第89話 デュームの醜態
悟は改めてカボチャ頭からドロップしたアイテム〈身代わりの護符〉の説明欄を眺める。
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〈身代わりの護符〉
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この護符を貼り付けたアイテムは、他のアイテ
ムの受けた攻撃を代わりに引き受ける。
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(他のアイテムの攻撃を代わりに引き受ける!? ということは……、カボチャ頭のアイテム全破壊魔法を一身に引き付ける効果を付与できるのか? だとしたら〈ハガネ風車〉と組み合わせれば……。アイテムボックスや装備を解除せずに、カボチャ頭の攻撃を防御できるかも)
試しに〈ハガネ風車〉に〈身代わりの護符〉を貼り付けて、カボチャ頭と戦ってみたところ、予想通りアイテム破壊をかけられても、装備もアイテムも無事だった。
アイテム破壊はすべて〈ハガネ風車〉が引き受ける。
カボチャ頭は難なく倒せた。
(やっぱり。これを使えばカボチャ頭のアイテム破壊を完封できる。早速、榛名達にも知らせなきゃ。今、榛名達はどこに……ん?)
悟がそんなことを考えていると、マップの端に移動する反応が複数見られた。
こちらに近づいてくる。
「げっ」
(このプレイヤーの数。デュームか?)
明らかに統率の取れていない動き。
後ろからはモンスターらしき反応が追いかけてくる。
おそらくカボチャ頭に遭遇してアイテム・装備を破壊された後、ウェアウルフに追いたてられ、算を乱して逃走中といったところか。
「悟さん? どうかしましたか?」
こよみが不安げに顔をのぞいてくる。
「ちょっと想定外のことが起こった。走って離脱するよ」
「えっ? は、はい」
悟はこよみの手を引っ張って通路を走り抜ける。
開けた場所に出たところで、逃走中のデュームメンバーの集団に鉢合わせてしまう。
「ちぃっ」
(やはり、カボチャ頭にアイテム破壊されて困窮しているな)
悟は彼らの装備がボロボロで靴も履いていない有様を見て、嫌な予感が当たったことを悟る。
「あっ、探索者だ!」
「テメェ。アイテム寄越せコラァ」
デュームのメンバー達は悟とこよみを見るなりそう言って威嚇してくる。
「うそ。あの人達、デュームの!?」
「こよみ。逃げるぞ」
悟とこよみはさらにスピードを上げてデュームのメンバーから逃げる。
(もー。何なんだよー。せっかく悟さんと楽しく配信してたのに。もう私に付き纏わないでよー)
「こよみ。ちょっと飛ぶよ」
「えっ?」
「装備〈エア・シューズ〉」
悟は上に飛ぶ用の装備を身に付けると、こよみをお姫様抱っこして、普通のジャンプでは届かない上階に一足飛びに飛び上がる。
「あっ、待てコラァ」
「なんかアイテム置いてけコラァ」
「というか、お願いしますコラァ」
(しょうがないな)
悟は〈鬼火篝〉を彼らに向かって放り投げる。
「それを使えばウェアウルフは追い払える。あとは自分達で何とかしろ」
悟はそれだけ言って奥に消える。
デュームのメンバーは〈鬼火篝〉に群がる。
「うおお、アイテムだ」
「どけ。それは俺のだ」
「いや、俺が持つ」
彼らはせっかく生き残るチャンスを得られたにもかかわらず、誰がアイテムを持つかで醜い争いを演じてしまう。
その結果、離脱が遅れてしまいモタモタしている間にソロソロと近づいて来たカボチャ頭によって、せっかくもらった〈鬼火篝〉を破壊されてしまい、結局、ウェアウルフの餌食となるのであった。
♢
彗は少数の手勢を連れて、ダンジョン内を彷徨っていた。
後ろについていた何名かを犠牲にすることでどうにかウェアウルフの追撃は免れていたが、カボチャ頭にアイテムと装備もすべて破壊されてしまっていたため、逃げの一手しかなかった。
全員、服も靴もボロボロで見るも無惨な姿でダンジョン内を逃げ惑っている。
彗は息急き切って走りながら、手元に残っている唯一の道具スマートフォンに向かって怒鳴りつけていた。
「とにかく配信を切るんだよ。そう。全部だ。アーカイブも消せ! こんなもん見せられるか! 初めから全部。今すぐにだ。Twixの投稿もだぞ」
彗は忌々しげに通話を切る。
「チイッ。どいつもこいつも使えねぇ。指示待ち人間どもが。少しは自分の頭で考えろっての」
彗達が脱出用の魔法陣を目指して急いで駆けていると、同じく別の通路から逃げて来たと思われるメンバー達と鉢合わせる。
彗達は一旦足を止めた。
「あっ、如月さん」
「よかった。まだやられてなかったんすね」
「おう。お前ら。アイテムと装備全部寄越せ」
「えっ? あ、はい」
下っ端隊員は言われるがままアイテムと装備を差し出す。
幸いにも彼らはまだ〈風の護符〉を持っていた。
彗と桐沼ら取り巻きはそれを受け取るとまた走り出した。
「よし。じゃあな」
「ちょっ。待ってください」
「俺らどうすれば」
「知るか。自分で考えろ」
「配信は切っとけよー」
「ちょっ、そんなっ。ぎゃああああ」
下級隊員達は彗達を追いかけていたウェアウルフに襲撃され、体力を失い、生命維持カプセルに収容される。
彗達は下っ端らの悲鳴を聞きながら、命からがらダンジョンから脱出した。




