第98話 スペル・リンク・フェス
品川ダンジョン前の会場には、多くの人が詰めかけていた。
彼らの目当てはもちろん、デュームの主催する〈スペルカード〉の大会、『スペル・リンク・フェス』をみんなで見ることだ。
当然、C・エクスプローラーのメンバーも会場入りしていた。
榛名、真莉、天音、美波はすでにダンジョン前でスタンバイしている。
「火力重視のダンジョンですか」
天音が大会概要の資料を見ながら言った。
「うん。悟さんによると、品川ダンジョンは大会に参加するどのチームも今季は入ってないんだってー」
「公平性は担保されるというわけですね」
「火力重視なら、デュームの隊列と統率力を活かせるかもな」
榛名が自分の銃を手入れしながら言った。
「考えましたね。不正の可能性はないのでしょうか?」
「このダンジョンはすでに他のグループによって、全容が解明されていて、アイテムの位置も決まってるんだとさ」
「なるほど。それならダンジョン内に細工を仕掛けてもすぐにバレますね」
そうして、四人が大会概要を見ながら話していると悟がこよみと灯華を引き連れてやってきた。
「あっ、おせーぞ悟」
「ごめんごめん。ちょっと蒼井さんの会場入り手続きをしてたら遅れちゃって」
「すみません。遅れました」
荷物を背負った灯華が、ペコリと頭を下げる。
「その方が新しくアシスタントになられるという方ですか?」
「ああ。蒼井灯華さんだ。主にダンジョン外でのことでサポートしてもらうつもりだ」
「よろしくねー。灯華さん」
「どうも」
真莉が愛想よく笑顔を振り撒くと、灯華は軽く頭を下げた。
(ちょっと人見知りな子なのかな?)
そうして悟が灯華をみんなに紹介していると、見覚えのある集団が近づいてくる。
「よく来たな榛名」
如月彗だった。いつものように大名行列を後ろに従えていたが、その統率力にはかつてのような一体感はなく翳りが見えた。
人数が減っているのもあるが、メンバーの忠誠心が下がっているのもあるだろう。
如月の求心力が低下している様子がそこかしこに見られる。
「逃げずに来たことだけは褒めてやるぞ」
「如月パイセンちーっす」
美波がピースしながら言った。
「美波か」
彗は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「今日はシーエクサイドで参加させていただくんでよろっす」
(くっ。相変わらず立ち回りの巧妙な奴だな)
この場で如月の口からシーエク側での参加を認めてもらい、ちゃっかり脱退したことを許してもらおうという魂胆が透けて見えた。
「まあいい。今日は大会を通して〈スペルカード〉の重要性を広めるのが目的だ。せめて大会の名を貶めるようなことだけはするなよ?」
「うぃーっす」
「それはそうと如月さん。ずっと聞きたかったんだけど」
榛名が何気なく話しかける。
「ん? なんだ?」
「普通の壊滅と一時的な壊滅ってどう違うんすか?(セマユキ風捲し立て口調)」
「なっ、おまっ、あれはちがっ……」
「一時的な壊滅とか言ってる奴。弱いって。厳しいって。危機感持った方がいいよー(如月の口調真似)」
「うるせーよ!」
「あはっ。榛名、今の口真似、似てるー。ショート動画として美味しいよ」
さりげなくスマホで撮影していた真莉が、面白がって言った。
「如月さんのキレ芸もなかなかキマってましたよー」
「ぐっ、貴様ら……」
「榛名、真莉。悪ノリはその辺でおよしなさい」
天音が二人の前に手をかざして制した。
「如月さん、遅きに失したとはいえ〈スペルカード〉を解禁したのは英断だったと思います。しかし、私はまだあなたのデュームのリーダーとしての資質に疑問を持っています。この大会のせいでこれまで悟さんと私達が広めてきた〈スペルカード〉の有用性と評判に傷が付くようなことがあってはなりません」
「……」
「この大会を通して、あなたのリーダーとしての資質を見極めさせていただきます。不首尾や不正などがあれば、私はあなたのことを許しませんよ」
「ふん。そのことについては問題ない。ウチの最も信頼のおけるメンバー、桐沼に万事任せてある」
悟と灯華はチラリと目配せしあった。
「如月、大会への招待感謝するよ。今日は正々堂々と競い合おう。君が不正なんかするはずないってそう信じてるよ」
悟が握手の手を差し出すと、彗は少し躊躇いながらも握り返してきた。




