13 潮時
*引き続き、王太子ルドヴィク視点です*
「宴の席で、そんな話をしていたとは……」
「…………」
呆れて物が言えないとは、正にこの事だろう。
無事に浄化の旅が終わり、その祝と労いを兼ねた宴の席で、共に旅をした仲間を侮辱するような話をするとは…。しかも、それをミヅキに聞かれていたとか──
「お前達は、聖女ミヅキに国を救ってもらったと言う感謝の気持ちすら無いのだな。魔力を持ち合わせていないと言うだけで無能呼ばわりの上にデメリット扱い。私は、お前が私の弟である事が恥ずかしい。」
「ですが!兄上もご存知でしょう?父上もミヅキの事を無能だと────」
「黙れ!ミリウス!お前には自分で考えると言う脳は無いのか?父上─国王が白を黒と言えば黒だと、死ねと言えば死ぬんだな?」
確かに父上は腐っても老害であっても“国王”だ。その国王が右だと言えば、それが右になるし、死ねと言われれば死ぬしかないかもしれないが、それを諌めるのが、我々王族の務めではないだろうか?
「それは───っ」
「グリシャ……」
「はい。申し上げます。ミヅキの聖女としての能力は、歴代一を誇ります。今回の旅で多少の怪我人は出ましたが、死者は出ていません。それは、今回初めての事です。過去の浄化の旅では、数名は命を落としていたと記録されています。そもそも、ミヅキ自身が魔除けの様な存在だったので、魔物や魔族が寄り付かなかったと言う事もあったと思います。それから推測すると……聖女の能力は素晴らしいモノであったのと、オールデン神からの加護もあったのでは─と。」
ー何とも恐ろしい推測だろうかー
いや、多分……そうなんだろう。
「1年も一緒に訓練をして、1年以上一緒に旅をしていたと言うのに…お前達はミヅキの事をちゃんと見てはいなかったんだな。最初から最後迄……見下していたんだな…」
「それは違います!私は、常にミヅキと一緒に居ました!見下すなんて───」
「どの口がほざいている?」
それは違う!と叫んだのはフラヴィア。
コイツは─とため息を吐きそうになった時、酷く低い声を出したのは叔父上だった。
叔父上は基本、私や父上以外の前では紳士的な態度しかとらない。常に冷静でスマートで……そんな叔父上から、驚く程低い声が出た。
「ブラント様?」
そんな叔父上の様子にフラヴィアも驚いている。
「何が“違う”のか聞きたいものだな。私達が何も知らないと思っているなら……私達も舐められたものだな」
「何…を………」
「お前が、ミヅキに嫌がらせをさせたり、“聖女は魔力が無い無能だ”と吹聴している張本人だと言う事は、ルドヴィクと私は把握済みだ。知らないのは、兄上─国王とミリウスぐらいか?それでも、今迄お前を罰しなかったのは、ミヅキ本人がお前がそうだと知らなかった事と、仕返しなどを希望しなかったからだ。それが、オールデン神自らが選んだ聖女ミヅキの意思だったからだ。お前は……ある意味、虐めていたミヅキに助けられていたんだよ」
叔父上の言う通りだ。ミヅキがそう希望したから、私達も敢えて、見て見ぬふりをした。
「だが………それも、計算のうちだったのかもしれないがな…」
それも、叔父上の言う通りだろう。ミヅキは、これ以上、この国、この王家に縛られる事を避けたかったんだろう。自分が無能だと思われている方が、私達と距離を置けるだろうし、切り捨てられるから。
ミヅキもまた、私達やメンバーの事を信頼していなかったのかもしれない。否。信頼できるような相手が居なかった。
「それで?ずっと黙っているつもりか?ジュリアス」
「っ!」
ジュリアスは第二騎士団所属の近衛騎士で、ゆくゆくは王太子の側近に─と考えていた者の1人だった。
「丁度良い相手として選ばれて、うまく取り入って…楽しかったか?」
「ちがっ──私は本当に………」
「“本気だった”とでも言うつもりか?ミリウスが言った事を否定すらしていないのに?もしそうなら、お前のその口は、飾りなんだろうな。あぁ、私に言い訳する必要はないからな。言い訳をするのも謝罪する相手も、私ではなくミヅキなのだから」
ーとんだ拗らせか?馬鹿らしいー
「バーナードにも失望したよ。一体お前は、聖女ミヅキをどんな目で見ていたのか…見下すにもほどがある。騎士の精神に反するのではないか?そんな者が第一騎士団に所属しているとはな…団長に相談しておこう」
「そんな────っ!」
結局、聖女ミヅキをちゃんと見ていたのは、大神官が付けたジェナと、私が付けたネッドだけで、父上が付けた者達は、ミヅキを聖女とすら見ていなかった。
ー父上も…そろそろ潮時か?ー
報告によると、聖女ミヅキの働きに、国民はかなり喜んでいると言う。そんな、浄化の旅に出たメンバーを中心に行われる1週間後の祝賀パレードに、主役である聖女ミヅキの姿だけが無かったら……国民はどう思うだろうか?
きっと、父上は詭弁を弄してミヅキは元の世界に還ってしまった─とでも言うだろう。
ーそれで、終わらせるものか!ー
「バーナード、ジュリアス、フラヴィアは、それぞれ私が許可を出す迄は離れの塔に入ってもらう。ミリウス、お前は自室から一歩も出るな」
「そんな……」
悲嘆に暮れる4人は丸っと無視して、「叔父上、相談があります」と叔父上に声を掛けると、「待ってました」と言わんばかりの微笑みを向けられた。




