10 王太子ルドヴィク
聖女ミヅキ──
彼女は、もともと王太子である私─ルドヴィク─の妃になる予定だった。
「此度の聖女は、聖女の能力だけで、魔力を持ち合わせていない無能だそうだ。そんな聖女を、ルドヴィクの妃にさせる訳にはいかん。よって、旅に同行するのはお前ではなく、ミリウスにする事にした」
「承知しました」
素直に返事をすると「下がって良い」と言われ、私はそのまま父の部屋を後にした。
ー本当に胸くそ悪い人間だー
聖女はオールデン神自らが選び、この世界に召喚されて来た者だ。無理矢理ではないらしいが、この世界を綺麗に……救ってくれる為に来てくれる、有り難い存在だ。それを、過去の聖女と比べて魔力が無いと言うだけで“無能”呼ばわりするとは………
先程、廊下で会った大神官が少し怒っていたように見えたのは……きっと、父が聖女ミヅキに対して、何か失礼な事を言ったのだろう。
「……老害だな……………」
あの傲慢過ぎる考えに嫌気が差す。
取り敢えず、父があの態度であれば、同行メンバーにも気を付けておいた方が良いかもしれない。
「ミリウスか………」
ーアレは単純馬鹿だからなぁー
はぁ……とため息を吐く。
「どうした?そんな大きなため息を吐いて」
「え?あ……叔父上………」
父の弟─ブラント=カールストン公爵。
『俺は面倒事が嫌いだし、王にも向いていないと思う。玉座にも全く興味がない』
と言って、成人を迎えて直ぐに王位継承権を放棄した王弟。寧ろ、父よりも王に向いていたのは、この叔父上の方だと思う。
ーまぁ…女性関係に明るい事を除けば…だがー
取り敢えず、その場で叔父上には、聖女に魔力の持ち合わせが無い事、相手がミリウスになった事、父が聖女を見下している事、それと、おそらく大神官が怒っている事を相談しておいた。
******
ーこうなるとは思ってもいなかったなぁー
あれから、色んな予想外の事が起こっていた。
聖女ミヅキ─
彼女の聖女としての能力は、歴代一のレベルと言う事。これには、魔道士団長が驚いていた。あの、いつも冷静な魔道士団長が、饒舌にミヅキの事を語り褒めていたのだから、余程凄い事なんだろう。
『ミヅキ様は、おそらくですが、妖精と契約を結んでいるようです。ただし、この事は、ルドヴィク様だけに留めておいて下さい』
大神官に言われ、父である国王にも言ってはいない。言えばミヅキがどうなるのか──
妖精─それは、滅多に姿を現す事のない者達。“神の遣い”とも言われている。姿を見られただけでも幸運とされている存在なのに、その妖精と契約を結んでいるとなると……ミヅキはオールデン神のお気に入りと言えるのかもしれない。
ただ、そのミヅキ本人が………本当に、ごくごく普通の18歳の女の子なのだ。謙虚過ぎる程に。自己評価も低いせいか、おとなしくて控え目な彼女は、何かと色々……されているようだった。
ミヅキだけ、お茶の集まりの時間を間違って伝えられる
ミヅキだけ、訓練の予定を知らされていない
ミヅキだけ、訓練に使う物が渡されていない
“ミヅキには、魔力の持ち合わせが無い”から、“今回の聖女は無能だ”
と、陰ではミヅキの事をそう言っている者がいる。そのせいで、それを鵜呑みにした者が、嫌がらせをしているのだ。とは言え、相手は聖女。小さい嫌がらせの寄せ集め程度で、大きく出て来る事はない。
『時々、1人でキレているけどな』
と言って笑っていたのは叔父上。叔父上も、あんな風に笑うのかと思った。
『ミヅキ自身、仕返しは考えてなさそうだ』
何かされていると気付いていて、時々1人でキレているらしいが、仕返しをするつもりはないと言う。何とも変わった思考の持ち主だ。生きて来た世界が違うからなのか?兎に角、本人が何も望んでいないのなら、私としても……動かない方が良い……のか?
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7人が浄化の旅に出たのは、ミヅキが召喚されてから1年程経ってからだった。
毎日必ず、魔道士のネッドから報告が飛んで来た。その報告では、“浄化の威力が半端無い!”と、文字からして興奮しているのが分かる程だった。ある意味、魔道士の中では聖女ミヅキは憧れの的の様な存在となっていた。
ーあの女魔道士を除いてー
同行メンバーである女魔道士フラヴィア。
仲間でありながら、聖女ミヅキを無能と見下している1人だ。旅の間、何も起こらなければ良いが──
そして、聖女ミヅキの活躍で、浄化の旅が予定よりも早く終わり、いよいよ帰って来る事になったのだが─
『申し訳ありません。私は王城で皆様をお迎えする事ができなくなりました』
と、ミヅキ達の出迎えができなくなったと、大神官から連絡があった。神殿で何かあったのか…仕方無いと、私が転移魔法陣の前で待っていると、「大神官の代わりだ」と言って、叔父上がやって来た。
叔父上は、普段こう言う面倒臭い事はしないのに珍しいなぁ─と思っていると、目の前の魔法陣が光だし、暫くするとミリウスとジュリアスとバーナードとネッドが現れた。
「お疲れ様」と声をかけると、ミリウスとジュリアスとバーナードは「ありがとうございます」と口にしたが、ネッドだけは無言で……何かに怒っているようだった。
そのネッドを見ていると、再び魔法陣が光だし、そこに、フラヴィアとジェナとミヅキが現れる─筈だった。
「「「「「「え?」」」」」」
驚きの声を上げたのは、私と叔父上とミリウスとジュリアスとバーナードとフラヴィア。
「ミヅキは……どうした?」
そこに、ミヅキの姿だけがなかった。




