第94話 求心力の低下
彗は焦っていた。
『ダメぽTV』に出演後、デュームでは脱退者が相次いだのだ。
Twix上では、脱退者による失望の声が投稿されていた。
・如月さん、あの番組はないわ
・デュームやめてバイト始めます
彼らはTwixでそう呟いた後、事務所に来なくなる。
当世流行のSNS退職である。
内部での造反も後を絶たなかった。
・こんな時に何しょーもない番組に出てんだ
・セマユキに論破されるとかないわ
・無知を晒しただけじゃねーか
・まだ〈スペルカード〉禁止にこだわってんのか
・もうリーダー交代するしかねーべ
・こうなったら草間さんを立てるしかない
・いや桐沼さんや
(くっ。なぜだ。なぜこんなにも造反者が現れるんだ。あんなに『ダメぽTV』で〈スペルカード〉規制の有効性を説明したのに)
Twixではデューム脱退宣言と彗への批判で溢れていた。
実際、残存メンバーで招集をかけても反応は鈍い。
やむなく彗は〈スペルカード〉使用を解禁したが、「遅すぎる!」という批判が新たに沸き起こるばかりだった。
(とにかくこれ以上の求心力低下はまずい。こうなったら……)
学校の授業を終えた榛名、真莉、天音の三人は揃って下校しようとしていた。
「真莉、今日、美波と一緒にダンジョン潜るんだろ?」
「うん。美波ちゃんいっぱい企画案送ってくれたよー」
「活き活きしてますね。美波」
「きっとデュームでガチガチに縛られてたから、自由に飢えてたんだろ」
「デュームといえば……」
天音がスマートフォンを見ながら言った。
「如月さんの炎上止まりませんねー」
「なんか討論番組に出て炎上したんだろ? ただでさえ、壊滅状態だってのに」
「切り抜きでセマユキさんに論破されてましたね。榛名、番組見ました?」
「いや、見てない」
「私見たよー。悟さんと一緒に」
「えっ? 真莉、見てたんですか?」
「てか、悟と一緒に?」
榛名と天音が動揺したように聞いた。
「うん。見た見たー。一緒にソファに座って、二人っきりで見れたんだー」
真莉は両手でほっぺを包んで幸せそうにする。
が、そのあとすぐにしょんぼりする。
「でも、悟さん全然誘ってくれなかったー」
榛名と天音はそれを聞いてホッとする。
「ねー。なんでかなー。部屋で二人っきりになったのにー。手くらい握ってくれてもいいと思わない?」
「なんでって。お前そりゃ……」
「悟さんはプロデューサーなんだから。配信者に手を出すことはできませんよ」
「えー。そうなのー? はー。ショック」
真莉はしょんぼりする。
が、すぐに立ち直る。
「きっとこの前は服装が子供っぽ過ぎたんだよねっ。よーし。次はもっと大人っぽいコーデでいこっ」
「……なんでそうなるんだよ」
「真莉ったら。あんまりそんなこと言ってると、また週刊誌に変な記事書かれますよ」
「大丈夫。配信中はそんな素振り見せないから。真莉ちゃんに隙はないのだ」
榛名と天音はやれやれといった調子で肩をすくめ、顔を見合わせる。
「それにしても……」
天音はスマートフォンに心配そうに目を落とす。
「デュームさんは今後どうするつもりでしょうか?」
「体制の問題が露呈したからな。如月がリーダー辞任しない限り、炎上は収まらないだろ。あ、デュームのTwix更新された。ん? ウチらのアカウトにリプしてる?」
榛名がスマートフォンで更新ボタンを押していると、デュームの新たな呟きが投稿される。
それはC・エクスプローラーを含めた複数のグループ宛てに送られたリプライだった。
『デュームからの挑戦状。ここに第1回〈スペルカード〉大会を開催することを宣言する!』




