43 ジョセリン=クロードハイン
「先ずは…チカ、聖女リリが何処へ行ったのかは分からないのか?」
「あの魔法陣と黒色の光は、オールデンさんのモノだと言う事は確かですけど、転移先が何処かまでは分かりません。何となく…オールデンさんの所かな?って感じはしますけど。多分、これからどうするのか?って話になるかと…」
多分、田辺さんは日本には還らないだろう。魔法陣が現れた時、還りたくないと叫んでいたから。じゃあ、オールデンさんがその願いを聞くのかどうか…それは分からない。一体田辺さんをどうするつもりなのか。
「そうか…。イシュメル、聖女リリが何故正式に聖女としてお披露目されていなかったのか、理由は分かるか?やはり、年齢的な理由か?」
「リリ様がオールデン様によって召喚されたのは間違いないのですが…実は……お披露目がまだだった理由は、オールデン神の言葉があったからだそうです」
デストニアの大神官が聞いたオールデンさんの言葉は─
田辺莉々の聖女としての器は少し不安定な為、こちらの世界で聖女としての力を馴染ませながら訓練をさせるように。きちんと訓練さえすれば、1年も経たずとも立派な聖女になれる。逆を言えば、訓練しなければ聖女の資格を失う。それ故に、聖女としての正式なお披露目は控えるように。
「デストニア国内の瘴気は、我が国の時の様に酷いものでもありませんでしたから、デストニアの神官達も、特に急いで事を進めようとはせず、年齢を考慮して学校に通わせながら訓練をさせていたようですが……」
「彼女はマトモに訓練をせず、年齢すら偽って年下の王太子を籠絡させて楽しんでいたと言う訳か。それじゃあ聖女にはなれないな。そもそも、不安定な器なら、彼女を聖女とするべきではなかったのではないか?」
ーソレ!本当に、オールデンさんは腹黒だ!ー
「それでも田辺さ……リリを聖女として召喚したのは、多分……デストニアを変える為ですよ。このミスリアルの時のように」
過去の聖女についての文献をいくつか読んで気が付いた。
聖女が召喚された時と同時期に、王が変わっていた。そのどれもが、当時の王が悪政を敷いていたのだ。瘴気とは、余った魔素の集まりだけではなく、人間の恨み辛みの思念からも生まれる事があるそうだ。
「オールデンさんは、リリの性格をキッチリ理解した上で彼女を聖女に選んだんですよ。リリを、デストニアの膿を出す起爆剤として。且つ、私に過去と決着させる為も…あったかもしれませんけど……」
ーそうやって、楽しんでたんだろうなぁー
やっぱり、ジョセリンさんの分までしっかり文句を言わないと気が済まない!
「オールデン神は、ちゃんと私達の事を見て下さっているんだな……」
「え!?そこ!?」
そこに感動するのか!!それもそうか……被害を受けたのは私とジョセリンさんだけ。ルドヴィクさん達からすれば、悪政に終止符を打つ事ができたのだから、喜ぶべきところなのか…複雑だなぁ…。
「ジョセリン嬢。実は、貴方はクロードハインの籍から外されてはいなかったんだ。だから、実際のところ、貴方はデストニアの国民で公爵令嬢のままなんだ」
そう。マテウスさんには嘘をついたけど、これには正直に驚いた。
ジョセリンさんの父親であるクロードハイン公爵は、確実に国王を引き摺り下ろす為に、娘であるジョセリンさんを見捨てたように見せ掛けて婚約破棄を確実なものにしたのだ。勿論、後で娘を保護する予定で。まぁ…それも田辺さんのせいで娘を見失ってしまい、今でも必死になって捜しているそうだけど。
アイルとフラムとトゥールが綺麗にジョセリンさんを隠しているから、未だに見付かってないんだよね……。
「それで、ジョセリン嬢の気持ちを先に聞いておきたいんだが…。ジョセリン嬢はどうしたい?デストニアに戻りたいのであれば、直ぐにでも帰る事はできる」
「私は…………もう疲れました。保護しようと思っていたとか、今でも必死に捜していると言われても、私にとっては、あの時の出来事全てが現実の事だったんです。あの時、チカ様が助けてくれなかったら私は…きっと死んでました。それでも、保護するつもりだったと言われて、笑って受け入れられますか?誰も信じてくれないと絶望した気持ちが報われますか?私にも前以て一言何かあったなら戻ったかもしれませんが、何もかもが終わった後に言われても、喩えそれが親であっても、もう簡単にその言葉を信じる事はできません。だから、私はデストニアには帰りたくないし、公爵令嬢で居たいとは思いません。できる事なら……このままチカ様と一緒にミスリアルで過ごしていきたいです。ただ……お兄様には……」
報告書によると、ジョセリンさんの両親は、ジョセリンさんの事を大切に育てていたとあったが、実際は“政治的に使える駒”として、それなりに厳しくされていたようだ。でも、兄だけはいつも妹であるジョセリンさんには優しかったそうで、2人は仲の良い兄妹だったそうだ。




