41 聖女失格
「だって、本当の事じゃない。ねぇ、田辺さん。貴方……お腹に居た筈の子供はどうしたの?」
「なっ!」
「お腹の子!?リリ、それは本当の──」
「なっなっ何言ってるんですか!?変な事言わないで下さい!だっ誰かと間違って──」
「間違うわけないでしょう?後数ヶ月で結婚すると思っていた婚約者から、他の女との間に子供ができたから結婚できないって言われて捨てられて、誰が間違うの?田辺さんの事も航の事も忘れられたら良かったけど、残念ながら貴方達2人の事はしっかりハッキリ覚えてるわ。」
ーそれが嘘や夢だったらどれだけ良かったかー
「それとも、人の婚約者を寝取っておいて、貴方は私や航の事を忘れたの?あぁ、忘れたから、この世界に来てまた人の婚約者を奪ったのね?もしかしてなんだけど…航の子を妊娠したって言うのは嘘だったの?それとも──」
「嘘に決まってるじゃない!知ってた?今時、エコーの写真だってネットで買えるっ…て…あ……」
「……そうなのね…………」
嘘だったのか。そんな嘘で私は──違う。喩え、その妊娠の話がなかったとしても、2人が私を裏切っていた事に変わりはない。
「リリ…君は本当に………まさか、ジョセリンも?」
「それは………だって、私が虐められていたって証拠があるでしょう?」
「あ…あぁ…そうだったな………」
ーいや、だから、そこは疑おうか?今の話、ちゃんと聞いてた?この王太子、無能もいいところじゃない?ー
「ジョセリン嬢の無罪の証拠なら、揃っているぞ?」
「「は?」」
ルドヴィクさんが、机の上に置いてある書類の束を、指でトントンと叩いた。
「ジョセリン嬢が聖女を虐めていたと証言した者は、皆、元第一王子派の貴族の子息だった」
「は?」
マテウスさんとジョセリンさんの婚約は、国王の不安定な王位とマテウスさんの王位継承を確固たるものにする為に調えられたモノだった。ジョセリンさんの家の公爵と言うのが、建国当時から続く名家で、過去には王族が降嫁した事もあり血筋も勢力も持ち合わせていた中立派だった。その為、マテウスさんが王位を継ぐ為に婚約者に選ばれたジョセリンさん。それで、元第一王子派も一旦落ち着いたけど、国王の悪政は酷くなり、更には聖女の出現と、王太子マテウスとジョセリンさんの不仲説とジョセリンさんによる聖女への虐めの噂。元第一王子派は、国王を引き摺り下ろす為にその虐めの噂を利用して婚約破棄させるように動き出した。
元第一王子派は、聖女リリの本性に気付いていたと言う事だ。
そして、マテウスさんはその嘘にまんまと騙されて、ジョセリンさんに婚約破棄を言い渡し、更に国外追放を言い渡した。ここ迄は、元第一王子派の想定内の範囲だったが、そこで思わぬ事が起こった。
ジョセリン=クロードハインの消息が途絶えた事だった。
隣国に入り次第保護するつもりが、予定していた国ではない国に向かったようで、その事に気付いた時にはすでに遅く、足取りが掴めなくなってしまっていたそうだ。
それは、私達が隠していたからだけど。
「マテウス殿が王位に就くには、クロードハインの後ろ盾がなければ無理だから、マテウス殿とジョセリン嬢の婚約を破棄させる為に嘘の証言をさせていたんだ」
なんて身勝手な話なんだろう。この世界で、婚約破棄された女性の行く末なんて限られている。破棄された後助けるつもりでいたとしても、ジョセリンさんの傷付いた心が癒される事なんてない。
「そんな……彼女……ジョセリンは…今どこに?」
「私が拾いましたけど、何か?」
「「は??」」
「ジョセリンさんは私が拾って、しっかり保護してるから安心して放っておいてもらえますか?物を捨てるみたいに簡単に国外追放を言い渡すような人が居る国に、ジョセリンさんは返しません。保護するつもりだったって……あの時、私が間に合ってなかったらどうなっていたか…ねえ、田辺さん、どうなっていたか、貴方なら分かるんじゃない?」
「…………」
「沈黙は認めたと同じ事よ」
田辺さんは、確実にジョセリンさんを排除する為に、ジョセリンさんを国外に送り届ける予定だった者を変更させて、行き先も変更させて、最後にジョセリンさんを「好きにして良い」と言ったのだ。
「一体、誰が悪役令嬢なのか……役じゃなくて、悪女ね。貴方には、聖女の資格なんて無いわ」
私がその一言を告げると、田辺さんの足元に魔法陣が現れた。
「え!?何!?」
「リリ!?」
「………」
慌てる田辺さんと、その田辺さんに手を差し伸べるマテウスさん。
その魔法陣は、黒色の光で田辺さんの体を包み込みながら展開していく。
「やだやだ!帰りたくない!マテウ──」
「リリ!!」
パンッ─と黒色の光が弾けると、もうそこに田辺さんの姿は無かった。
「「「………」」」
「リリは…リリを何処へやった!?」
「──っ!」
私に怒りを向けながら手を伸ばして来るマテウスさんのその手を、私に届く前に掴んだのは──
「ブラントさん……」
「大丈夫か?」
「はい。何ともありません。ありがとうございます」
今迄ずっと黙ったまま、ルドヴィクさんの後ろに控えていたブラントさんだった。




