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37 アクシデント

その知らせが入ったのは、王太子マテウスと聖女リリが帰国する日の朝だった。




「どうやら、隣国デストニアで、国王を狙った襲撃事件が起こったようで、その事件が落ち着く迄、王太子と聖女の滞在期間が伸びたようです」


なんて言うタイミングの良さなんだろうか。



隣国デストニアの現国王が即位する前、正妃の子である第二王子と、側妃の子である第一王子のどちらが立太子するかと、長い間揉めていたらしい。結局は、正妃の子である第二王子が立太子し、今では国王となっているのだけど、貴族偏りな政策が多く、反発する貴族や国民が居るそうだ。その反発している貴族の殆どが、第一王子推薦派だった者達。今回の襲撃事件も、その第一王子推薦派の貴族の仕業ではないかと言われているそうだ。

そんな所に王太子を帰って来させる訳にはいかない!と、滞在期間を延長して欲しいと嘆願書が届いたそうだ。


「なら…仕方無いですね………」


こうなれば、リリは危険分子でしかない王太子を斬り捨てて、ブラントさんに突撃して来るだろうと言う事が簡単に想像できてしまう。


ー結局、オールデンさんの思惑通りにいくのかー


「悔しいけど、逃げたら駄目って事だよね…」








それから1週間─


「何なんですか!?あの聖女は!!!」

「どっ……どうしたんですか!?」


叫びながらやって来たのは聖騎士のジェナさん。

ジェナさんは今、聖女リリの護衛に付いている。


「あぁ!ここが、今、チカ様が住んでいる家なんですね!何でも大神官イシュメル様の生家だとか。大神官様と聖女様が住まうに相応しい程の清々しい空気に満ちていますね!王都で穢れた心もここに居るだけで浄化されるようです!あー、やっぱり、本物の聖女は違いますね!いえ、チカ様は更に特別なんですけどね?聖女擬きと比べるのも烏滸がましいんですけどね?あの聖女擬きときたら、訓練もせず毎日毎日───」

「ネッドさん、お久し振りですね!元気そうで良かったわ!」


ピシッ─と固まる、安定のネッドさんと会うのも1週間ぶりだ。


リリ達が暫く居残ると聞いてから、取り敢えず、私とジョセリンさんはアルスティア領の家に帰って来た。それからの1週間は、ジョセリンさんと一緒にご飯を作ったりお菓子を作ったり、掃除をしたり……ごくごく普通の生活をのんびり楽しんでいた。

令嬢であったジョセリンさん。自分で何かをするのは初めてと言う割には手先が器用で、失敗しても何度か繰り返すうちに、色々とできるようになっていった。


そんなのんびり生活に慣れて来た頃にやって来たジェナさんとネッドさん。

取り敢えず、さっき焼いたクッキーを用意して、ジョセリンさんには4人分の紅茶を淹れてもらった。ジョセリンさんの淹れる紅茶は、とても美味しいのだ。



「あぁ!チカ様が焼いたクッキーですね!?癒やしの魔法が掛かっていますね!1つ食べただけでも疲れが取れました!聖女擬きにやられた心も癒やされるようです!流石はチカ様!」

「癒やしの…魔法?」

「はい。あ、もしかして、無意識ですか?それでは、チカ様が作る食べ物には全て、癒やしの魔法が掛かっている可能性がありますね。例えば、体調を崩す事がないとか、疲れが残らないとか、夜はグッスリ眠れるとか、朝の早起きが苦痛ではないとか、怪我をしても治りが早いなどなどですが、心当たりありませんか?」


「「…………」」


ーめちゃくちゃ心当たりありますよー


自炊し始めてから、体の調子が良いなぁ…と思っていた。きっと、ジョセリンさんもそうだ。箱入りで育った割に、環境が激変しても元気だなぁ…と思っていたけど。


「なるほど。では、私がこうやって元気に過ごせているのも、チカ様のお陰なんですね?チカ様は、本当に素晴らしい聖女様なんですね!」

「そうです!ご理解いただけましたか!?チカ様はそれはそれは召喚されて来た瞬間から別格で───」

「ネッドさん、今日は、どうしてここへ?」

「──っ!!」

「はぁ──本当に、ネッドと居ると…疲れる。あー、チカ様、急に来てすみません。手紙よりも直接来た方が話が早いと思いまして…」


疲労感たっぷりのジェナさんが、固まったネッドさんに代わって、今日転移してやって来た理由を説明してくれた。






父親であるデストニア国王が襲撃されたと知った王太子マテウスは、自分も狙われる─と怯えて、城の客室の寝室から一歩も出る事がなく引き篭もり状態。そんなラッキーな状況を聖女リリが逃す筈がない。


「事前に許可を取ってもらえれば、護衛付きで部屋から出ても良い」と言われ、ほぼ毎日のように部屋から出て、騎士団の訓練場に押しかけているそうだ。そこでブラントさんが居れば、訓練終わりに声を掛けお茶に誘い、ブラントさんが居なければ周りの人間に八つ当たり。


「異国の地ではあるが、聖女としての訓練はした方が良い」と言われているのにも関わらず、訓練は殆どしない。「いつでもやればできるから」なんだそうだ。それでも、魔道士が忠告すれば「私は聖女よ!?魔道士とは違うのよ!特別なのよ!」と叫ばれるそうで、もう誰も何も言わなくなったそうだ。


特に、同性の女性への当たりがキツイようで、護衛をしているジェナさんは、特に被害を被っているとの事だった。





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