16 オールデン神の祝福
*祝賀パレード当日*
今日は雲一つない晴天。
確か、パレードはお昼前の午前中に始まる予定だった筈。王城から王都内にある神殿まで、馬車と馬でゆっくり移動して、神殿で浄化の旅を終えた事の報告と、無事に帰還したお礼をするとかしないとか…だったかな?勿論、そこにはイシュメルさんが居る。
“オールデン神の祝福”が現れるとしたら、その神殿で報告云々をした後かな?
ここは王都から離れた辺境地だけど、この領でもお祭りが行われている。
「チカお姉ちゃん、これ食べた事ある?これね、ここで1番おいしいの!」
と言って、私の左手をギュッと握ってニコニコ笑ってお勧めを教えてくれているのは、エステルちゃん10歳。
“チカお姉ちゃん”
私は、本来の姿に戻ると当時に、“ミヅキ”から“チカ”へと呼び名を変えた。
深月も千花も名前みたいな響きだから違和感もないし、聖女ミズキの名前が深月千花と言う事を知っているのは、オールデンさんだけだ。
エステルちゃんは本当に可愛い。メイジーさんも旦那さんのアランさんも可愛い系の顔をしている。
そして、夫婦でパン屋さんをしていて、今日のお祭りには露店でパンを売っているらしい。まだ一度しか食べた事はないけど、食べたクロワッサンはとても美味しかった。
今日は、お祭りで忙しそうだったから、「良かったら、エステルちゃんにお祭りを案内してもらえないかな?と思って」と訊けば、エステルちゃんは笑顔で了承してくれて、メイジーさん達からはお礼を言われた。きっと、親としては、メイジーと一緒にお祭りを楽しみたったんだろう。
兎に角、今日はメイジーさん達の分まで、エステルちゃんといっぱい楽しむ予定だ。
ちなみに──なんと、私、それなりのお金持ちなんです。
イシュメルさんが用意してくれていた物の中に、この世界でのお金もあった。なんでも、この世界に召喚されてから“聖女手当て”なるモノが、毎月国と神殿から支給されていて、更に、浄化の旅に対する“特別手当て”や浄化の旅が無事に終わった事と感謝?の気持ちの“報奨金”なるモノが支給されていたそうで──
『無駄遣いをしなければ、一生働かなくても暮らしてはいけます』
と言う手紙と共に、大きな袋に沢山のお金が入っていた。
この世界でのお金についても、ちゃんと勉強したし、物価についても何となくではあるけど把握している。だから、あんな大金……管理するのも恐ろしい!と思っていると、フラムが『私が預かってあげるわ!』と、異空間ポケットで保管してくれる事になった。何とも便利な空間だ。そこに入れると、入れた時の状態のままで保管されるそうで、フラムはよく、大好きなお菓子を入れたりしている。
そんなわけで、私も気兼ねなく自分のお金でお祭りを楽しむ事ができている。可愛いエステルちゃんには、色々買ってあげたくもなっていて、“親馬鹿”や“伯母馬鹿”の人の気持ちがよく分かる、今日この頃な私です。
*王都にて*
今日のパレードは、王城の広場から始まる。
予定時間に現れたのは、浄化メンバーの6人。勿論、そこに黒色を持つ者は居ない。6人が姿を現した瞬間歓声が上がったが、それは直ぐにざわめきへと変わった。すると、その6人の後ろから国王が姿を現した為、そのざわめきも小さくなった。
「皆の者に報告がある。見て気付いただろうが、この場に聖女は居ない」
その言葉に、集まった民衆達がまた騒ぎ出す。
何故?───
「聖女はこの国を浄化し救ってくれた直後、自身の国に還られたのだ。“礼は要らぬ”と言って、王都にも戻らず、私達にも前以て知らせず、何も言わずに還ってしまったのだ」
嘘と本当を混ぜて語ると、真実味を帯びる。
「お礼を言う事ができなかったのは残念な事だが……ここに居る6人もまた、その旅の功労者達だ。皆の者には、彼らを労い、祝ってやってもらいたい」
国王がそう言い切ると、パラパラと始まった拍手が最終的には拍手喝采となり、集まった民衆は再び歓声を上げた。
「「…………」」
そんな様子を広場の影から見つめるのは──
「兄上は、口だけは達者だな」
「アレだけで国王を務めているようなモノでしょう」
王弟のブラントと王太子のルドヴィク。
「このまま、無事にパレードが終わると思うか?」
「…どうでしょうね?終わって欲しくないですけどね」
「ははっ…素直過ぎるな」
「無事に終わったところで、そのまま終わらせるつもりはありませんけどね」
ルドヴィクがそう呟くと、ブラントは目を細めて笑った。
*再び、アルスティア領にて*
「エステルちゃん、そろそろランチにしよっか?私、メイジーさんのパンが食べたいんだけど…良いかなぁ?」
「うん!私もパパとママのパンが食べたい!」
2人手を繋いで、メイジーさんが店を出している場所へ向かおうとした時─
「アレ見て!アレ、“オールデン神の祝福”じゃない!?」
と、誰かが空を指差しながら声を上げ、空を見上げると
「……オーロラ??」
空には七色のオーロラが光り輝いていた。




