52 108本
ブラントさんはダークグレーの短髪で、瞳の色は葵色。身長は180cm以上はあると思う。勿論イケメン。そんなイケメンが、今日は正装と思われる黒色の騎士服を着ていて、更に赤色の薔薇を1本持って現れたら、ドキドキしませんか?
「今日の花を受け取ってもらえるかな?」
「ありがとうございます」
そう言えば、今日はトゥールから貰ってなかったなと、今更ながら気が付いた。
『チカ、この薔薇で108本目だよ』
トゥールがまた、私の耳元で呟いた後、またどこかへ飛んで行ってしまった。
「?」
108本目だから何なのか……と言うか、よく薔薇の花の数を数えていたよね。それとも、貰った数と同じ数のお返しをしないといけないって事はないよね?
「えっと…色々訊きたい事はあるんですけど…何か食べますか?それとも、パーティーで何か食べました?」
「何も食べてないから、何か頂けたら嬉しいかな。でも、その前に……お風呂に入らせてもらっても良いだろうか?正装のままだと寛げないから」
確かに、正装のままだと寛げないだろうし、汚れたらどうしよう!と、心配になったりするし緊張もするからと、急いでお風呂の準備をした。
イケメンは狡い。髪が濡れただけで色気が増す。
リアル“水も滴るいい男”だ。そんなブラントさんと机を挟んで向かい合って座っている。何も食べていないと言っていたのは本当のようで、取り敢えずと作っていたサンドイッチがあっと言う間に無くなってしまった。
その後、意外と甘い物が好きなブラントさんに、パンケーキを用意した後、今日のパーティーについて教えてもらった。
ルドヴィクさんが国王となってからは、更に国が豊かになっているらしく、民衆がお祝いの為にお城の広場に押し寄せて来たそうだ。
婚約者リンのお披露目は、王妃の座を狙っていた高位貴族の令嬢達が悲鳴を上げたりもしたそうだけど、リンが光属性である事を告げると、その場が静かになったそうだ。それで、令嬢達が諦めたかと言うと、そうではなかったそうで、とある侯爵令嬢がリンに近付き「あっ」と声をあげてフラついた体を装ってドリンクをぶちかまそうとしたら──
何故か、リンではなく自分に掛かった上に、グラスに入っていただろう量よりも遥かに多過ぎるよね?と言う量の水を被ったらしい。
ーアイルに違いないー
所謂“倍返し”だろう。「グッジョブ!アイル」と言っておこう。典型的な嫌がらせをする人は、世界が違っても居るもんなんだなぁ。
勿論、そのご令嬢は血相を変えてやって来た親である侯爵に、引き摺られるようにしてパーティー会場から強制退去させられたそうだ。親はマトモで良かった。
「これからも、多少なりとも嫌がらせはあるかもしれないが、ルドヴィクとリンなら大丈夫だろう」
「そうですね。2人ともしっかりしてますからね。ところで、結構早い時間にここに来ましたけど、大丈夫だったんですか?ブラントさんって、一応は王族ですよね?」
国王即位記念パーティーなら、騎士としてではなく国王の叔父、若しくはカールストン公爵として出席していただろうに、まだ日が沈み切る前にここにやって来たブラントさん。
「ルドヴィクの許可は取ってあるし、最低限の事はしてきたから問題無い。パーティーで愛想を振りまくより、チカと2人きりになる時間の方が大切だからな」
「ごふっ────なっ!???」
「普通の令嬢なら、ここで紅茶なんて吹かずに頬を染めるんだがな……」
「普通のご令嬢をお望みなら、今すぐ王城に戻って下さい」
「望みはチカだから戻らない。ここに居る」
「ぐぅ─────っ」
唸り声あげながら机に突っ伏すと、頭の上でブラントさんの笑い声が聞こえた。
「最初は、何て胡散臭そうな目で俺を見るんだろうと思った」
「あ…バレてたんですね」
「正直だな…」
私にとって、イケメンの爽やか笑顔ほど疑わしいモノはない。航がそうだったからと、イケメン全員がそうではないと分かってはいるけど。
「何度も言いますけど、ブラントさんに今更取り繕っても仕方無いですからね。ブラントさんには正直者で居ることにします」
「へぇ……正直者…ね………」
ーん?何かおかしい事言ったかな?ー
「薔薇の花が108本の意味を知っているか?」
「すみません。私、本当に花や花言葉の知識は底辺を這っているので知りません」
そう言えば、さっきトゥールも108本とか言っていたけど、何か意味がある?首を傾げていると、机の上に置いていた手をスッと持ち上げられた。
「今日は、チカに結婚を申し込みに来た」
「─────────はい?」
「俺の周りには、いつも甘い言葉を掛けてくる女性しかいなかったし、それを嫌だとは思わず俺も俺で楽しんでいた。そんな時にミヅキに向けられた俺への、何も含まれていない視線と言葉が気になり出したんだ。




