第75話 炎上合戦
悟、榛名、真莉、天音は、事務所に揃ってPC画面を顰めっ面で見ていた。
「いやー。見事に炎上しちゃいましたねー」
真莉がSNSの検索画面を見ながら言った。
C・エクスプローラーは全般的に燃えていたが、主に榛名が一番燃えていた。
「てへっ」
「『てへっ』じゃなーい」
真莉は榛名の襟首を掴んでぐわんぐわん揺さぶった。
「何性懲りもなくまた炎上してんだよアンタはー」
「だって、デューム信者がコメント欄にいるとか知らなかったもんよー」
「すまない。ゲンザイの記事が出てるのは絢音さんから教えてもらっていて知っていたんだが……。みんなに共有するのが一歩遅くなってしまった」
悟が申し訳なさそうに言った。
「でも、榛名の言うことももっともじゃありませんか?」
天音が落ち着いた調子で言った。
「今季のダンジョンで〈スペルカード〉もなしに潜るなんて自殺行為もいいところです」
「そうなんだよね。これに関してはデュームの方が間違ってるところがあるし。何も間違っていないところが難しいところだ」
悟が苦悩を滲ませながら言った。
「だよな。私は何も間違ったこと言ってねーよ」
「アンタが偉そうに言うなし!」
「それでどうするんですか、悟さん? 謝るのもおかしいし、かといって炎上している以上何もしないというのもマズいと思うのですが……」
「それについては向こうの方から道筋をつけてくれた」
悟は先ほどアップされた彗の動画を再生する。
『ダンジョン配信者なのに〈スペルカード〉に頼ってる奴。マップスキルに頼ってる奴。弱いって。厳しいって。危機感持った方がいいよー』
この動画を出したことによって、彗とデュームも絶賛炎上中だった。
「まさか榛名の煽りに被せてくるとは。如月さんもなかなか火力高いお方ですね」
これには天音も悩ましげに前髪をいじるのであった。
「まあ、こうしてせっかく相手がプロレス形式に持ち込んでくれたんだ。こっちもこれに乗っかろうと思う」
「あえてネット上でのレスバトルを受けて立つと言うわけですか?」
「うん。おそらくこの後、C・エクスプローラーとデュームで対決する雰囲気になって、動画を出し合う度に比較されることになると思う。当然、勝った方は権威が増すだろうし、負けた方は叩かれることになる」
「プレッシャーすごそー」
「勝算はあるんですか?」
「もちろん。デュームは彗が〈スペルカード〉を使わない縛りを設けている以上、どこかで無理が祟って息切れすることになると思う。そうなれば……」
「デュームの知名度を逆手にとってリスナーと再生数を獲得できるってわけか」
「そう。ただ、このやり方は当然、諸刃の剣だ。デュームという最大規模のグループと競合するプレッシャーに晒されながら、ダンジョン配信を続ける精神力が必要になる。みんなそれをするだけの覚悟はあるかい?」
「もちろん。私はいつでも受けて立つぜ!」
「仕方ないですねー。〈スペルカード〉は今後も使いますし」
「相手の方が間違ったことを言っている以上、引き下がるわけにはいきません」
「よし。それじゃあ、今後はデュームとの対決を念頭においた企画を立てていくよ」
「「「おー」」」
悟はC・エクスプローラーの公式Twixで『今季、〈スペルカード〉は絶対必要! むしろ〈スペルカード〉なしにダンジョンに入るのは自殺行為』と煽り気味に投稿して、彗の主張に真っ向から対立する姿勢を示した。
こよみは昼休み、隣のクラスを覗きにいっていた。
扉からそっと頭を出して覗き見ると、髪を短く切ったボーイッシュな女子がクラスの友達と一緒に喋っている。
彼女の名前は蒼井灯華。
こよみが炎上するまでは一緒にダンジョン配信をしていた相棒である。
こよみがずっと覗いていると、灯華と一緒に昼食をとっている1人がこよみに気付く。
「あれ? あの子灯華の友達じゃない?」
「ん? ああ」
「こっち見てるよ。何か用事あるんじゃない?」
灯華はやれやれといった調子で仕方なく立ち上がって、こよみと一緒に廊下に出る。
「何の用?」
「あの……、えっと……」
「何度も言うけど、もう君とは配信活動できないよ」
「……」
「デュームみたいな大手グループとトラブルになった時点で、もうコラボなんて無理でしょ。こんな状態じゃ再生数も稼げないよ」
「じゃあ、私が再生数を稼げるようになったら……」
「稼げるようになったらね。それじゃ……」
灯華は会話を打ち切って、教室に戻る。
こよみは灯華を見送ると、ポケットの中から名刺を取り出してギュッと握る。
そこには悟の連絡先が載せられていた。




