50 花
ネッドさん指導の訓練が終わってから3ヶ月。
今でもリンと2人(+妖精3人)の生活は続いている。ただ、3ヶ月前と違って来た事もある。
『リンとの婚約、結婚を認めてもらいたい』
ネッドさん指導の訓練の最終日のあの日、2人が散歩から帰って来ると、真剣な顔をしたルドヴィクさんに“娘さんをください”をされた。
「嫌です」と口から出そうになる前に「私からもお願いします」と、リンからも言われたら「リンを泣かせたら総出で行きますから」と言うしかなかった。
それから、リンが光の魔力持ちだと公表し、少し揉めたりもしたみたいだけど、1ヶ月後には無事婚約者となり、今は週3日王城で王妃教育を受けている。もともとデストニアでも受けていたから、特に問題もなくスムーズに行っているようだ。
そんな訳で、リンと一緒に料理をする時間は減ってしまって少し寂しいけど、リンが幸せそうだから我慢だ。
訓練は終わってしまったけど、月に2、3回は、ネッドさんとジェナさんが遊びに来てくれる。ネッドさんは相変わらずだけど、私が名前を呼んでも固まる事がなくなった。会話は……相変わらず斜め上な弾丸トークになってしまうけど、それはそれでネッドさんらしいから良しとする。
そして、一番変わった事は─
『今日はピンクのガーベラだよ』
「…ありがとう…………」
毎日、私のもとに花が届けられる事。
何故か、見えていない筈のトゥールとブラントさんが仲良く?なったのか、毎朝トゥールがブラントさんから頼まれた花を運んで来るようになった。その花はその日によって違う物で、花束だったり1輪だったりと様々だ。花に詳しくない私に、フラム達が花の名前と花言葉を教えてくれるのは良いんだけど…
『ピンクのガーベラ3本は“愛してます”よ』
「……………」
ー勘弁して下さい。どんな公開処刑ですか?ー
訓練最終日のあの日、まさか、あのブラントさんから熱の篭った視線を向けられて、髪にキスされるなんて……思ってもみなかった。
ただ、毎日花は届けられるけど、ブラントさん本人とはこの3ヶ月会っていない。その事にホッとしている自分と、少し寂しいと思ってしまっている自分が居る。
「落ちかけてる………」
『チカはブラントが嫌いなの?』
『ブラントは嫌な奴じゃないけど、やっちゃう?』
『チカが嫌ならやっちゃう?』
「やらなくていいよ!!きっ…………嫌いじゃないと…思う」
『じゃあ、何がダメ?』
「何が…………」
ブラントさんは、最初は紳士的に対応してくれた。それはそれは爽やかな微笑みを添えて。それを、何となく胡散臭く思って距離を取って接していたのは私。それが、いつの間にか爽やかな微笑みが無くなって紳士もどこへやら?で、今のブラントさんになって……って、ブラントさん、私が胡散臭いと思ってた事に気付いてた?だから、敢えて素の態度で接してくれてた?180度も変わったから私の事が気に入らないのか?と思ったりしたけど、私の為だったら……
「何て分かり難い………」
いや、私も悪かったかもしれないけど。
「フラム、ありがとう。少し、気持ちが整理できたかも。アイル、トゥール、ブラントさんには何もしないでね」
『『分かった』』
『ふふっ。チカは可愛いわね』
フラムは小さいお姉さんみたいだ。
そもそも、小さいと言うだけで若いとは限らない。ひょっとしたら、かなりの年上なのかもしれない。
******
「それじゃあ、行って来ます」
「うん。気を付けてね。フラム、アイル、よろしくね」
『任せてちょうだい!』
『任せろ!』
フラムの魔法陣が展開すると、そこからリンとアイルとフラムの姿がなくなった。
1週間後に国王即位記念日の祝賀パーティーがあり、そのパーティーに、国王ルドヴィクさんの婚約者として初めて出席する事になったリン。実質のリンのお披露目となる為、1週間前から王城に泊まり込みで色々と準備をする事になった。そんなリンに、お守りとしてフラムとアイルに一緒に行ってもらう事にした。
因みに、リンには見えては居ないけど、居ると言う事は伝えている。
光属性に危害を加える人は居ないと思うけど、念には念を─と言う事でお願いをした。
後何回、リンをここから見送る事ができるのか…。
「嫁に出す親の気持ちが分かり過ぎる程分かって辛い!」
「えらい若い母親だな」
「ぬあ──っ!?ブラントさん!?」
「もう少し可愛らしい驚きはできないのか?」
「本当に驚いた時に出る声なんて、調節できませんからね!って、どうしてここに居るんですか!?」
トゥールはどうしたの?あぁ…そうだ。ブラントさんには何もしないようにと言ったから、何もしなかったんだ。トゥールを見ると、ブラントさんの周りを楽しそうに飛び回っていた。




