第69話 フェンリルの嗅覚
順調に〈魔石〉や〈ポーション〉を取得していった真莉だが、スーツケースにアイテムを入れすぎて持ち運びが困難になっていた。
両手で引っ張ってどうにかスーツケースを引きづる。
「んしょ。んしょ」
・だいぶアイテム稼いだね
・そろそろ重さ限界やろ
・スーツケースの中身軽くした方がいいんじゃない?
そうこうしているうちに階段に辿り着く。
・あちゃー、階段に当たっちゃったねぇ
・これはもうアイテム捨てるしかないか?
「もうアイテムを捨てるしかない。みんなそう思ってるね? ところがどっこい。そうでもないんだな。ジャジャーン。こちら取り出しましたるは〈浮遊石〉!」
真莉は緑色に光る石を取り出した。
「これをスーツケースに入れれば、あら不思議。スーツケースに浮力が発生して、地面からちょうどいい高さに浮かび上がるよ。これで階段でも持ち運び簡単!」
真莉は浮かび上がったスーツケースを引っ張って階段を登っていく。
浮力の発生したスーツケースは階段の段差を難なく越えていく。
・おおー
・〈浮遊石〉ってこんな使い方あるんか
・これならいくらでもアイテム入れられるね
・頭いい!
「こんな風にスーツケースを乗り物にすることもー……ん?」
真莉がスーツケースを横倒しにして、その上に乗り、乗り物にして遊びながら進んでいると、階段の上の方からゴブリンがやってくる。
真莉はスーツケースから降りて取っ手を掴んだ。
「せいっ」
真莉は浮かんだスーツケースに遠心力を加えて、ゴブリンを殴打する。
浮かんでいるとはいえ、質量と硬度はバッチリあるので、力さえ加えれば充分鈍器として用立てることができた。
遠くからさらにゴブリンが押し寄せて来ているのを見た真莉は、スーツケースの取手を握ってその場で回転し、充分な遠心力をつけて解き放つ。
スーツケースはゴブリンの群れをまとめて吹き飛ばし、壁に激突させた。
・ハンマー投げか?
・ハンマー投げスタイルw
・なんやかんやハンマーは普段から使い慣れてるからなぁ
・よく考えられてる
♢♢♢
天音はフェンリルに匂いを嗅がせながらダンジョンを探索していた。
フェンリルはピクリと何かを嗅ぎ取ると「グルル」と唸る。
「む、皆さん、どうやらフェンリルさんが敵を嗅ぎ付けたようです」
森の中にあるアイテム、その前面にはトラップも見受けられる。
「皆さん、どうしましょう。〈スペルカード〉使うべきだと思いますか?」
・使っていこ
・フェンリルさんの嗅覚はバカにできない
・使おー
・使う
・使う
「では、使いますね。〈スペルカード〉耐久付与発動」
天音の配信では、このようにリスナーに相談するのは珍しいことではなかった。
常連のリスナーの間では、天音が指示出しオーケーなのは周知の事実なので、みんな遠慮なく指示と助言を出す。
「よし。スペルをかけました。これであのアイテムには耐久が付与されたはずです。では、行ってみましょう」
天音はトラップに足を踏み入れた。
トラップの種類は素早さ低下。
天音は同じ速度で歩いているにもかかわらず、自分の歩幅が短くなっているように感じた。
トラップを踏み越えて、アイテム〈浄化水〉に近づくと、ゴブリンが現れてアイテム破壊の魔法をかけてくる。
「フェンリルさんっ」
天音が鎖を引っ張りながら短く指示すると、フェンリルが飛びかかってゴブリンを屠る。
ゴブリンはアイテム破壊にこだわったため逃げ遅れてしまい、スピードの遅くなったフェンリルの爪からも逃げられなかった。
「やりました。皆様の指示のおかげでアイテム〈浄化水〉が手に入りましたよ」
・わーい
・自分のことのように嬉しい
・いやいやそれほどでも
・天音ちゃんナイス!
天音は〈浄化水〉を飲んで、フェンリルにも与えてやり、素早さ低下のデバフを解いた。




