第71話 ダウナー系魔法使い
悟は事務所で作業しながら、3人の配信をチェックしていた。
『と、まあ、こんな感じで上手く立ち回れば〈スペルカード〉節約できるのでみんなもやってみてね』
『せいっ』
『はー。トラさん、いい匂いです』
(3人ともいい感じだな。〈スペルカード〉を使いながら、自分の適性を活かして、上手く配信企画に落とし込んでいる)
同接数もコメント数も好調だった。
(あとは新規メンバーの募集か)
悟は各種配信サイトを巡って、良さげなメンバー候補を探していたが、なかなか見つからなかった。
新着動画にずっと張り付いて、目ぼしい配信者がいないかチェックしているが、なかなか見つからない。
今季のダンジョン配信に意欲的で、まだ人気が出ておらず、ポテンシャルが高そう、そして都内のダンジョンに赴くことができる。
そんな配信者を探しているが、なかなか見つからない。
特にカボチャ頭の悪魔に対抗できそうな配信者を探すのは喫緊の課題だった。
当然のことながら、すでに伸びている配信者はどこかの事務所に属しているし、弱小配信者は今すぐ、榛名達とコラボできる即戦力にはなりにくい。
いいものを持っているのに配信企画の知識がないせいで燻っている、もしくはまだ芽が出ていないが少し手を加えるだけで飛躍的に伸びる素質を持っている、そんな人材を探し出す必要がある。
(やっぱりなかなかいないよな)
ふと、ライブ配信の画面を流していると、数値の変動が激しいチャンネルが目に入る。
(ん?)
微かな違和感だった。
決して多くも少なくもない同接数。
サムネイルに映っている顔も可愛いといえば可愛いが、まあこのくらいなら決して珍しくもない。
ちょっとダウナー系な感じの少女。
街を歩いていればよくいるレベルの容姿。
だが、悟の違和感に引っかかった。
画像に映る姿はわざと地味な見栄えになるように映している。
そんな違和感だった。
なんともなしにクリックする。
勘は当たっていた。
サムネイルの画像は明らかにそこまで写りのよくないものを採用していた。
動画で動いているのを見るに、撮ろうと思えばもっと可愛く撮れるはずだ。
ただ、動画でもやはり不安定だ。
撮影角度によって可愛くなったり、オーラがなくなったりする。
ドローンの設定を初期のままでただ撮影しているようだ。
もしかしたら自分が可愛く映る角度に気づいていないのかもしれない。
悟は動画を流しながら、チャンネルのすでにアーカイブに上がっている動画や彼女のSNSもチェックする。
名前は「霧崎こよみ」というようだ。
案の定、動画によって再生数にばらつきがあり不安定だった。
まだ、自分の強みについて自覚していないことが窺える。
試しに連絡を取ってみようと思ったが、コメント欄もダイレクトメールも閉じられてる。
(なんで連絡拒否してるんだろ。配信はしてるのに)
SNSや検索エンジンを使い「霧崎こよみ 事件 炎上」といったキーワードで調べてみる。
(あ、炎上してる。デュームと揉めたのか)
Twixでデュームを批判したせいで炎上したみたいだ。
どちらが悪いのかは分からないが、一悶着した痕跡がネット上に残っている。
(ジョブは?)
配信を見ていると、彼女は現れたゴブリンに対して呪文を唱える。
ゴブリンは氷漬けになる。
(魔法使いか。いいね)
呪文だけで攻撃できるなら、カボチャ頭にアイテムボックスを破壊されても対抗することができる。
倒したゴブリンからはマントのアイテムがドロップした。
『あ、マントだ。せっかくだから試してみよ。〈スペルカード〉耐久付与』
(!? 〈スペルカード〉を使うのか?)
彼女は〈スペルカード〉をマントに対して発動した後、怪訝そうに画面を見つめる。
どうもドローンに表示されている同接数を確認しているようだ。
『何これ。全然役に立たないじゃん。〈スペルカード〉使えば、同接増えるんじゃないの?』
ため息を吐いてガッカリする。
『はー。偽情報掴まされちゃったかなぁ。結構、高かったのに。あ、しかも次の部屋トラップだ。やだなぁ。別の道行こ』
(〈スペルカード〉の使い道をまったく理解していない。ますますいいね。これはスカウトできるかも)
魔法使いということは魔力を大量に消費するはず。
それは今季の重点アイテム〈魔石〉が大量に必要だということを意味する。
となれば、マップスキルのアイテム情報と〈スペルカード〉の使い方についての情報は欲しいはず。
それだけでもスカウトできる確率はかなり高くなるだろう。
しかも自分なりに情報収集している。
やや的外れとはいえ、〈スペルカード〉が今季の鍵であることを突き止めている。
自分なりに勉強して、情報収集する意欲はあるということだ。
これなら少し手解きするだけで爆速で伸びる可能性は高い!
着ている制服は榛名達とは違う学校のものだ。
(静林学園か)
調べてみるとそう遠くはない。
(行ってみるか)




