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2 プロローグ②

「先輩、ごめんなさい。私、航さんとの子ができちゃったんです」


「────は?」

「だから、私、今、妊娠7週目に入ったんです。航さんとの子なんです。だから………先輩とは結婚できないんです。」

「え?何で………」

「何で?と言われても……分かりませんか?()()()を、父無し子に…するつもりですか?」


と、田辺さんが自身のお腹を撫でる。


「航………いつ…から?」

「………半年前に………」


あぁ──半年前、デートの約束をしていたけど、私の残業が確定してキャンセルした事があった。けど、あの時の残業は……今、私の目の前に居る田辺さんが、どうしても残業できないからと言って、私が代わりに残業したんだ。


「その時は、ただ……予約していた店のキャンセルが勿体無いと思って…そうしたら、り──田辺さんが一緒に行ってくれると…………」

「…………」


それ以後、何度か食事に行き……酔った勢いと、寂しさから体を重ねるようになり………


“寂しさ”───


「寂しかったなら……言ってくれたら……」

「言えるわけないだろう?田辺さんから、毎日千花は忙しそうだし寂しそうでもなさそうだ─なんて言われたら………」


「何故、田辺さんに訊いて、私に訊かなかったの?私が……本当に、寂しがってないかどうかなんて……分からないでしょう!?」

「でも……俺も、時々見かける千花を見ても……そんな風には……他の奴等と楽しそうにしてるとしか………」


航に会えなくて…寂しくない訳がない。ただ、後数ヶ月頑張れば…我慢すれば、一緒に居られるからと……それだけで頑張れていただけだ。


「だって、先輩は……1人に慣れてるんですよね?だから、私が航さんをもらっても……問題無いですよね?私にも、この子にも、航さんが必要ですから」

「───っ!」

「俺は……生まれて来る子には罪がないから、この子の親として……向き合って行きたいと思ってる。だから、千花と結婚はできない。千花なら、分かってくれるよな?」


ー確かに、生まれて来る子に罪はない……けど、私にだって罪はないよね?ー


「申し訳無いけど、買ったマンションも、俺名義だから、千花を受け入れる事はできないから……お互い、引っ越し前で良かった」


何が“良かった”の?今、私が住んでいるマンションは、来週引っ越しする事が決まっていて、1ヶ月後には新しく入って来る人も決まっているから、私は何があっても1週間以内に出なければいけないのに。航も知ってるよね!?


それに、1人が慣れてる…平気なんて────


「航は……分かってくれてると…思ってたけど……」

「何言ってるんですか?航さんは十分理解してくれてますよ?私の事も、この子の事も……」


ニッコリ笑いながらも、私を見下している様な、勝ち誇ったような目をしている田辺さん。そこで、思い出したのは、田辺さんが入社して暫くした頃、私の彼氏だと航を紹介した時の事だ。



『うわー、先輩の彼氏イケメンですね!彼女(先輩)が居なかったら、私、ガンガンに行ってますよ!』



と、笑っていた彼女だった。



彼女の…計画通りだったのかもしれない。

何もかもが、最悪のタイミングだ。

家族を失い、彼氏を失い、住む所も失ってしまう。


また、1人になる─────




「本当に………最低ね………好きにすれば良いわ。わた……小武さん、田辺さん、取り敢えず…私が辞める迄、この事は秘密にしておいて下さい。それだけが、私からのお願いです」

「千花…………」

「もう……名前で呼ばないで下さい。それじゃあ、私は先に帰ります。残りは…2人でどうぞ」


「先輩、ありがとうございます」

「ち─深月さ───」


パタン


お礼を言う田辺さんと、私の名を呼ぶ航の事は無視して、私はその個室から出てドアを閉めて……深呼吸をしてから歩き出した。





店を出て歩き出すと、ポツポツと雨が降って来た。


「本当に……最悪だ…………」


期待はしていなかったけど、航が私を追いかけて来る事はなかった。追いかけて来られても困るけど。


私に寄り添ってくれていた航は…どこにいってしまったんだろう?寂しくて浮気をして良いなら、私なんて浮気し放題なんじゃないんだろうか?


でも、今はショックよりも、来週からどうするかが最大の問題だよね…。引っ越しはキャンセル。今から帰って直ぐに、最低必要限の物だけ纏めて、大きい物は何処かに預けるか処分するか……。


「………」


ほんの数時間前迄は、明るい未来を描けていたのに。


「もう、いっその事……全部捨てられたら良いのに。捨てて……また新しい世界を生きて行ければ良いのに………」


もし、それができたら…私は─────





『──ならば、全てを捨てて、()()()()で、新たな路を進んでみるか?』


「ん?」


どこからともなく声がする─と言うか……声が頭の中に響く感じだ。辺りを見回しても誰も居ない。雨がポツポツと降っている音だけだ。


ー気のせい…かな?ー


と、雨の中あるき出そうとしたところで、足元から光が溢れ出した。






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