7 ジュリアスさん
「ミヅキ、これ、お土産です」
「ジュリアスさん、いつもありがとうございます」
この世界に来てから10ヶ月。
私の聖女の能力もレベルマックス並になり、能力も安定して使えるようになった。その為、そろそろ─と、旅に出る準備が進められる事になった。
そして、10ヶ月にもなると、同行メンバーともそれなりに仲良くなって来た訳で──
第二騎士団所属のジュリアスさんは、休日で街へ出掛けた日は、必ず私にお土産を買って来てくれるようになった。「そんなに気を遣わなくても良いですよ?」と言えば「ミヅキは自由に外出できないから、せめて、美味しい物でもと思って…。それに、ミヅキが食べてくれないと、捨てるしかないから、受け取ってくれると嬉しい」なんて言われてしまえば、受け取るしかない。そして、一度受け取ると、もう断れなくなってしまったのだ。
ジュリアスさんは優しい。ただ……ジュリアスさんを見ると、航を思い出してしまう。
全く似てもいない2人なのに。その優しさや、眼差しが航と重なるのだ。もう吹っ切れた─と思っていたけど、そうでもなかったみたいで……。ジュリアスさんと話していると、胸がチクチクするのには、気付かないフリをしている。
そんな日々を過ごしていると、ある噂が私の耳に入って来た。
“聖女様とジュリアス様が、良い感じらしい”
“浄化の旅を終えた後、婚約するらしい”
「────有り得ないから!」
「何がだ?」
「ひぃ──って……ブラントさん、驚かさないで下さい」
驚いた私を見て笑っているブラントさん。
「えっと…私に何か用ですか?」
「あぁ、今日の朝の議会で、浄化の旅の日程が決まったから、知らせに来た」
ブラントさんから浄化の旅についてのアレコレを聞いてから1週間後に、私達は浄化の旅へと出立した。
同行メンバーは予定通り。
第二王子で魔道士のミリウスさん
第二騎士団所属のジュリアスさん
第一騎士団所属のバーナードさん
魔道士のネッドさん
魔道士のフラヴィアさん
第三騎士団所属兼私の護衛のジェナさん
後は、浄化ポイントである領の騎士達が、現地で合流する事になっている為、王城付きの騎士が同行する事はない。特に、浄化ポイントでも問題がなければ、私達だけで浄化をする事もある。
浄化の旅が始まり、最初の頃は手間取る事もあったけど、浄化を繰り返していくうちに、それにも慣れて来て、穢れが酷い場所でも比較的スムーズに浄化する事ができ、気持ちにも余裕が出るようになった。
旅に出て半年もすると、「予定より早く帰途に就けるかもしれない」と言う話にもなる程順調に進んでいた。勿論、瘴気があふれ魔獣や魔物と遭遇する事もあった。
ただ……同行メンバーの実力もかなりのモノだった上、アイルとフラムの影からの援助攻撃が、その見た目からは想像できない程の威力で………「あれ?誰がやっつけたの?」と、フラヴィアさんが不思議そうに呟く事も……多々あったりもした。
「ミヅキが浄化している時の姿は、本当に綺麗で……ついつい見惚れてしまうんだ」
「あ…ありがとうございます?」
「何故疑問系?」
ははっ─と、爽やかに笑うのはジュリアスさん。
今日も1日が終わり、後は寝るだけ─の前に、野営をしているテントから抜け出して夜空を見ていると、「横に座っても良いですか?」と、ジュリアスさんに声をかけられ、断る訳にもいかず「どうぞ」と返事をした後、2人で夜空を見ながら話をする事になってからの、今の言葉だった。
“綺麗”と言われて、喜ばない、恥ずかしくない訳がない。しかも、イケメンに。イケメンに対する印象が悪いだけであって、ジュリアスさんが嫌いと言う訳でもない…事もない?
「………」
ついつい、ジュリアスさんに目が…視線を向けてしまっているのは確かだ。まだ、恋とも呼べない程のモノだけど。まだ、ジュリアスさんからの優しさを素直に受け止められない自分がいるのは確かだ。
「ミヅキは旅が終わったらどうするの?」
旅が終わったら──
過去の聖女の話を聞く限りでは、元の世界へと還った聖女は1人も居ないそうだ。しかも、旅の同行メンバーの誰かと結婚していた。
ー“吊り橋効果じゃない?”と思ったりもするけどー
「私はまだ何も考えてません」
「そっか。なら………私との事を…考えてくれないかな?」
「え?」
その言葉に驚いてジュリアスさんに視線を向ければ、ジュリアスさんもまた、私の方を見ていて、その綺麗な青色の瞳に私の姿が映り込んでいた。
その姿は、私であって、私ではない私だ。
「私は……ミヅキとは、旅が終わった後も、一緒に居たいと思っているんだ。だから……今すぐにとは言わないから、少し、私との事を考えてみて欲しい」
「ジュリアスさん……分かり…ました。今すぐには無理ですけど……考えさせてもらいますね」
何て上から目線な返事なのか!?─と内心焦ったけど、対するジュリアスさんは「ありがとう」と言って、本当に嬉しそうに笑うだけだった。