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34 防波堤

「兎に角、先ずは、リリがブラントさんを狙って来るかどうかの確認ですね」


 十中八九、狙って来るだろう。そもそも、王太子は18歳でリリは23歳。リリは……多分年上のしっかりしたハイスペが好みだ。それに、ルドヴィクさんとブラントさんはバッチリ当てはまっている。でも、きっと、狙いはブラントさんだ。


「それなら、今日の昼から、王城で開かれるお茶会で確認してみるか?」


 そのお茶会には、各国から来た女性だけが参加するそうで、男性はルドヴィクさんが取り仕切る男性だけの集まりがあるそうだ。だから、お茶会に参加する事はできないけど、ルドヴィクさんとブラントさんがお茶会の終わりの時間の少し前に、挨拶を兼ねて訪れる─と言う事になった。そこで、リリがどんな行動を取るのか。


「それで、多分…きっと動くと思うんですけど、動いたとして…どうします?ブラントさんって、恋人とか婚約者とか居ないんですか?相変わらずなんですか?」

「相変わらず遠慮が無いな。恋人も婚約者も居ない」

「えっ!?叔父上、恋人は居ないんですか!?」

「何故、そこでルドヴィクが驚くんだ?」

「え?いえ……最近、叔父上の女性絡みの噂を全く耳にしなかったので、てっきり恋人でもできたのかと………あ………なるほど………すみません。勘違いしてました。うん。チカ、叔父上には恋人も婚約者も居なければ浮いた話もない」

「そうなんですね?なら…ある意味、被害者が出る事は無いけど、防波堤になる人も居ないって事ですよね……」


 リリの事だから、喩え防波堤(彼女)が居たとしても突撃して来るだろうけど。


「チカが防波堤になってくれても良いんだぞ?」

「え?嫌です」

「ぶはっ──……すみません。叔父上。笑ってません。」


 1人わちゃわちゃしているルドヴィクさんは置いといて─何故私がブラントさんの防波堤にならなければいけないのか。それが嘘でも期間限定だとしても、ブラントさんの恋人のフリなんてすれば……どれ程の敵を作ってしまうのか…想像するだけで恐ろしい。自分がどれ程ご令嬢達の視線を集めているのかを自覚して欲しい。そして何より、もうイケメンなんて御免被りたい。私がこの世界で望むのは平穏なんです。


「ブラントさんなら、リリの誘惑に惑わされる事もないと思うから、防波堤が無くても大丈夫じゃないですか?」


どんな女なのか知らないのなら別として、他人の婚約者を二度も奪ったような女を、ブラントさんが好きになる事はないだろう。


「なら、聖女擬きが俺に近付いて来るなら“想う相手は居る”と、ハッキリ伝えるだけだな」

「あ、好きな方?は居るんですね。それで良いと思います。それでもゴネるようなら、その時は……私も頑張ります」


田辺莉々が、深月千花(わたし)を見てどんな反応をするのか。

それに、ジョセリンさんの無実の罪も証明できたら良いけど。


と、色々考えていた私は、ブラントさんが笑っていて、ルドヴィクさんは顔を引き攣らせていて、イシュメルさんとジョセリンさんが困った様な顔をして私を見ていた事には、全く気付いていなかった。その事を、後々後悔する事になると言う事も、今はまだ知る由もない。







******


「リリ、どうしてそんな事をしたんだ?」

「私はただ、騎士の訓練を見たかっただけで…」

「今は他国からの王族が集まっていて、警備の観点から、予定外の城内の歩き回りは禁止されていると言われていただろう?」

「でも…マテウス様も出掛けていたでしょう?」

「私は、予定通り、朝の挨拶をしに行っていただけだ」


ここは、デストニア王国に充てがわれた客室。

そこでは、早朝から少し問題が起きていた。それは、チカ達が予想した通りの事で、聖女リリが、城付きの女官が静止するのも聞かず「私は聖女なのよ?その聖女の邪魔をするの?」と言って、無理矢理、騎士団の訓練場へと突入したのだ。

勿論、そこにはリリのお目当てであるブラント=カールストンの姿は無かった。


「リリ、聖女だからと言っても、して良い事と悪い事があるんだ。我儘を言っては…」

「我儘ではないわ!私はただ、これから浄化の旅に出るから、騎士がどんなものか…見たかっただけよ。」


なら、他国の騎士ではなく、自国の騎士を見れば良い─と言う言葉を、マテウスは呑み込んだ。

“聖女リリは純粋()()()子だから、何も考えず、ただただ騎士の訓練の様子が見たくなっただけなんだろう”と思っているからだ。


「リリ、知る事や知ろうとする事は、確かに悪い事ではないけど、時と場合と言うものがある。だから、何かしたい時は、先ずは私に言って欲しい。分かった?」

「分かったわ………」


と、マテウスが宥めると、聖女リリは素直に頷いた。





*リリ視点*



デストニア王国、王太子マテウスは、金髪緑眼のイケメン王子。聖女である私にピッタリの相手だと思っていたけど……あんなの、目じゃなかった。何より、年下と言うのが引っ掛かってはいた。それでも、マテウスは将来国王になるのだからと妥協していたけど…


ブラント=カールストン


彼を目にした時、「彼だ!」と思った。この国の国王ルドヴィクも良いけど、聖女である私にあんな態度をとった事は許さない。

明後日にはこの国を出て帰国する事になっているけど……


ー何とか理由をつけて滞在期間を伸ばして、ブラントを手に入れないとー


男は皆単純だ。涙を浮かべて微笑めば直ぐに騙される。航もマテウスも、本当に可愛らしいモノだった。先輩とジョセリンの顔も……面白いモノだった。


「さて、彼は一体、私にどんな顔を向けてくれるかしら?楽しみだわ」






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