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29 擬き

*ルドヴィク視点*



「とんだ聖女様だな……あれで、ミヅキと同じ世界から来た同じ年の女の子なのか?」


「陛下、言わせていただきますけど、ミヅキ様をあの聖女擬きと一緒にしないでいただけますか?ミヅキ様は召喚されて来た時点でそれはそれは圧倒的な力と存在感を持っていました。しかし、その圧倒的な力を自分のモノにしたのはミヅキ様自身の努力です。この世界の事を学びながら訓練をし、1年経った頃には、それはそれは歴代一を誇る聖女になっていました。えぇ、勿論ミヅキ様は無自覚でしたけど。それに、他人を馬鹿にしたりする事もありませんでしたし、他人に対して失礼な言動をした事もありません。ましてや、婚約者の居る男と恋仲になるなど……あの聖女擬きはマトモではありませんよ。1年もこの世界に居て、最低限のマナーでさえできておらず、他国の国王を名前呼び─からのお願いとか、それ、平民の子供でもしないと思いますよ?そんな女とミヅキ様を同じ聖女扱いしないでもらえますか?ミヅキ様が穢れるし減ります。」


「減るか!」


本当に、ネッドは相変わらずミヅキ信奉者だ。いや、最近、更に酷くなっていないだろうか?


「聖女()()とは、どう言う事だ?召喚されてやって来たと言うなら、聖女である事は間違いないんだろう?」


喩えどんな魔力持ちであろうと、魔道士が異世界から人間を召喚する事はできない。オールデン神が器を選び召喚されてやって来た異世界人が聖女なのだ。


「勿論、彼女は聖女です。ただ、器が聖女に合っていないんですよ。合っていない器に、無理矢理聖女の力を詰め込んだような感じなんです。だから、本当に聖女としての力を自分のモノにする為には、かなりの努力が必要になると思います。でも、この世界に来てから1年経つ割には…力が馴染んですらいない感じなんです。そりゃあ、1年前の状態を知りませんから、ひょっとすれば、マシにはなってるのかもしれませんが、今の彼女の態度を見る限りでは、ちゃんと訓練をしているとは思えませんから。だから、()()なんですよ。分かりますか?ミヅキ様と同じ扱いはしないで下さい!」


普段寡黙なくせに、ミヅキと関わる話になると、途端に饒舌かつ毒舌になるネッド。

ただ、魔力や魔法に関しての知識や、ネッドの持っている感覚は、魔道士団長よりも上だろう。


「器が合っていない……なるほど。ようやく、違和感が何か分かりました」

「イシュメルも、あの聖女に対して、何か思うところがあったのか?」

「……少し良いですか?」と、私はイシュメルと共にバルコニーへ出た。





「オールデン神の声が聞こえなかった?」

「はい。勿論、聖女が召喚されたのは我が国ではないので、聞こえなくてもおかしくないのかもしれませんが、それでも、デストニアからの知らせがあるまで、私は聖女が召喚された事を全く知らなかったんです。その間、オールデン神の声を一度も聞いていません。それは、今でもです。」


このイシュメル大神官は、大陸中の神官の中でも特にオールデン神に気に入られていると言われている。イシュメルが大神官となった時、オールデン神の祝福が現れ、それは1週間続いた。祝福が1週間続くと言う事はあまりない。だいたい3日程だ。それが平民であったイシュメルが、誰の反対も無く大神官に就く事ができた理由だった。そして、更に召喚されて来た聖女がこれまたご立派な聖女だった。ミヅキが浄化した土地は、今では作物が豊かに育ち質も良く、安定した収穫を保っている。それに、数年前迄は天候が荒れる日が続いたりもしていたが、酷く荒れる事もなくなった。

()()()()()()と、一部の老害貴族だった者達以外からすれば、ミヅキはオールデン神の次に、尊い存在として扱われている。


そんなイシュメルが、オールデン神の声を聞いていないと言うのは、確かに気になるところだ。


「ただ、聖女としての力は本当に持っているようだから、擬きだとしても、聖女は聖女なんだろう?」

「ネッドも言っていましたから、聖女は聖女なんだと思いますが、これからどうなるのかは、正直、分かりません。オールデン神の声が聞こえたら、また陛下にお伝えします。」


今は、それを待つしかない。気にはなっても、我が国の聖女ではないから、我が国がどうこうなる事もないだろう。

この来国を機に、明日は我が国の公爵夫人が王城で開くお茶会に参加して、明後日は観光して3日後に帰国すると言っていた。その間、何もなければ良いが……。


「問題は、明日の公爵夫人のお茶会か……」


本来なら、王妃や皇后と言った王族の女性がするものだが、残念ながら、今の王族には女性が居らず、公爵夫人に頼るしかなかった。あの夫人ならば、問題は無いと思うが、あの聖女がなぁ…。


「あの聖女をよく見ておくようにと…言っておいた方が良いな…」

「そうですね……」



やはり、我が国にとって、“聖女”は鬼門なのかもしれない。






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