第79話 静林での遭遇
悟はこよみを迎えにいくために静林学園に向かっていた。
こよみからC・エクスプローラー加入を積極的に検討したい旨のメールがきた。
こよみに何らかの心情の変化があったことは間違いない。
今のうちに関係を築いておくのが賢明というものだろう。
「で、榛名、君はなんでここにいるの?」
悟は静林学園に行く途中で鉢あった榛名に尋ねる。
「もちろん! 静林学園に行くためだよ」
(ていうか、学校休んだのかよ)
平日なので、本来榛名は今頃、授業を受けているはずだった。
「なんで君は静林学園に向かってるの?」
「ジャーン。週間ゲンザイウェブ版の記事!」
榛名はスマートフォンを操って、ネット記事を悟に見せる。
「何? 君、ゲンザイ購読してんの? また、何かシーエクのことについて書かれてるとか?」
「違うよ。今回はデュームのこと。羽柴美波って子、知ってる?」
「!? ああ。もちろん」
「デュームの人気配信者なんだけどさ。最近、脱退したんだって。で、どうもこの静林学園に通ってるみたいなんだ」
(!? 美波も静林学園に通ってたのか)
「へえ。それは知らなかったな」
「だから、コラボでも持ち掛けようと思ったんだけど。まさか悟も静林学園に用事があったとはね。あ、もしかして悟も美波を探しに来たとか?」
「いや、それとは別件。この子と交渉を詰めにいく予定だったんだ」
悟はスマートフォンを起動してこよみのチャンネルを榛名に見せた。
「お、新規加入してくれる奴見つかったの? ……登録者数はあんまり多くないな」
「うん。でも、僕の見る限りなかなか有望だよ」
「まあ、悟がそう言うなら……」
「美波が静林学園に通ってるっていうのは確かなのか?」
「うん。彰人に鬼電して聞きまくったから」
悟は草間彰人のことが気の毒になった。
榛名にしつこく鬼電されてイライラしながら対応している彰人の姿が目に浮かぶ。
(まあ、でも美波も静林学園にいるなら話は早い。見かけたら、ついでに声かけてみるか)
♢
静林学園についた悟と榛名は1級冒険者ライセンスを見せて、学園内に入る。
あらかじめ来訪を告げていたこともあって、すんなり通してもらえた。
冒険者ライセンスはこういった施設への立ち入りにも融通が利くのだ。
「霧崎こよみさんと面会ですね。お聞きしております。どうぞ」
悟と榛名が連れ立って学園の敷地内を歩いていると、こよみとは別のお目当ての人物が向こうの方からやってきた。
「あ、榛名だ! 悟もいる!」
特徴のある声の方を見ると、首にヘッドホンをかけてキャンディのようにポップな色使いの髪をした生徒、羽柴美波が走って近づいてくる。
コーラのように甘いけれどパチパチ弾けるような印象的な声だった。
「C・エクスプローラーの榛名と悟だよね? 私、ファンなんだ。一緒に撮ってよ」
美波はするっと2人の懐に入ると、スマートフォンを取り出してカシャカシャ写真を撮り始める。
榛名と悟も勢いに押されてついつい美波のペースに巻き込まれてしまう。
2人としても可愛い美波に肩を寄せられたり、二の腕を掴まれたりすると満更でもない気分になる。
(ちょこまかとした動きが速いな。榛名並みか?)
デュームと揉めている最中だというのに、微塵も動揺は見られない。
前向きな性格のようだった。
「なんで静林にいるのー? あ、もしかして私をスカウトしに来たとか?」
「えーっと、半分当たり、半分外れってところなんだけれど……」
「? なにそれ?」
悟が美波とそんなやり取りをしていると、こよみがやってくるのが見えた。
「悟さん。お待たせしました。えっ? 美波?」
「あれ? こよみじゃん。悟と知り合いなの?」
「えっ、えっと……」
「霧崎こよみは今、僕が勧誘してる最中なんだ。C・エクスプローラーに」
「なんだ。じゃあ私をスカウトしにきたわけじゃないんだ」
美波はガッカリと肩を落とす。
「いや、そういうわけでもない」
「?」
「静林にいるとは知らなかったけど、いずれは君にも声をかけるつもりだった」
「お前、羽柴美波だろ。この前、デュームを電撃脱退した」
榛名がそう言うと、美波は不敵な笑みを浮かべる。
「ふーん。そっちも私に用があるってわけか。ちょうどよかった。私もシーエクと話したかったんだよね。主に〈スペルカード〉の件で」
(なるほど。単に明るいだけの子ではなさそうだな)
悟はそう思った。
「よし。それじゃあ、丁度いいし、みんなで打ち合わせしよっか」
4人は静林学園内にあるカフェテリアへと向かった。




