第66話 決裂
「おっ、来なすったようだぜ。今日、成果を持ち帰ったもう1組が」
マスターがデュームの方を見ながら言った。
彗が例の如く手下を引き連れて先頭を歩いている。
悟達としてはあまり会いたくない相手だった。
真莉はさっと席替えして、天音の影に隠れる。
彗は、当然のように悟達の座る特等席に割り込もうとする。
マスターと鷺沢は顔見知りなので気さくに話しかける。
「よお。彗。いつもながら大所帯だな。助かるぜ」
「ランキング見たわよー。今日の配信。絶好調だったそうじゃない」
「鷺沢さん、今日も綺麗だね。マスター。店のみんなに一杯奢ってやってくれ」
「うおお、マジっすか」
「あざますっ」
店内は奢ってもらえると聞いて湧き立った。
「あら、粋な計らいね」
「いいのか? そんな大盤振る舞いしてもらっちゃって」
「今日は餞別だ。特に榛名。彼女には一番いい酒を頼む」
「あ、私はいいっす。間に合ってるんでー」
「彗、榛名は未成年だ。そういうのはよしてくれないかな」
彗は悟の言うことは無視して、榛名のグラスのすぐ横に体を預ける。
「ご機嫌斜めだな榛名。まあ、分かるよ。アイテム破壊を使うモンスターに苦戦したんだろ? だが、これで分かっただろう。悟の下では君の力は存分に発揮できない。デュームに来い」
「行かねーっつってんだろ」
「よし。分かった。それじゃあ、こういうのでどうだ? 重点アイテムの獲得数で競争しよう。それでもし我々が勝ったらデュームに入ってもらう。どうだ?」
「だから入らねーって。なんだよその条件。何一つこっちにメリットねぇじゃん」
「もし君が勝ったらコラボしよう」
「ますますメリットねーな」
「なんでだよ!」
彗は苛立ちを隠し切れず声を荒げる。
「私らは自力でダンジョン攻略できるからだよ」
「……榛名、以前から思っていて、あえて黙っていたんだが、君はちょっと他人に対する敬意が欠けているんじゃないか?」
「そっちもな」
「あの、ちょっとよろしいでしょうか」
天音が割って入る。
「ん? 何かな天音ちゃん」
彗は愛想良く応じる。
「デュームさんの配信、先ほどパッと見たのですが、多人数を動員したアイテムボックスの容量頼りの人海戦術と人数をかけて敵を火力で圧倒するパワープレイだとお見受けしました」
「おっ、君はちゃんとデュームの強さを分かっているようだね。マスター、この子にもワインのボトルを開けてやってくれ。彼女のデューム加入を祝して乾杯だ」
「いりません。というか私も未成年ですし、デュームにも加入しません。話を戻しますね。お聞きしたいのですが、なぜ〈スペルカード〉を使わないのでしょうか?」
彗はキョトンとする。
「やはり、〈スペルカード〉をご存知なかったようですね」
「よく分からないけど、その〈スペルカード〉っていうのを手に入れれば君はデュームに加入してくれる……ということかな? いいだろう。君のために下の奴らに探させるよ」
「いいえ。そういうことではありません。何が言いたいかというと、〈スペルカード〉の価値も理解できないようなグループには加入はおろか、コラボもするつもりはないということです」
天音がそう言うと、酒場にいた探索者達は一斉にスマホを取り出して、〈スペルカード〉について検索し始める。
みんななんだかんだ言って、シーエクとコラボしたいのである。
「ふー。天音ちゃん。〈スペルカード〉っていうのが何なのか知らないが、どっかの誰かに騙されてるんじゃないのかな? まあ、誰にそんな怪しげなものを吹き込まれたのかは知らないが、君はその可愛さで再生数を稼いでいるに過ぎない。その誰かは君を騙すために〈スペルカード〉なんて意味のないものを方便にして持ち出している。そうじゃないかな?」
天音はムッとする。
「そうですか。でも、私はそのどっかの誰かのことを尊敬しているんです。敬意を払えないような方であれば、ますますコラボはできませんね。失礼します」
天音はそっぽを向いて悟の隣に座り直した。
「私もできませーん」
「そうだ。そうだ。まずは悟に頭下げてからにしろよ」
彗は気を悪くして表情を険しくする。
「さっきから何なんだ君達は。他人のやり方にまで文句をつけ始めて。デュームは以前からこういう風にやってきたんだ。他グループのやり方に外部が口を挟むなんて失礼じゃないか」
(だからそれはお前だろーが)
「そんなにマップスキルが凄いと言うのなら今日の配信はどれだけ稼いだって言うんだ? 俺は〈魔石〉を10個集めたぞ」
「〈魔石〉28個」
「〈回復薬〉12」
「〈浄化水〉も10集めました」
彗はぐっと詰まる。
デュームは10階層までたどり着いており、更新後初めての探索にしては頑張った方だが、ボスモンスターまではたどり着けていなかった。
また〈スペルカード〉で防御できなかったため、アイテム回収率も悪かった。
「何だ? お前ら仲悪いのか?」
「ちょっと勘弁してよ。ここお店なんだから。配信者同士の諍いはよそでやって」
見かねたマスターと鷺沢が割って入る。
「ふん。今日のところは引き下がってやるよ。言っておくが、君達は運良くアイテムを集められたにすぎない。その強運がいつまで続くか見ものだね」
彗は下っ端を引き連れて店を出て行こうとする。
「ちょっと待った!」
悟が彗の後ろ姿に声をかける。
彗は首だけこちらに向ける。
「彗、デュームの今のやり方ではいずれ限界が来るよ」
「何?」
「アイテムボックスの中身を破壊するモンスターに遭遇したんだ。新種のモンスターだ。人海戦術でアイテムボックスを増やす今の戦術じゃいずれ対応しきれなくなるだろう」
「ふん」
彗は鼻を1つ鳴らすと手下を連れて店を出て行った。
悟は肩をすくめる。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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