第8話:いざ矢面へ
「敵襲、敵襲―――!!」
警鐘、叫び、跳ね起きる者たち。
にわかに騒がしくなる石畳の上を忙しなく駆けずり回る兵士たち、その頭上に翻る白翼旗はジルドラードの象徴。
プリエールの南西部に位置する海岸都市を占領していた帝国の軍勢……先遣隊2000人からなる軍は破竹の勢いに聖国の一都市を奪取。
背は海に、正面は都市を囲う砦が。
その要所ゆえの護りの厚さを頼みに護りを敷き、やがてやってくる本隊を待つだけだと信じて夜を越していたはずだった。
異常なし。
敵影もなし。
もはや勝ち戦と信じて疑わない彼らの中に怒声に近い叫びにが広がったのはいつだっただろう。
それはまさに絶望の狼煙だったのだ。
「なぜ接近を許したのです! 偵察と見張り台の者たちは何を! 中央の兵とはそれほどまでに間抜けなのですか! 使えぬ兵士どもは―――」
「静かに!」
「ひッ!?」
「失礼、伯爵様。これは我らの分野。お任せいただきたい。―――軍旗だ! 敵軍は何者だ!?」
「前方敵軍、既に都市から500メートル、数200! 軍旗は―――、ぐんき……は」
「聖海種の紋様! 敵は―――聖銀騎士団!! 聖銀騎士団です……!!」
「「!」」
「なにぃ!? 馬鹿な! 王室の近衛騎士団が―――、あれは?」
海岸線に創られた都市を陸路で囲うようにして作られた要塞。
電撃戦にて都市を簒奪した彼らの自信の源であったそれの真下には確かに青く美麗な海魚を象った旗が近づいてくる。
しかし、ソレを御旗に接近する一軍より遥かに先行している影が一つ。
「まさか―――、まさか! あの男は天銀の―――、がぁぁ!?」
「「―――――」」
僅か数秒の間に起きた出来事だった。
常識的に、ソレは決してあり得ざる光景だったと言える。
人が飛んだ……、跳躍した。
その言葉で言い表せる範囲を超えていたのだ。
百メートルは離れているだろう地点から地面を蹴り飛び上がる影―――全身を白銀の鎧に包んだ騎士が長剣を振りぬくと同時に跳び、軽々と砦に降り立つ。
同時に一帯へ響き渡る炸裂音は、砦の正門が吹き飛んだもの。
強固な木材と鉄材によって造られた巨大な門が先の剣の一振りで、だ。
重厚な金属を纏っているとは到底思えぬ動きのまま、砦に降り立った影が武器を横に薙ぐ―――それだけで司令官を含めた十の兵が切り裂かれ、生じた斬撃波により後方の塔が崩落し、続く一斬で更に二十四の頸が飛んだ。
「ひぃぃぃあ!? なんっ」
「化けも―――」
逃げ惑う帝国兵たちの後方へと躍りかかる白銀の鎧。
今に指揮系統などないも同然となった彼らは命からがら逃げようとするが、既に破壊された門からは内部で暴れるたった一人の騎士と同系統の鎧を纏った者たちがなだれ込む。
騎士たちはいささかの感情の起伏もなく、淡々と均一の制式武装を手に帝国兵たちを切り伏せる。
逆に、彼らへと襲い掛かるものは武器であろうと魔術であろうと白銀の鎧を傷つけることも焦がすことも叶わない。
聖国でのみ製造方法が知られる、神が与えたとされる希少金属【天銀】の防具。
その性質は抗魔力……魔術による攻撃に極めて高い耐性を持つ。
敵の侵入を阻むはずの砦が、いつしか侵略者たる彼らを逃がさないための棺桶となったのだ。
すでにこれは戦いではなく一方的な虐殺である。
そのうえで、白銀の騎士たちは自国へ攻め入ってきた侵略者へと怒りも憎しみもなく、淡々と武器を振るい続け。
しかし、海路から西へ逃げようと船へ飛び込んでいく敵兵を追うことはしなかった。
総勢四隻―――500人以上を乗せることができたプリエール製の艦船が動き出す。
その動きは非常に緩慢であり、やはり内陸国家の軍……それでも白銀の騎士たちはわずかに追撃をかけるそぶりもなく。
「団長。賊軍は予定通りに乗り込みました」
「うむ。皆、そのまま休め」
戦いの中で誰一人欠けることなく、港へと整然と並ぶ一軍。
その様子はまるで見送りだったが。
慈悲か、幸運か……決してそのどちらでもなかったのだと、兵国軍はやがて知ることとなった。
「唸れ、ウェセラ。三聖剣たる力を示すがいい」
整備された港に燦然と並ぶ白銀の騎士団。
その先頭に立つ、最初に砦へと飛び込んできた騎士が優美な装飾のなされた剣を振りかぶり、構え。
剣もまた、己が意思を持つかのように青の輝きを放つ。
「………、海嵐神よ。彼らに救済を」
一拍、二拍……。
騎士たちが見守る中で、呼吸を置くたびに剣から漏れ出る光は増幅され。
「エポワールよ、彼らの魂を背に運びたまえよ―――、安らかに。はぁぁぁぁ!!」
「「……!」」
全てを薙ぎ払う―――放たれた斬撃が四隻の船団を上下に分け、裂き、砕き。
嵐のような衝撃が重厚な装備を纏っているはずの帝国兵を藁のように吹き飛ばしていく。
船団は海上を漂う瓦礫の山となり、それすらも巨大にして無数、蛟のように荒れ狂う不自然な津波の揺れに飲まれ消えた。
後に残るは波も風も緩やかな水平線のみ。
強襲からわずかに半刻と経たずして、帝国の前線を繋ぎとめる筈の先遣隊は消滅したのだ。
◇
大幅に下げられた前線。
それでも全く士気が低くは感じられない天幕の数々を通り過ぎていく中で到着した中心部で、ようやく狭苦しい馬車から降りる。
「どうということはないと思っていたが、やはり窮屈だな」
「……は」
アルベリヒを伴い降り立てば、すぐにやってくる案内の兵士。
事前に僕の到着を聞かされていたんだろう。
何故やら尊敬の色が強い兵士らに警護、案内されるまま天幕へ通されると、そこには帝国武闘派のそうそうたる面子が。
暑苦しいな、流石に。
戦場だから当然だけど女っ気がないのもしんどいし汗臭いしむさ苦しいし……。
「来たか、ユスティーア伯爵」
いや、汗臭さとは無縁そうな美丈夫もいる。
北部アルテシル領、ギルソーン侯爵。
司令官たる彼を筆頭に、会議の場には武闘派である貴族や中央軍部に属する兵団の将軍が幾人か。
しかし、そんな中で僕が案内された席は侯爵に次ぐ上座。
……いいの? これ。
椅子に座ったら実は熱々とか音が鳴るとかのどっきりじゃないの? これ。
「では、遠慮なく。失礼いたします」
「―――うむ」
いいらしい。
会議に出席している人たちの中では明らかに不服そうな顔をしている貴族もいるけど、ギルソーン侯爵に逆らう度胸はないと見た。
「では、財布係こと兵站の責任者も来たことだ。今一度確認といこう。伝令、先遣隊の中で逃げ伸びた者を呼んでくれ。もう一度話を聞かせてほしいと」
「は、はい……!」
………。
ギルソーン侯爵の進行する会議。
これまでの戦闘記録や侵入経路の確認など、話を聞くという兵士を待つ間にも議論は進む。
今回の帝国連合の目的は聖国の内戦の早期終結。
けどまず第一に、現時点でジルドラードがプリエールに対し握っているアドバンテージはほとんどないということがわかる。
出発前にも聞いていた通り、せっかく主要な都市を占領した先遣隊が全滅したからだ。
最初に帝国が攻め入ったのは中央へ向かうための要所ではなく、聖国西側の海岸に位置する都市。
プリエール産の海産物、その多くが取れる産業の中核の一つであり、ここを抑えることができれば帝国は他国に頼ることなく海産物パーティーを実施できたわけで。
「海路から物資を手に入れることもでき、また護る易く攻めるに難い補給線を確保できると踏んでのことだった。そういう話だな?」
「と、私もフルムン伯爵から聞いておりますな」
「本来の目的からは明らかに外れておりますが、そのままに保持しておれば手柄ではあったでしょう。保持しておれば」
同じ派閥とて自身らは無関係と、流すように肯定する貴族たち。
内戦の早期終結という帝国本来の意図からやや外れたそれ……海岸線の都市を確保するのは連合の総意による計画ではなく、あくまでいくつかの派閥が提案、そのまま実行に移したことだった。
けど、予測が外れ長期戦になるのなら補給線の確保は大事。
確かに独断専行に近いものではあったけど、他の面々も納得するような軍の動かし方だった筈だ。
ヴァレットも悪くない作戦って言ってたし。
しかし、言い訳の余地もある野望の占領に対し、およそ二週間ほど前の明け方に強襲してきたのがアインスベルク率いる聖銀騎士団。
「2000人からなる先遣隊は一日どころか一刻と持たず潰走。海路から逃げようとしたものは全滅、何とか陸路に流れ着いた者も一様に深手を負い、完全に使い物にならなくされたわけだ」
「運が悪かった。その一言に尽きるのでしょうね」
「まさしくな。目撃した者たちの証言では、指揮官と思われる騎士は一回の跳躍で百メートルを跳び、剣の一薙ぎで砦を両断……どこまでが真実なのか」
「「……………」」
「グレイバック候」
「我々も気になっていたことですが。かつて大陸を巡った卿からして、ソレはどの程度の実力なのでしょう。私たちにはあまりに現実離れしていると……」
「話の全てがまことであるなら、かの騎士は最上位冒険者に並ぶだろうな。およそ、単騎で国戦力に匹敵する。当然、私でもあまりに分が悪い戦いだ」
「……! グレイバック候ですら……!?」
「なんと、もはや……」
やべーな。
一定誇張とかも入っているだろうと推測してたのに。
さて、さて……。
「―――発言よろしいでしょうか」
「好きに言ってくれ、伯爵」
「壊滅とは伺いましたが、先遣隊の兵はどの程度再編成できるのでしょうか? 指揮をしていたフルムン伯爵は?」
「あぁ、独断専行に走った彼ともう一人の首謀者である将軍は残念ながらあの場で命を落とした。戻ってきた兵も戦えるものは数人といないゆえ、後送した。彼もこれが終われば後援行きだ。ご苦労、ゆっくり休んでくれ」
侯爵の言葉に、血の滲む包帯を各所に巻いた兵士が一礼する。
動くだけで痛むのか苦悶の表情だ。
しかし、大怪我を負った彼でも、先遣隊の中では最高に運が良いほうと。
「……戦争とは、まこと」
「生と死を分ける戦いとはこのようなものだ。―――恐れたか?」
あ、はい。
僕もその貴族やら将軍みたくなんかやらかせば今回の件から外してもらえるのかなって思ったり。
もう一人の化け物への対応に手いっぱいなのに天銀の騎士まで相手にしてられない。
「だが朗報もある。前線の後退を受け、中央も聖国の力を再認識してくれてな。じきに第5兵団が到着する」
成程―――帝国の中央軍部を構成する戦力。
第一兵団であり帝室の近衛である牙狼衆を筆頭に、中央の治安維持を行う第二兵団、工作任務などに就く第三兵団……。
学園でも何度も習う事であり、中央兵団の存在は子供たちにとっては一つのヒーローのような認識の彼らか。
「第五兵団、ハベルの光矢。超遠距離からの魔術掃射を至高とする術士団」
「うむ。白兵戦を主体とする天銀騎士団にとっては、いつどこから狙われるかわからぬ攻撃というのは精神的にも堪えるだろう。いかに天銀の装備とてな」
「どうやら中央も本気のようですね。他国との戦いではもう十年以上も動くことのなかったという彼ら中央兵団が動くとは」
「それだけのものが聖国にはある、という認識なのだろう」
まあ、大義名分こそあれ結局のところやっているのはほぼ侵略行為。
僕や侯爵の認識は当然に中央の意向に沿って、できるだけ早く聖国の内戦を収めることにあるけど、どれだけ禁止したとて先遣隊の件のように帝国の兵による命令無視や略奪などは起きてくる。
それをすべて止めることはできない。
彼らにも生活や己の利益を追求する権利があるからだ。
「誰かがやらねばならないこと。そう納得しておきましょう」
帝国にも大義は確かにある。
隣国の内戦がいつまでも終わらないようだと、当然その被害は帝国にも大きく影響する。
カビの生えた果物はやがて隣の果物すらも腐らせてしまうのだから。
綺麗ごとだけで世界は動いていない。
全てを救ってくれる無敵の勇者は存在しないし、どんな時でも助けてくれる騎士様はいないのだから。
「では、私は私にできることを。直接現場へ赴いたことで気づきがありましたので。領へ戻り、急ぎ融通できる物資の精査を行わせることにしましょう」
「うむ。助かる、ユスティーア伯爵」
「今の我々は財布係の貴殿のおかげでもっている。これで安泰でしょうな。心配すべきはその財布が空になる、或いは落としてしまう可能性ですが」
「ご心配なく。その時は無駄に広い屋敷を賃貸に出しますので。皆さまもいかがで?」
「「はっはっはっはっはっは!!」」
今回に至っては、アノール領は十分過ぎる援助を行っている。
周辺貴族が出し渋っている分をもだ。
だから、これ以上は相手も強く言えない。
それを分かったうえで、しかし更に拠出する……これは賭けだ。
目的がある、一種の誘い罠だ。
村の備蓄に手を出さないうちに、後の分はよそから買うか。
あまり実物資産を減らし過ぎれば、領に何かがあった場合の被害が止められない。
さて―――、では早いところ……。
「―――もし」
……?
声を掛けられると同時にアルベリヒが前に出てたな。
相手を確認してすぐに下がったけど。
最初に思ったのはリーアニュクスの商人さんが戻ってきた可能性。
声が女性に近かったからだ。
けど、僕も騎士と同じく相手の顔を確認して、すぐにそうではなかったと認識……空色の髪を持ち、布の騎士服を纏う若い女性に礼をする。
「これは、フェンリック様」
「……! ご存じでしたか、ユスティーア伯爵!」
年下の相手は素で嬉しそうな反応を見せてくれる。
きっと両親にしっかりと愛されて育ったんだろうな。
知っているのは当然だ。
フェンリック・ギルソーン。
名前で分かる通りギルソーン侯爵のところの娘さんだ。
学生時代でも大層な有名人で……当然かのギルソーンの人間っていうのもあるけど、彼女はその中でも極めて格別。
曰く、15歳の時点で魔素への適合率が30を超えていた……と。
性別さえ男だったら次期当主確定だったとされるほどの逸材だ。
「学生時代、フェンリック様がウェールズ殿下や上級貴族の子女らと勉学に励んでおられたのを遠巻きに見ておりました。食い入るほどに」
「あ、……ふふっ」
名前も服もどちらかというと男性的。
容貌も侯爵に似て中性的な美女であるからか、布製の騎士服もかなり似合ってる。
年齢でいえば21……?
若いな。
けど結婚したって話は聞いた覚えがない。
「この前線におられるのは経験のためでしょうか? 会議のさなかではお顔を拝見しませんでしたが……」
「はい、本来は前線へ来る予定もなかったのですが。父上が伯爵のお話をなさっていたので。学生時代、彼と話をすることはなかったのか……と。そこで、以前よりあった興味が強くなり……」
ちょっと話してみるかって?
なるかな。
行動力の化身なの?
「接点がないのは当然ですとも。私は目立たない学生だったので。現在も菲才のみで鞭を打つばかりですよ」
「とんでもない! 今こうして話していてどうしてもっと前から関わらなかったのかと後悔しているくらいです! とても素敵なお方だと。あっ、遅ればせながらローゼマリー様とのご結婚、おめでとうございます」
「おお、そうです。私は時期が合いませんでしたが、妻とフェンリック様は学生時代に縁が?」
「幾度かお話を。私のような武門育ちとは全く異なる……しかし、とても美しい方でした。きっと、今は更に美しく成長なさっているのでしょうね」
分かってるねキミ。
思わずうんうん頷いてしまい、彼女は目をぱちくり。
しかし、どうやら僕とギルソーン家の人間の相性はどうにも悪くないらしい。
「しかし―――その……。私とは数歳も離れていないのに、父上のように領の全てを……。その上で、このような場にまで。ユスティーア伯爵はとても堂々としておられますね」
「力を持たぬ身ですが、守衛を信頼している故に」
ちらと目を向ければ、欠片も動じていないアルベリヒが深々と一礼する。
あの件以降モードに入り続けている今の彼は、たとえ皇帝に凄まれても心拍数は変わらないのかもしれない。
「―――。強い、ですね」
と、それまでどこか気後れしていた様子の彼女の瞳が鋭い光を灯す。
その圧はまるで蒼の狼……やはりギルソーンは伊達じゃないか。
「アルベリヒ・ダインス。私の騎士です」
「ダインス卿……。先の対応もとても速かった。正騎士として我が家門の騎士団へ迎えたいくらいです」
「ふ……。よかったな、アルベリヒ。紹介状でも書いてやろうか」
「ご冗談を、主君」
……。
フェンリック様がいうような「振る舞い」に関してはあんまり意識してなかったけど、どうやら一度死地から回復した件で精神的にちょっとした成長、あとは生死の境をさまよっている間も戦争の援助を行っていたという事で周りから見えるフィルターにも伯……否、箔が付いたらしい。
僕もアルベリヒも、ね。
その後、いくらか立ち話があり。
やり取りに興味があるらしい兵士たちが遠巻きに見ている中で挨拶を切り出した。
「では、彼らが物欲しそうな目で見ているので、遠い食糧庫に戻り料理支度をするとしましょう。私はこれにて」
「はい! 呼び止めてしまって申し訳ございませんでした」
話してて分かった。
貴族社会にはもったいないくらいに純朴な女性だ。
武家の育ちだからあくまでそっち方面重視で育てられたのかな?
「―――ヨーゼフ、空けている間に問題はないな?」
「勿論でございます、旦那様。馬車に近寄るものはおりませんでした。しかと確認を取っておりましたゆえ」
「よし、では馬車を出してくれ」
再び狭苦しい馬車に乗り込む。
向かう先は当然自宅。
前回の反省を踏まえてアルベリヒは決して外に出ず僕に付いている。
「「……………」」
馬車中では口を開く者はいない。
僕自身、手を握り祈るようにただただ沈黙を貫くばかりで。
無事に帰れるかな。
いや、帰らなきゃいけないんだよな。
帰らないと―――、今度こそ―――。
………。
……………。
………。
……………。
「……ッ。レイク様、失礼ッ」
「―――――ッッッ………!!」
どれだけの時間がたったか―――おそらく出立から二時間ほどだったろう。
アルベリヒが飛び上がり、僕の腕を思い切りに引っ張り馬車から引きずり下ろす。
理由なんか考えなくともわかる―――襲撃だ。
実績解除、移動中に賊に襲われる貴族……そこは令嬢とかでやれ。
なんて考えている暇もなかった。
痛覚、痛み―――激痛。
心臓を直接握られるような痛み、貫かれた痛み……それらが同時に身体を襲ったからだ。




