30 国王への手紙
「何度見ても不思議だし、笑っちゃうよね……」
「何をですか?」
「わっ…あ、イシュメルさん!おかえりなさい。お疲れ様です」
「チカ様もお疲れ様でした。先程は顔色が悪かったですが、大丈夫ですか?何かありましたか?まさか、誰かに何かされましたか?顔を覚えていますか?覚えているならやってしまいましょう!私がサクッと──」
「ネッドさん、お疲れ様でした!」
弾丸トークが繰り広げられる前に声を掛けると、ネッドさんはやっぱりピタッと止まって、首を縦にブンブンと振った。今回はフラムが震える事はなかった。
「それで?何が不思議なんですか?」
不思議なモノと言うのは、国中で見かけるオールデン神の肖像画。肖像画と言っても、実際目にして描かれたモノではないから、想像画になるんだろうけど。オールデンさんは、金髪碧眼の中性的な顔立ちで描かれている。だけど、本当のオールデンさんは、髪も瞳も真っ黒(多分、お腹も真っ黒)。確かにイケメンではあるけど、中性的な顔ではなく、キリッとした男前な顔をしている。だから、オールデンさんの肖像画を見ると、想像されている容姿と本来の容姿とのギャップに、いつも笑ってしまいそうになる。
「実際のオールデンさんとは、かけ離れているなぁ…と思って。」
「お顔までは分かりませんが、オールデン神は“黒”ですからね…」
流石はイシュメルさん。オールデンさんが黒色という事は視えているみたいだ。
「はぁ───流石はチカ様!正当な聖女様はちゃんとオールデン神とお会いになっているんですね!黒色ですか!金髪碧眼とは真反対なんですね!あの聖女はオールデン神とちゃんと会っているんですかね?それも、あの女が聖女なのか擬きなのか判別する一つの鍵になるかもしれませんね?あ──」
「ネッドさん!あの聖女が“擬き”とは、どう言う事ですか!?」
ネッドさんの発言に驚いて、ネッドさんの手を握って質問すると、ネッドさんはビシッと固まり、それから暫くの間、動く事も喋る事もできなくなってしまったのでした。
『ネッド……良い子なのに、こんな子だったなんて………』
と、フラムが残念そうな顔をしていた。
何とか復帰したネッドさんから、聖女リリの話を聞く事ができた。
“器と聖女の力量が合っていない”
ーまさしくその通りだー
それともう1つ、疑惑が確信に変わった事については、また後にするとして……。
「ここまで来ると、色々と隠している事が難しくなって来ますね。」
「隠している事ですか?実は、ミズキ様が別人として、この世界に居ると言う事ですか?」
「それもあるけど────」
聖女リリと私が、元の世界での知り合いで、私の婚約者を寝取った事。
この世界にやって来て、嘘でジョセリンさんを蹴落とし、そのジョセリンさんを私が拾った事。
ジョセリンさんに関しては、ジョセリンさんの気持ちも確認しないといけないけど、ルドヴィクさんには言っておいた方が良いかもしれない。
「1つだけ確認したい事があるので、その確認が済んだ後、ネッドさんにお願いしたい事があるんですけど…良いですか?」
「はい!勿論です!!」
急いだ方が良いと思い、手紙の用意をお願いして、ジョセリンさん宛ての手紙を書いて飛ばしてもらった。
*ネッド視点*
「陛下、只今戻りました」
「ネッド、ご苦労様」
祝賀パーティーが終わり、部屋に下がる大神官イシュメル様を送り届けた後、チカ様と少しお話をしてお願い事をされて、国王陛下の執務室に戻って来た。
「この手紙を、大神官様から預かって来ました」
「手紙?」
本当はチカ様からだけど、本当の事はまだ言えない。言えないが……今日もチカ様とたくさん話ができた。名前も呼んでもらえた。名前を呼ばれると、どうしても嬉し過ぎて固まってしまうのだけど…。しかも、今日は手を握られた。近くに居るだけで、あの存在感に圧倒されてしまうのに、手を握られたりなんかすると…呼吸の仕方すら忘れてしまった。本当に尊い!あのクズ4人が居なければ…今でもミズキ様は聖女として王都の神殿で暮らしていたのかもしれないのに…。まぁ…今のチカ様も幸せそうにしているから良いのかもしれないが。兎に角、やっぱりあの4人は、軽くやっておいた方が良かったと、今でも後悔している。
第二王子は別宮で軟禁状態、ジュリアスとバーナードは地方に飛ばされ、フラヴィアは魔力を封じる枷を着けられ引き篭もっている。何とも優しい処分だ。まぁ、4人の聖女ミズキ様への仕打ちを平民も知っている為、平民達の4人への対応も、それなりに厳しいそうだが。それは自業自得だから仕方無い。
「ネッド、明日の早朝にでも、イシュメルを私の執務室に連れて来てもらえるか?」
「直接と言う事ですか?」
「あぁ。できるだけ人目を避けて、急いで話したい事があるそうだから」
「分かりました。それでは、イシュメル様にお伝えしておきます」
人目を避けてと言う事は、チカ様も一緒にと言う事だろう。と言う事は、明日もまたチカ様とお会いできると言う事だ。
ーまた明日も、名前を呼んでもらえるだろうか?ー




