

「転移者に関しましてはあまりに情報が少ないことからも、恐らくは。―――数週間前にルクソール様を襲った謎の騎士と言い、あまりに予想外の出来事が起きすぎておりますな」



 魔術とは異なる力……異能、か。



「錆騎士……。そう名乗ったセレスティン殿を攫った者も、魔術とは異なる力を使っていたと聞くが」



 まさか、どこかの国や組織が異世界勇者を大量召喚でもしてるっての?

 神様の怒り勝って滅ぶんじゃない?

 

 実際、この世界実は一度滅びてるらしいんだよ。 

 曰く、数千年前に起きた大戦争であまりに進んだ文明を保有ていた各国は竜の因子を埋め込んだ人間だの、儀式魔術を兵器に搭載したりだのを試してたみたいで。

 結局、勇者召喚の仕組みという神の御業を悪用したことで六大神の怒りを買って世界はまっさらに漂白された。


 全ての文明はリセットされた。 


 けど困るよね。

 世界がリセットなんてされたら、僕を永遠の名君として覚えててくれるはずの人々もいなくなっちゃうじゃないか。


 今話にも上った通り、本来公爵領で保護するはずだった聖女は消えた。

 護衛していたのは帝国でも指折りの戦力である騎士団の一部……そのうえで、彼らは壊滅。

 逃げ伸びたルクソール様もかなりの重体だ。



「これからどうするんだい? レイク」

「おおよその目的は決まってるさ」



 聖女セレスティンさんは恐らく聖国に居る。

 それがルクソール様の話。

 敗れて戦闘不能になった彼とローグベルク卿は戦域を離脱したその足で思い直して敵を追跡し、ソレを掴んだのだ。



「……公爵のすることっすかね」

「今更だろう。あとはプライドの問題だ。そして、諸々の話を合わせると―――我々としてはリーアニュクスと結びつけずにはいられないわけだ」



 聖国の内戦を裏で操る大司教とリーアニュクスは陰で繋がっているというのがセレスティンさんの話。

 ルクソール様曰く、錆騎士は人間とは思えなかったと。

 で、かつて僕が目にしたグールホークという男の異形化。


 ヴァレット、アルベリヒ、ルルシオ。

 男だけの部屋で今ある情報を整理する。



『グールホーク。あの男は実績を積み重ねることで使徒の()()を得ると言っていた。或いは、その祝福こそが魔術とは異なる力の源なのかもしれない』



 オウルの言葉だ。

 今はルルシオがいるから外してるけど、またあとで彼女の意見も聞きに行こう。

 で、だ。



「異能、異形化、そして異界の者たちの真実……と」


 

 シチシキョウ第五位……かの騎士はルクソール様たちにそう言っていたらしい。

 その実力は間違いなく最上位冒険者の領域だったとも。 

 

 シチシキョウ……七。

 その、第五位。

 レニカやオウルのレベルに至ってる化け物が七人いるっての?

 

 悪い夢だ。

 もしその話が真実なら、僕が仮想的とみなさなきゃいけない相手の力は帝国の国戦力をも凌駕する可能性がある。 



「―――ヴァレット。やはりギルソーン候からの招集、受けようと思う」

「は……」

「少人数、潜入に近い浸透作戦にて最小の被害で聖国の中央へ乗り込む第一段階。聖女を奪取したうえで聖銀騎士団と接触の第二段階。それらを経たのち、双方の力をもって反逆者となった大司教陣営を叩く―――。これで平和だ」



 いよいよ話が単純じゃなくなってきた。

 これは、胡坐をかいている帝国上層部の連中や同じく仮想的であった聖銀騎士団、その他引っ張れるだけの戦力をすべて利用すべき問題になってしまったんだ。



「というわけで―――皆、地下牢行きだけは食い止めてくれ」

「「……………」」

「うーん、どゆこと?」



 決定……、聖国の内戦は終わらせる。

 僕が持てる全てを使い、終わらせる。

 僕が名君として大往生を遂げるために、お隣の国とはいい関係を築かないといけないから……ね。




   ◇




 聖国の地方都市。

 物価の高騰があるとはいえ戦いとは無縁といえるほどに平穏の続く中央とは異なり、内乱の影響が色濃く出た街には多くの破壊痕が残る。


 つい昨日まで、亡き聖王側の勢力と中央を掌握した大司教派の勢力が争っていたこの場所で、領主がいなくなった館の回廊を歩く影が二つ。



「流石はアインスベルク卿。我らが半月攻めても打ち崩せなかった賊どもをたった一日で壊滅してしまうとは……」 

「全ては総大将たるモヤン司教の采配によるものです」



 一網打尽。

 領主は激しい拷問の末に死に、首を晒された。

 士気を完全に失った都市の抵抗勢力も多くは投降し捕虜となった。

  


「都市外縁部ではまだわずかな反乱の芽こそあるものの、この都市が落ちたことで彼らの拠点はあと僅か。もはや消化試合ですね、ほほほ……」

「油断は出来ません。セレスティンに追従しているのは元王室の近衛兵。そして宰相ワイズ。彼は私の戦術の師でもあった」



 彼ら大司教派が恐れるのが王の忘れ形見であり国家の象徴である聖女が再び兵をあげること。

 そして先王からの信頼も厚く賢者とされた宰相の存在。



「結局、領主の口から彼らの居場所はつかめなかったのですから、まだ……」

「そのお話なのですがね。ふふ……。ようやく残党の首魁たる彼らをおびき出す算段が付きました。既に聖女は我々の手中に戻ってきたのです」

「……ほう?」



 司教の言葉に騎士が興味を示す。

 確かに彼女さえ手中し大々的に知らしめれば、反乱勢力は力を失い瓦解する。

 が、肝心の聖女の所在は反乱勢力の中でも秘中の秘であったはず。



「使徒……。その一角が我らに助力してくださったのですよ。ほほほ」

「七支卿。錆騎士ベールリッチか……」



 天銀の輝きすらくすませる異形。

 聖国最強の使い手である彼が一度目にしたとき感じたのは……、ある種の畏怖。


 外部勢力と手を結んだ大司教ワルダックは聖国中枢を完全に飲み込んでいる。

 聖女を手中にしたとなれば、いまだ彼に傅いていない地方の領主たちも従わざるを得ないだろう。



「間もなく、決戦……ほほ、蹂躙となるでしょう。残るは反乱勢力の主軸たる者たちを捕らえ、これまでのように見せしめとして処刑。聖女と彼らに残った最後の反抗心をも消滅させたうえで泣く泣く従った反乱側の領主たちと帝国とで争わせ、邪魔者を排除する」



「さすれば聖国は真の平和を築くことが出来ましょう。ほほほっ」



 大司教の腹心たる彼は残忍であり、欲に目がなく、そしてしたたかだった。

 新たな体制のもと、自身が国家の第二位として君臨するためならばどれ程の屍が道となろうと気にも留めない。

 命令した拷問、処刑……本来アトラ教に仕える司教が行うべきでない行動も同じ。

 既に彼の眼に信仰はなく、当の昔から神の力に仕えているのだ。



「さぁ、行きましょうアインスベルク卿。ひとまずは私が総大将として打ち倒した領主の首を中央へ持ち帰らねば……」 

「―――モヤン殿」

「ええ、勿論あなたの忠誠はしかとワルダック猊下へお伝えさせて―――」


「この都市の領主は高潔であり、名君であり、義理と恥を知っていた。彼を失った反乱側の損害はあまりに大きい……。こちらの戦力も等分に減らしておくべきだと思わないか」

「ははは―――……、はい?」

「貴様などの命では到底釣り合うべくもないが、な」



 ………。

 司教モヤン、その腹部から伸びる聖剣。

 それまで夢に向かい心躍らせていた大司教の腹心を現実に引き戻したのはまさに一筋の光。

 聖女と並ぶ聖国の至宝であり、受け継がれてきたアトラ教の象徴―――信仰の武威たる聖剣ウェセラの輝き。



「アイ、ンス―――、きょ……?」

「忠誠、といったな。否定させてもらおう。私は、国家と下らぬ教義などに忠を尽くすつもりなど端からない」

「……か……はッ―――な、に……を」

「ここでお前が息絶えていようと、反乱側の勢力に暗殺されたと見られるだろう。私からもそう伝えさせてもらうだけだ」



 倒れ伏し血だまりを作る肉塊。

 彼はすぐに興味を失ったように視線を外し歩き始め、周囲を固めていた騎士たちもまたそれに続く。



「―――長よ」

「聖王派……大司教派。どちらも否だ。私の目指す理想と、あれらの目指すものには決定的な違いがある」

「では、ついに蜂起を?」

「まだだ。まだ……。あの俗物、ワルダックらには利用価値がある。全ての膿をさらけ出す、病蟲としての役割が」



「引きずり出す。奴らが持っている手駒。この国に伸びる腕、そのものをもぎ取る。―――握るのは奴らではない」



 聖銀騎士団は歩む。

 国を覆う二つの勢力、そのどちらにも属さない道へ。 

 


「力なき正義に意義などなく、であれば振りかざす剣にも意味はない。今の弱り切った聖国を亡きものとし、新たなる幕開けを……。かつての誓い、全てをこの手に」



「騎士たちよ。我が盟友たちよ。望むものはそこにあり。最後に立つは帝国でも、下らん予言を貴ぶ彼らでもない。勝利するのは我々だ……ッ!!」

「「長の足跡(そくせき)に……!!」」





ここまでのお付き合い有り難うございます、作者です。


恒例の私の出現ということで第三章はこれにて了。

今まで一つの章で一通りの物事を片付けていたのでまだ内容を大幅に残して次章へっていうのは新鮮な気持ちですね。

まあ、一応本章のメインは黒刃毒師オウルことリィナ・オウルさんとの激突だったので。

いやー、予告の通り何度か死んでましたね、あれ。

本来なら絶対勝てない相手を倒すにあたってどうすれば倒れてくれるのか滅茶苦茶頭を悩ませてた人がいたのは内緒。


ということで、次回からは本格的に聖国編。

物語を通して打倒すべき敵の姿も少しずつ見えてきたという事で、もしかしたら次章で大激突……?

勿論忘却伯本人も(嫌々)乗り込んでいくはずです。


まだ勢力図もつかめない中、果たして田舎貴族はどう立ち回っていくのか……事件の裏に、アトラ教本部の影。

次回四章【忘却伯と躍進の幕開け】……章タイトル変更の可能性もありますが、是非そのままお付き合いください。

と、宜しければここまでのご感想、評価、いいね等頂ければとても嬉しいので是非。

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