19 充実した日々
初めて知った事実。
ジェナさんは、城付きの騎士ではなく、神殿付きの騎士─聖騎士だった。つまり、ジェナさんの主は大神官であるイシュメルさんと言う事だ。
「魔道士のネッドも、最後にミヅキに挨拶がしたかったと言ってました」
魔道士ネッドさんは、王太子ルドヴィクさんが選んだ人で、他の4人は国王が選んだ人達だった。
「ネッドなんて、未だに聖女ミヅキに対しては崇拝レベルの憧れ?敬意を持ってますからね」
ーあの無表情なネッドさんが?ー
ネッドさんとは、あまり会話をした記憶がないけど、あの宴の時、あの席に居たけど、ネッドさんが何かを言う事はなかった。ただただ黙って聞いていただけだった。無表情で。
「ネッドは、キレればキレる程無表情になるんですよ」
「なるほど…」
ーそう言う事なら、また…いつか、ネッドさんにも会っても良いかも?ー
「─と言うか、フラヴィアは別として、魔道士達にとって、聖女ミヅキは憧れの的でしたけどね。それと、旅の同行メンバーがクズ過ぎただけなんですよね……何度やってしまおうか?と思った事か……」
「ジェナさん……」
ジェナさんとアイルとフラムの思考、似てない?あ、だから、アイルとフラムは……ジェナさんの周りをよく飛び回っていたのかもしれない。実際やってしまうのは遠慮して欲しいけど、私の為にそこまで怒ってくれるのは……正直に嬉しい事だ。
「後は…ジュリアスの事は……」
「…………」
『私は……ミヅキとは、旅が終わった後も、一緒に居たいと思っているんだ。だから……今すぐにとは言わないから、少し、私との事を考えてみて欲しい』
あの言葉が本気だったのか、嘘だったのか─それは、正直、もうどうでもいい事だ。
「ジュリアスさんの事は、もういいんです。これから先、もう会う事もないだろうし、私がジュリアスさんに気持ちが動くと言う事もありませんから」
「そうですね……」と、ジェナさんが呟いた後は、3人で夜遅く迄会話に花を咲かせた。
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私がアルスティア領にやって来てから、そろそろ1年。そして、即位式が行われる迄1ヶ月。
王都では少しずつ他国からの旅行客や商人が増え、いつもより賑わっているらしい。アルスティアも例外ではなく、いつもより人が多いようで、パン屋をしているメイジーさんも毎日忙しそうにしている。
「お手伝いできる事、ありますか?」と訊けば、「昼時の忙しい時間帯だけで良いから手伝って欲しい」と言われ、お昼の3時間程メイジーさんのパン屋さんでバイトをする事になった。
「チカ、計算が得意なのね!?神だわ!!」
と、主にお会計を任されている。
もともと暗算が得意だったから、お会計をするのも楽しいし、何より、働くと言う事が楽しい。働かなくてもお金に困る事はないけど…やっぱり働いていないと、どうにも落ち着かなかったりもする。
“働かざる者、食うべからず”
「本当に、その通りだよね………」
「ん?チカ、何か言った?」
「あ、いえ、独り言です」
「そう?あ、そろそろ上がる時間ね。今日はチカの好きなナッツたっぷりのベーグルを用意してあるから、食べて帰ってね」
「メイジーさん、ありがとうございます!」
バイト料以外に、いつもランチ用に色んなパンを用意してくれるメイジーさん。それを、いつもバイト上がりにエステルちゃんと食べる─それが私のルーティンとなっている。
本当に、毎日が充実して楽しい今日この頃です。
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(?????????)
「ジョセリン、君がそんな事をする愚か者だとは…思わなかった」
「私は何もしていません……」
「これだけの証拠があるのにも関わらず、己自身の罪を認めないのか?」
「ですから、その証拠自体が作り上げられた物なんです。ちゃんと調べ直していただければ──」
「もういい、黙ってくれ!」
「──っ!!」
大声を上げられたその令嬢は、震える体を気付かれないように力を入れて立っている。
「この事を、父に───」
「その必要はないし、もう既に君には名乗るべき家名も無い」
「家名が……無い?」
「そうだ。君がこれまでにしでかした事は、既に私から公爵には伝えてある。その上で、公爵は君を切り捨てた。相手が相手だけに、公爵も君を庇いきれないと思ったんだろう。公爵は娘よりも家を取った─と言う事だ」
「そんな………私は……本当に…何も…………」
「素直に罪を認めて謝罪すれば、修道院送りで済んだものを……こうなったなら仕方無い。国外追放となる。連れて行け!今すぐに!」
「なっ!?殿下!!」
その令嬢の言葉を聞く者は誰一人居らず、その令嬢はその場に待機していた2人の騎士に引き摺られるようにして、その部屋から連れ出されて行った。
その令嬢に冷たい視線を送っていた“殿下”と呼ばれた男性の横には、涙をハラハラと流している女性が居た。
「もう、これで大丈夫だから、安心して欲しい」
その男性が、その女性に微笑めば、その女性は「ありがとうございます」と言って、女性もまた微笑んだ。
 




