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【コミカライズ開始!】追放されたダンジョン配信者、《マッピング》スキルで最強パーティーを目指します  作者: 瀬戸夏樹


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第95話 疑念と圧力

「突然の〈スペルカード〉大会の申し出に困惑しているグループも多いだろう。だが、これは重要なことなので各グループはよく聞いて欲しい」


 パソコン画面からは事務所で撮影していると(おぼ)しき彗が喋っていた。


 〈スペルカード〉大会について説明する配信だ。


「すでに見知っている者もいるだろうが、デュームのリーダーであるこの私、如月彗がネット番組で〈スペルカード〉に関する警告をしたにもかかわらず、被害を報告する事例が後を絶たない。例えば……」


 彗はスマートフォンを取り出して画面に映ったものを読み上げ始める。


「『高い金を払って〈スペルカード〉を購入したのに偽物をつかまされた』『〈スペルカード〉を購入したのに使い方が分からず、無駄に消費してしまった』『〈スペルカード〉を大量に購入したせいで破産した』などなど少し検索しただけで〈スペルカード〉の被害に遭った事例は山ほど出てくる。特に昨今は〈スペルカード〉の高騰を受けて、誤った言説や使い方が横行している。更にはこの煽りを受けて、誤った情報商材を売ったり、誤った解説動画がバズったりして事態は混迷を極めている。挙げ句の果てには、取るに足りない小規模グループまで、まるで自分たちが〈スペルカード〉の専門家であるかのように振る舞い始める始末。まったく由々しき事態だ。我々デュームはこの事態を打開すべく立ち上がることにした。〈スペルカード〉の大会を開いてどのグループの言い分が正しいかハッキリさせようではないか」


 彗は一息置いてから画面の方を見る。


「特にシーエクの奴ら。お前らは絶対参加しろよ。聞くところによれば、たかが今季のダンジョンの一つや二つ攻略したくらいで〈スペルカード〉のスペシャリストであるかのように振る舞っているようだな。貴様らのような小規模グループがデュームと同等を名乗るなど片腹痛い。だが、そこまで言うならいいだろう。貴様らも特別に大会に招待してやる。我々デュームに匹敵すると謳っている〈スペルカード〉の運用技術がどれほどのものか見せてもらおうじゃないか。胸を貸してやるから、正々堂々と……」


「誰がアンタらと同等よ!」


 真莉は最後まで聞かずに机をバンッと叩いた。


 ここはD・ハウスの会議室。


 シーエクのメンバーは全員揃って彗の公開した大会予告配信を見ていた。


「スペカ(スペルカードの略語)について間違った言説垂れ流してんのあんたらの方でしょーが! あんだけ〈スペルカード〉規制すべきとかほざいてた癖に、何今さら識者ヅラしてんのよコイツはぁ」


 真莉はパソコン画面をガッと掴んでガタガタ言わせた。


 真莉は怒ると物に当たる傾向があった。


「アンタが導入する前から、こっちはとっくの昔に〈スペルカード〉使ってたっつーの。昨日今日でスペカ使い始めた奴が大会開くとか100万年早いわよ」


「100万年は流石に言い過ぎですよ真莉」


「ちょっと榛名! アンタ何笑ってんの」


「いや、如月の奴、なかなかおもろいことするやん」


「はぁ!?」


 悟は手元にある資料に目を落とす。


「残念ですね。せっかく企画を練っていたのに」


 天音が(おもんばか)るように言った。


「ああ。先を越されてしまった。この企画はお蔵入りだな」


 悟は資料をぱさりと机に投げ出した。


 そこには『〈スペルカード〉を使った配信大会の企画と運営』と書かれている。


「で、どうすんの?」


 美波がうんざりしたように言った。


 内心、もうデュームには関わりたくない様子だった。


「別にいいじゃん。面白そうだから、挑戦受けてやろうぜ」


「ハァ? あんたバッカじゃないの?」


「挑発されたのに逃げるのも格好つかないって」


「悟さん、こんなの取り合う必要ありませんよ」


「真莉の言う通りです。取り合う必要なんてありません」


 天音が厳しい調子で言った。


「デュームがあれだけ無駄な犠牲者を出したのは体制上の問題です。〈スペルカード〉の導入が遅れたのは、如月さん主導のワンマンな体質にあるわけですから、トップの首をすげ替えるなり、組織体制を変えるなりしないと何の解決にもなりません。こんな大会を開いて、〈スペルカード〉を使いこなしたように見せてもただの一時しのぎです。組織を抜本的に変えないと、ダンジョンのアップデートが起こる度にまた同じような犠牲者を出すだけですよ。私達が大会に参加しても、デュームの腐敗をさらに助長するだけです。取り合う必要なんてありません」


 天音の底冷えするような声色に会議室はシーンとなる。


 ぐうの音も出ない正論に一同神妙な顔つきになって俯くしかなかった。


(すまん如月。なんも言い返せんかったわ)


 榛名は心の中で呟いた。


「いや、よく言った天音。まったく君の言う通りだよ。だが、ある意味ではおいしいと言える」


「悟さん!?」


「どういうことですか?」


「僕らが〈スペルカード〉大会を開いた場合、どうしてもネックになるのが、グループが小規模なことだ。ウチだけで参加者集めから会場設営の手配、大会の運営まですべてこなすとなると費用・労力の面で相当な負担になる。だが、その点デュームは最大規模のグループ。彼らが呼びかけるとなれば、他の大手配信グループも参加に前向きになってくれるから大会も盛り上がるし、何より運営コストを負担してくれるのであればこちらの費用が浮くことになる」


(悟。やっぱり柔らかいな)


 美波は感心した。


「デュームの資金力と規模を利用して企画を成立させるってわけか」


「あはっ。確かに言われてみればそうかも。さっすが悟さん」


「悟、君ってばやっぱ柔らかいねー」


「相互補完になるというわけですか」


「そういうこと」


「なるほど。企画として妙味があるのは分かりました。しかし、デュームの大会運営能力には疑問が残ります。これまで〈スペルカード〉を扱ってこなかったデュームが果たしてスペカを使った大会の運営などできるのでしょうか? というかそもそもスペカを調達できるのでしょうか。今、さらに高騰してますよね?」


 〈スペルカード〉の価格はすでに15万円になっていた。


「そうだね。そこんところは突っついて釘を刺しておこうか」


「突っつく?」


「何か策でもあんの?」


 榛名が食い付いてくる。


「公の場で圧力をかける。如月とデュームの大会運営能力に疑問を呈して、如月の自尊心を刺激する。大会の透明性や〈スペルカード〉の運用について問い正せば、見栄っ張りな彼のことだから躍起になって大会をつつがなく運営しようと尽力するはずだ。恥ずかしいところを見せてなるものかってね。〈スペルカード〉の運用についてウチの方に一日の長があるのはすでに周知の事実。僕らが公の場で如月の能力に疑問を呈せば、みんなの同意を得られると共に、注目を集められるはずだ。特に如月の資質に疑義が向けられている今であればなおさら」


「なるほど。みんなに監視を手伝ってもらうってわけか」


「これだけ大々的に宣言した以上、如月さんとしても逃げるわけにはいきませんしね」


「ああ。あとは相手の出方次第ってわけ」


 悟はC・エクスプローラーのアカウントを通してデュームに返信した。


「これまで〈スペルカード〉を運用してこなかったデュームに大会が運営できるのか? 疑わしい限りである。演者を危険に晒すような大会に大切なウチの配信者を出すわけにはいかない。まずは大会の概要やルール、〈スペルカード〉調達の目処などを示せ。話はそれからだ」


 そう言うと対応を決めかねていた他のグループも悟に追従して同様の返答をした。


 最初のうち、デュームは悟の返信に取り合わなかったが、他のグループも続々大会参加を保留し始めると、デュームの事務所から悟の携帯に電話がかかってきた。

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