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裏切られた聖女は、捨てられた悪役令嬢を拾いました。それが、何か?  作者: みん


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28 聖女リリ

『先輩、ごめんなさい。私、航さんとの子ができちゃったんです』



あの時言われた言葉を、今でもハッキリと覚えている。あの時、お腹に居た筈の子はどうなったのか。

妊娠している人が、聖女の器に相応しいのか?否。絶対に相応しいとは言えない。なら、考えられる事は2つ。

1つは、田辺さんは妊娠していなかった。もう1つは、田辺さんが聖女ではないと言う事。

どちらもと言う可能性もある。


その前に。田辺さんが、ジョセリンさんを“悪役令嬢”と呼び、嘘でジョセリンさんを国外追放にさせて、王太子の婚約者になった聖女って事だよね?航は…どうしたの!?あの王太子と婚約したって事は、この世界に残ると言う事だよね?


あまりにも謎が多くて、何から何をどうすれば良いのか分からない。


「チカさ──ん、少し良いですか?」

「はい!」


グルグルと思考の波に囚われかけた時、ネッドさんに声を掛けられた。


「大神官様がお呼びです」

「分かりました。ありがとうございます」


ネッドさんにお礼を言うと、私はイシュメルさんの所に向かった。





『少し控え室に下がります』


イシュメルさんは参列者の人達にそう言うと、副神官さんをホールに残したまま、私と2人で控え室へと戻って来た。


「大丈夫ですか?」

「え?」

「チカの纏っている色が、少し不安定だったので…」

「あ…」


イシュメルさんに視える色は凄いなと思いながら、私は、この世界に来る前の事と、さっき目にした隣国の聖女についての話をした。

すると、イシュメルさんは「分かりました。では、チカはこのままホールには戻らない方が良いでしょう。」と言われ、私はこのまま控え室で待機している事となった。






*イシュメル視点*


チカと別れ、ホールへと戻って来ると、国王陛下となったルドヴィク様に声を掛けられた。そのルドヴィク様の少し後方に居るネッドが『ミヅキ様が居ない!?どうされたのか!?大丈夫なんですか!?』と言う様な視線を私に向けている。傍から見れば無表情ではあるが、ネッドの纏っている色が不安気に揺らめいている事から、かなり動揺しているのが分かる。

取り敢えず『大丈夫ですよ』の意味を込めて微笑むと、ネッドに伝わったのか、ホッとして揺らめいていた色も落ち着きを取り戻していた。


「大神官イシュメル殿。先程……誰かと一緒ではありませんでしたか?」


と私に声を掛けて来たのは、ルドヴィク様ではなく、ブラント様だった。


「副神官ですか?」

「いや……そうではなく………いえ、気のせいかもしれません。失礼しました。」


ブラント様は軽く頭を下げた後、またルドヴィク様の後ろへと下がって行った。


「イシュメル、こちらが隣国デストニア王国の聖女様だそうだ。王太子マテウス殿の婚約者でもあるらしい」

「大神官イシュメル様、お久し振りです。こうしてまた大神官様に会えて嬉しいです」


ニコニコ笑顔なマテウス殿下は、3年程前に会った時と同じで、人好きのする爽やかな笑顔の王子だ。


「あの…初めまして。私、聖女のリリと言います。宜しくお願いします」


“リリ”と名乗った女性が、デストニア王国の聖女様。チカと同じ黒色を持っている。

ただ、やはり、何となくこの聖女様には違和感がある。


「初めまして、聖女様。私は、この国の大神官でイシュメルと言います。聖女として、これから大変でしょうが、お体に気を付けて頑張って下さい」

「ありがとうございます」


花が綻ぶ様な笑顔の聖女様。


話を聞いていなければ、チカから婚約者を奪い、ジョセリンさんから婚約者を奪った女性だとは思えない。


「ところで…ルドヴィク様の後ろに居る方々は、誰なんですか?」

「リリ!」

「…………」


聖女リリ様の発言に驚いたのは、王太子のマテウス様で、無言で微笑んでいるのは国王陛下。


まさか、この様な公の場で、他国の国王陛下を名前呼びするとは、誰が予想できたのか。質問も質問ですが……。


「聖女様は、異世界から召喚されて来て、まだ日も浅かったのだろうね………私の後ろに控えているのは、今日の私の護衛をしている者ですよ」


“この世界に慣れていないから、仕方無い”と国王陛下なりにフォローした形にしたのは、流石です。


「ここに来てから1年以上経ってますよ?学校にも行かせてもらいました。だから、後ろに居る人が、護衛と言うのも分かってます。名前が知りたいなと思っただけです」

「リリ!」

「そう……ですか………」


国王陛下がより一層笑みを深め、聖女様はポッと頬を赤らめていますが……国王陛下のこの笑みは、苛ついている時の笑顔ですからね?

聖女に対して憧れを抱いているネッドも、無表情のままで、心を動かされている様子はない。


「マテウス殿、残りの時間は、このパーティーを楽しんでくれ」

「あ…ありがとうございます」

「え?ちょっと……あの2人を─」

「リリ!あっちにケーキがあったから、一緒に食べよう!」


更に食い下がろうとした聖女様を、マテウス様が宥めるようにその場から連れ去って行った。







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